コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 31

レコメンド

2022年11月16日 09時00分

 夕食を食べようとまだ行ったことのない飲食店に入り、何を頼もうかとメニューをにらむ。品数が豊富でどれもおいしそうだ。これにしようか、でもあちらにも引かれる。なかなか決められない。うれしくも悩ましいひとときである。さてそんなときはどうするか

 ▼壁などに掲示されている「当店のおすすめ」をまず注文してみる人が多いのでないか。その店の味がどれほどのものか、確かめるには最適の選択だろう。食事に限らない。最近は映画や音楽もメディアでよく「おすすめ」が紹介される。英語の「レコメンド」という言葉が使われるが、おおよその目安を知るには大いに役立つ。ところでこのレコメンドを巡って今、騒動が持ち上がっている

 ▼北海道日本ハムファイターズが来春開業する新球場「エスコンフィールド北海道」の件である。完成間近のこの段階になって、ホームベースからバックネットフェンスまでの距離が「公認野球規則」に定められた18・288mより3mほど短いと分かったのだ。さあ大変。公式試合に使えないと大騒ぎ。ただ、よく聞くと規則は米大リーグから持ち込んだもの。距離はレコメンド(勧める)だったのに日本で「必要」と訳してしまったらしい。本家は目安でしかない

 ▼とはいえルールを見落としたのは日ハム側の過失。日本野球機構はオフ後に改修する条件で来季の使用を認めたそうだ。ファンとしてはもやもやが残る。ビデオ判定を求めるリクエスト制度だって昔はなかった。安全面で問題はなく、ファンも喜ぶならルールの方を見直すことがあっていい。


任天堂がカスハラ対策

2022年11月15日 09時00分

 それほど頻繁ではないが、買い物や外食をしていると強い調子で店員に文句を言っている人を見ることがある。声が大きいため聞くともなく聞いていると、ただの言いがかりだったりして

 ▼落語にも「居酒屋」という噺があった。ふらりと訪れた酔客が店の小僧にしつこく絡むのである。小僧が品書きを「おひたし、たら昆布、つゆ、アンコウのようなもの…」と並べると、「じゃあ、のようなもの一つ」とからかう。「タコが赤いな」と鎌をかけておいて、小僧が「ゆでると赤くなるんです」と答えると、「鳥居もゆでたのか、猿の尻は」と万事この調子。迷惑この上ない。今ならカスタマーハラスメント(カスハラ)と呼ばれるところだろう

 ▼お客様は神様と大目に見られたのも今は昔。そんな甘えはもう通用しない。ゲームメーカー大手の任天堂が先月から、製品の修理サービス規定にカスハラの項目を追加した。顧客の暴力や迷惑行為が認定された場合、交換や修理をしない可能性があると明記したそうだ。任天堂といえば顧客の困り事に期待以上のサポートで応える「神対応」で知られる。その会社が対策に踏み切らねばならなかったのだから、事態は相当深刻なのに違いない

 ▼厚生労働省の2年前の調査で、過去3年間にパワハラを経験した人の割合は31.4%、セクハラが10.2%、カスハラが15%だった。中でもカスハラは他のハラスメントに比べ増加が目立つという。いわゆる「モンスタークレーマー」が増えているのである。「鳥居もゆでたのか」などと絡まれては社員もやっていられまい。


コロナ再拡大

2022年11月12日 09時00分

 山登りを趣味にしていても、いつも余裕で楽しく歩けているわけではない。特に奥深い山を目指すときなどは途中でくじけそうになることもしばしばである

 ▼例えば本道でいうと東大雪の石狩岳。石狩山地の最深部にあり、次々と現れる頂上のような高みが登山者を悩ませる。一つ登り切って頂上に着いた思うと行く手にもっと高い山がある。そこにたどり着くと、さらに高い山が向こうにそびえているといった具合。本物の頂上に着くまでこれが延々と続く。必死に登って頂上に着いたと喜ぶと、目の前に一層大きな山が現れる。気持ちが折れるのも無理はない。最近の本道の新型コロナウイルス感染拡大グラフを見て、それと似た脱力感にとらわれている

