コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 32

新語・流行語大賞

2022年11月09日 09時00分

 女性アイドルグループ「モーニング娘。」などの総合プロデュースを手掛ける音楽家の「つんく♂」さんは、これまで数々の流行を生み出してきた。世の中に新しい価値を提供することに意義を見いだしてきた人なのだろう

 ▼自らがボーカルを務めたバンド「シャ乱Q」のヒット曲『シングルベッド』(つんく♂作詞、はたけ作曲)の歌い出しもこんな調子だった。「流行の唄も歌えなくて ダサイはずのこの俺―」。流行への強いこだわりを感じる。28年前の曲だが、多くの人が一つの流行に乗る当時の雰囲気をよく表しているのでないか。今はそのころとだいぶ違う。ユーキャン〈新語・流行語大賞〉を見てあらためて気づかされた

 ▼先日発表されたことしのノミネート30語を眺めると、聞いたこともない言葉が多いのである。例えば「インティマシー・コーディネーター」「OBN」「ヌン活」「リスキリング」。一体どこで話題になった何なのか。知らない新語・流行語は年を追うごとに増えていくようだ。趣味や関心が多様化し、大きな流行が起きにくくなっているのかもしれない。人々の意識がコロナと物価高に集中していることも影響していよう。昨今の国民はつんく♂さんがうまく笛を吹いても、一斉に踊ったりはしないのだ

 ▼それでも道民としては、北海道日本ハムファイターズ関連で「きつねダンス」と「BIGBOSS」が選ばれたのは素直に喜びたい。前回は本道に関係する新語・流行語が一つもなかった。それはそれで寂しい。たまにはみんなそろって踊るのも楽しいものなのである。


聖なる休戦

2022年11月08日 09時00分

 紀元前5世紀頃の古代ギリシャでは、幾つかの有力なポリス(都市国家)が勢力拡大にしのぎを削っていた。最も知られているのは支配権を強めるアテネに脅威を覚えたスパルタなどが同盟を組み、長く大規模な戦いを繰り広げたペロポネソス戦争だろう

 ▼戦いは絶えることなく、いつまでも続いた。ただ、休戦がなかったわけではない。ご存じと思うが、4年に一度のオリンピア競技中だけは戦いをやめたのである。「聖なる休戦」と呼んだそうだ。これが1896年に始まった近代オリンピックの基本理念「平和の祭典」につながる。戦争や政争を排し、世界中の人びとが等しくスポーツを楽しみ広めることで平和を実現しようとしたのである

 ▼近年はその理念もいささかかすみがち。昨年は東京五輪に絡み、大会組織委員会の元理事が複数のスポンサー企業から賄賂を受け取っていた疑いが浮上し、大きな汚職事件に発展した。争い事ではないにせよ、純粋にスポーツを楽しむ五輪の精神とはかけ離れている。札幌市が2030年招致を目指す冬季五輪も、この汚職で逆風にさらされている。一般の心配とは別に、政権批判に東京五輪を利用していた勢力が札幌に戦場を移した側面もあるようだ。「江戸の敵を長崎で討つ」の類いである

 ▼五輪はどこの国でもできるわけではない。スポーツの祭典を担うのは責任ある役目であると同時に平和への貢献そのもの。それだけに五輪を政争の具に利用しようとする昨今の動きには違和感を覚える。政争は休戦とし、五輪を巡る戦いはスポーツだけにしてはどうか。


立冬 鍋の日

2022年11月07日 09時00分

 美食家として知られる芸術家の北大路魯山人は、今生きていれば間違いなく「鍋奉行」と呼ばれていただろう。それだけに焦点を絞った「鍋料理の話」(1934年)という随筆を残しているくらいだ。こだわりがすごい

 ▼いわく、「材料は生きている。料理する者は緊張している。そして、出来たてのものを食べるというのだから、そこにはすきがないのである」。箸をつけるのも命がけ、といった雰囲気さえ漂う。その他にも、くたびれた材料は入れるな、貝は味を悪くする、たれの濃さは最初から最後まで一定にせよなど注文が多い。新鮮な魚や野菜をその場で調理し、熱々のまま食べられる鍋が魯山人は大好きだったのである。それゆえに思い入れが強い

