コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 104

まん防

2021年04月02日 09時00分

 どの国にも長い言葉を省略する文化はあるが、日本は特にその傾向が強いらしい。そもそもあいさつの基本ともいえる「こんにちは」からして、「ご機嫌いかがですか」といった後に続く言葉をどこかにやってしまっている。冷静に考えると奇妙な話でないか

 ▼幾つかの音を抜きだして歯切れ良くつなげるのもよくある形だ。パーソナルコンピューターをパソコン、コンビニエンスストアをコンビニと呼ぶ類いである。新語も日々生まれていて、挙げていくと切りがない。ただ最近になってにわかに耳にする機会が増え、世間の注目を集めている略語を一つ示すとすると「まん防」だろう。新型コロナウイルスの感染拡大が深刻な地域に適用する「まん延防止等重点措置」を略したものだ。緊急事態宣言に先立つ方策として2月に新設されたばかりである

 ▼政府はきのう、大阪と兵庫、宮城の1府2県に、この「まん防」を適用すると決めた。いずれの地域も他と比べて、ここ半月ほどの間に感染者が急増している。言葉の響きでつい魚のマンボウを連想してしまうため、のんびり、ぼんやりした措置なのかと思いきや、さにあらず。飲食店などへの時間短縮命令や入場禁止、応じない事業者への罰則と、宣言に準ずる厳しさである

 ▼それなら最初から宣言を出せばいいのではとの声もあるが、事はそう簡単でもない。特定の業種を締め付け過ぎると、コロナより生活苦で多くの人が死ぬ。ここは段階を踏んできめ細かに対策を打つ手順が必要だろう。こればかりは日本人でも略して良しとするわけにはいかない。


厚労省の送別会

2021年04月01日 09時00分

 きょうは4月1日。多くの職場は新たな布陣で走り出していよう。きのうまで一緒だった人が異動し、別の人がその席を占めている。別れと出会いがことさら胸に迫る日でないか

 ▼この時期になると、〝Mr.Children〟の『くるみ』(桜井和寿作詞作曲)を思い出す。こんな一節があるからだ。「出会いの数だけ別れは増える それでも希望に胸は震える 十字路に出くわすたび 迷いもするだろうけど」。苦労を分かち合った仲間との別れに際し、酒を酌み交わし、大いに景気を付けて新天地へ送り出してあげたい。そう思うのは人情だろう。ただこの十字路では、迷いなく実施見送りの判断をすべきだった。厚生労働省の老健局職員23人が、都内の飲食店で深夜まで送別会を開いていた問題である

 ▼会は緊急事態宣言が解除されて間もない24日、銀座で催されたという。解除されていたとはいえ大人数での会食は避けるよう政府の国民への要請は続いていた。その旗振りをしていた役所がこれである。当日は大半がマスクを外していたらしい。厚労省には下々の者には知らせていないコロナよけの秘策でもあるのだろうか。あればわれわれにもぜひ教えてもらいたいものだ。そうでなければあまりにも思慮が足りない。おととい、会を主催した老人保健課長は更迭され、田村厚労相は2カ月の給与自主返納を表明した

 ▼先の歌にはこんな問い掛けの言葉もあった。「この街の景色は君の目にどう映るの?」。さて、職員23人の目にはどう写っていたのだろう。まさか別れの涙で目が曇っていたとか。


スエズ運河で座礁

2021年03月31日 09時00分

 日本にも超高層ビルは数多くあるが、最も高いのは2014年に竣工した「あべのハルカス」である。近畿日本鉄道が大阪市阿倍野区に建設した、高さ300mの複合商業ビルだ。大阪へ行った際、空に伸び上がる姿に目を見張った人も多いのでないか

 ▼規模はS・SRC造、地下5地上60階、延べ30万6000m²。23年に高さ330mの虎ノ門・麻布台プロジェクトA街区が完成するまでは1位の座を維持する。この日本一のあべのハルカスより100m高い超高層ビルが横倒しになり、航路をふさいだようなものだろう。今治市の正栄汽船所有の大型コンテナ船「エバー・ギブン」(全長400m)がスエズ運河で座礁していた事故の話である