 ▼再拡大は全国的な傾向だが、中でも本道はこのところ新規感染者数が連日過去最多を更新。東京を抜き47都道府県でも最多を記録している。8600人を超える8月の山をようやく越えたと安心していたら、今度は9500人を上回る山が行く手をふさぐ。今は大きな観光イベントがある時期でもない。相変わらず感染の大本がどこなのか分からないのだ。変異で感染力も増しているのだろう。気温の低下や空気の乾燥も関係しているのかもしれない

 ▼きのうも本道の新規感染者は7911人に上った。自然治癒がほとんどで治療法や薬も開発されているとはいえ、患者が増えて医療が逼迫(ひっぱく)すれば助かる命も助からない。まずは諦めたり投げ出したりしないこと。一人一人が地道に感染防止対策を続けながら山に立ち向かっていくしかない。


増税の流れ強まる

2022年11月11日 09時00分

 江戸時代の中期以降、全国で百姓一揆の発生する数が増えた。飢饉や自然災害が相次いだためである。財政が悪化した藩の中には、困窮する農民の事情に一切構わず、年貢をさらに重くして乗り切ろうとするところがあった

 ▼財政規模を維持することが目的化し、農民を数字合わせの道具としか見ていなかったわけだ。農民としては暮らしも命もかかっている。怒り、抗議に立ち上がるのも当然の成り行きだったろう。民の状況を顧みず年貢を取り立てる藩と今の政府が重なって見える。このところ増税を求める議論がかまびすしい。先日、政府の税制調査会が消費税率引き上げ必須論の花火を打ち上げた。自動車の走行距離に応じて課税する走行距離税を導入するようにとの意見も出たそうだ

 ▼これに呼応するように自民党の税制調査会も、各種財源確保のため所得税や法人税を引き上げる方向で検討に入ることを表明。公明党からも同調の声が出た。岸田首相もかねてから金融所得課税の強化を打ち出している。コロナ禍で疲れ切り、賃金の上昇もないまま急激な物価高にさらされている国民に突きつけられた数々の増税話。かつての農民同様、多くの国民にとっては乾いた手ぬぐいをさらに絞られる気分だろう

 ▼消費税率引き上げの際には所得税減税などを同時に検討し、直間比率の見直しも進めるものだがそんな気配もない。昨年度の国民負担率は実に48%に上っていたのにである。かくなる上は一揆に出るしかないか。いや、もう始まっていよう。世論調査での岸田政権に対する支持率の低さがそれだ。


皆既月食と惑星食重なる

2022年11月10日 09時00分

 詩人のまど・みちおさんは誰もが普段何気なく見ている物事に新たな光を当て、それが本来持つ豊かな価値に気づかせてくれる。「リンゴ」もそんな詩の一つだった

 ▼「リンゴを ひとつ ここに おくと//リンゴの この 大きさは この リンゴだけで いっぱいだ//リンゴが ひとつ ここに ある ほかには なんにも ない//ああ ここで あることと ないことが まぶしいように ぴったりだ」。ある時ある空間を占める存在は唯一無二で尊い。まどさんはそれをたった一個のリンゴで教えてくれたのだった。その詩を思い出したのはおとといの夜、皆既月食を目にしたからである。地球が特定の時間に宇宙空間の一点を占めることで太陽の光は遮られ、月が地球の影に沈む

 ▼満月が丸ごと覆い隠される神秘的光景への驚きとともに、自分が立つ地球の存在の大きさも実感させられた。当日は全国的に晴れ空で、日本中ほぼどこでもこの壮大な天体ショーを楽しめたようだ。それもまた珍しい。今回はちょうど月の後ろに天王星が隠れる「惑星食」も起こっていたという。皆既月食と惑星食が重なるのは442年ぶりなのだとか。残念ながら惑星食は肉眼で観測できなかったものの、太陽系宇宙をこんな奥行きをもって思い描かせてくれる機会もなかなかない

 ▼地球もいわば唯一無二。そのことをあらためて強く意識させられた。われわれはこの宇宙に奇跡のように浮かぶ水と緑の星に住んでいたのである。戦争だ、温暖化だ、新型コロナだといって取り換えはきかない。大事にしなければ。


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