 ▼そんな鍋が恋しい季節になった。きょうは立冬。いい(11月)鍋(7日)の語呂合わせで「鍋の日」にも制定されている。本道は先週後半から気温が一段と下がり、平地でも初雪の便りを聞いた地域があるそうだ。ここからは冬本番まで瞬く間である。この時期、日本気象協会が「鍋もの指数」を発表しているのはご存じだろうか。寒さや空気の乾燥具合から「食べたい指数」をはじき出している。100が最高で、先週の道内は80を超えた地域が多かった

 ▼「遅れ来ていつのまにやら鍋奉行」山根貞子。夏の間眠っていた奉行もそろそろ目を覚まそう。魯山人はさらにこう記す。「私は『なべ料理』の材料の盛り方ひとつにしても、生け花と寸分違わないと思っている」。まあ奉行もほどほどに。われわれはもっと気楽にやろうではありませんか。


依頼された男

2022年11月04日 09時00分

 普段は気にもしていないのに、人生で壁に突き当たり、難しい選択を迫られると急に意識されてくるのが心というものだろう。ところがこの心、自分のものなのによく分からない。「生きるべきか死ぬべきか、それが問題だ」とハムレットが言った通り、両極の間を激しく揺れ動き、つかみどころがないのである

 ▼実はそれも当たり前で、臨床心理士の東畑開人さんによると、「誰にでも心が複数ある」からだという。例えば孤立したとき、心は周りを敵として拒絶する。ただ、助けを求める心もどこかにある。こちらが本音だが心の声はかすかで、拒絶の叫びにかき消されてしまう。そのかすかな声に応えるのが心理士の仕事だというのである。『聞く技術 聞いてもらう技術』(ちくま新書)に教えられた

 ▼自殺の手伝いを人助けとうそぶく者の誤りもそこにあろう。先月、札幌市内の自宅アパートで大学生の女性(22)を殺害したとして逮捕された小野勇容疑者(53)もそんな誤った考えを持つ一人でないか。報道によると小野容疑者は、女性に「殺してほしい」と頼まれたから殺害したと供述しているそうだ。依頼がもし事実でも、それを聞いた者の取るべき行動が自殺の手伝いでよいはずがない

 ▼何らかの苦しみから逃れたかった女性は、解決策としての死にとらわれていた。望みは苦しみから逃れることで、本当に必要なのは助けを求めるかすかな声をそっと拾い上げ、苦しみから抜け出すのに手を貸してくれる人だった。自己満足のために、自殺したい人をSNSで捜し回るような卑劣な男でなく。


不登校の小中学生増える

2022年11月02日 09時00分

 社会経験は浅いのに、子どもはときに人生の本質を突く言葉を発したりする。読売新聞「こどもの詩」を集めた『ことばのしっぽ』(中央公論新社)にもそんな詩があった。中学2年(当時)上野佑君の「僕の幸福」である

 ▼「生きているだけでも幸せなんだよ よくこんな言葉を耳にする 確かにそうかもしれない でもそれは最低限の幸せであって 本当の幸せとはもっと 豪華で華やかなものだと 僕は思う」。「生きているだけでも幸せ」。いかにも大人が言いそうなフレーズである。事実ではあるが、歳を重ねてやっと分かることでないか。言われた子どもが、余計なことは考えるなと我慢を強いられている気がしたとしても不思議はない

 ▼子どもたちはコロナ禍の中で、どれだけそんな言葉を聞かされてきたことか。「豪華で華やか」どころか、普通の生活を送ることさえ望めない状況だった。不登校の小中学生が今、異常なペースで増え続けているのも、我慢ばかり強いられてきた日々の反動だろう。文部科学省が先月27日発表した児童生徒の諸課題調査によると、昨年度の小中学生の不登校は24万4940人で、前年度を4万8813人も上回ったそうだ。小中高校でのいじめも61万5351件と約2割増え、自殺も後を絶たない

 ▼文科省も人とのまともな交流を難しくしたコロナ禍の影響が大きいと見て、対策を強化する構えという。文句の言えない子どもにばかりしわ寄せが行ってしまった。「生きているだけでも幸せ」などときれい事を言っている場合ではない。生きる質が問われている。


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