 ▼砂嵐による視界不良と強風の影響で河岸に乗り上げ、横を向いてしまったらしい。人為ミスの可能性も否定できないという。ちなみにあべのハルカスの建物総重量は約28万㌧、エバー・ギブンの総トン数は約22万㌧だ。陸に上がった船ほどたちの悪いものはない。座礁したのは23日。これまでも事故はあったものの、運河が全面封鎖に至ったのは今回が初めてだそう。海運の要衝だけに世界が受けた衝撃は大きかった。原油を輸入に頼る日本も例外ではない

 ▼ともあれエバー・ギブンは29日に離礁し、待機していた他の船舶の通航も始まった。大量の土砂を除去し、満潮時に大型タグボートで運河の中央に引き戻したのだとか。超高層ビルほど巨大な物体を動かす前例のない仕事をこんな短期間でやり遂げるとは。復旧スタッフの工夫と技量には驚くほかない。


泥沼化するミャンマー

2021年03月30日 09時00分

 歴史小説家の司馬遼太郎が戦前の日本を独特な言い回しで表現していた。魔法使いがつえをたたき、日本という国の森全体を魔法の森に変えてしまったというのである。それくらい異質な世界が突如現れたということらしい

 ▼「国というものを博打場の賭けの対象にするひとびとがいました。そういう滑稽な意味での勇ましい人間ほど、愛国者を気取っていた」。『「昭和」という国家』(NHK出版)に書いていた。魔法のつえとは何だったのか。司馬さんはそれを、全てを超越する権力の「統帥権」とみた。愛国者を気取った軍のエリートと統帥権が結びついた結果、独善の暴走が始まったのである

 ▼ミャンマー国軍が先月起こしたクーデターも似たようなものだろう。首謀者のミン・アウン・フライン総司令官は民主派が大勝利を収めた昨年11月のミャンマー連邦議会選挙に不正があったと主張し、国の守護者たるわれら軍隊が間違いを正さねばならぬと強権を発動。問答無用で全土を国軍の支配下に置いた。それから約2カ月。抗議デモはやまず、軍の弾圧は増す一方だ。27日の国軍記念日に合わせた大規模デモでは1日に110人以上の死者が出たという。犠牲者は既に420人を超えている
 
 ▼司馬さんは記す。「革命政権というものは自分のイデオロギーを頼ります。後から来たイデオロギーは非常にいかがわしいものだとか、敵のイデオロギーだとする」。フライン総司令官にとっては民主化が敵だったに違いない。国民にとっては法を破り、同胞を殺す者が敵か味方か。答えははっきりしている。


志村けんさん一周忌

2021年03月29日 09時00分

 コントグループ「ザ・ドリフターズ」のメンバーで人気コメディアンの志村けんさんが亡くなってきょうでちょうど1年になる。志村さんの命を奪ったのは新型コロナウイルスによる肺炎だった。今になってみるとその悲劇がコロナに対する人々の警戒心を高める大きなきっかけになったように思える

 ▼「虎は死して皮を留め、人は死して名を残す」という。まさにそれだろう。本当はもっと笑いを見ていたかったが。つい先日、酒屋で思わぬものを見つけてうれしくなり、すぐに買ってしまった。ラベルに志村さんの言葉が記された「ワンカップ大吟醸」である。形は定番の180㍉㍑入りずんどう瓶だ。大関が「〝言葉を肴に〟志村さんと一緒に飲んでいるようなひと時を」と発売したらしい。なかなか粋な企画でないか

 ▼ラベルは6種類。言葉も酒も味わいながら全部飲んでしまった。幾つか紹介させてもらいたい。「イヤなことがあっても思いきり笑えば忘れられる」。間違いない。随分とお世話になった。「待っていたって何も起こらないんだ」。つまらないと文句ばかり言っていないで、自ら楽しいことを探しに行きなさいというのである。「人間には〝無駄〟が必要なんだ」。遊びや余裕がないと人はおかしくなってしまうものなのだろう

 ▼コロナ感染を恐れ、何かといえば気持ちがささくれ立ちがちなこのご時世。志村さんの言葉が一層快く胸に響く。もし今も生きていたとしたら、テレビの向こうから元気をなくしているわれわれにきっと笑顔でこう言ってくれたろう。「だいじょうぶだぁ」。


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