コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 116

本道に新たな明かりを 

2021年01月01日 07時00分

 本道で一般向けの電気事業が始まったのは、ちょうど130年前の1891(明治24)年だった

 ▼北電の「北海道の電気ことはじめ」によると、札幌の実業家が興した会社が札幌市大通西3に25㌔㍗直流発電機2台を設置し、道庁や今井呉服店(丸井今井)など30件の電灯をともしたそうだ。開業当日は世にも珍しい電気の光なるものをひと目見ようと、多くの人が付近に集まったらしい。きっと度肝を抜かれたろう。電気は本道に新たな時代の幕開けを告げるものだった。以来、電気は常に人々と共にいて、豊かな暮らしを支えてきたのである。ただ、2018年の胆振東部地震による全道ブラックアウトでその信頼にひびが入った。システムは知らぬ間に盤石ではなくなっていたのだ

 ▼電気に限らない。このところ本道発展の主役を演じてきた産業やインフラの苦境が目立つ。JRは赤字幅を広げ、路線の縮小や廃止、駅の削減を余儀なくされている。漁業は不振にあえぎ、農業はTPPにおびえる状況が続く。大切に育て、基幹産業に成長した観光も新型コロナウイルスで惨憺(さんたん)たるありさま。「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざりぢつと手を見る」。石川啄木の悲しい歌がふと頭をよぎる

 ▼とはいえここで諦めては開拓者の末裔(まつえい)の名がすたるというもの。暗闇の中を手探りで進むしかなかった20年は終わり、目の前には切り開かれるのを待つまっさらな年が広がっている。ここは心機一転。コロナに耐え、強い意志と鮮烈なアイデアで本道に新たな明かりをともしたい。


来年の干支

2020年12月28日 09時00分

 新型コロナウイルスに振り回された2020年もそろそろ終わろうとしている。誰にとってもいまだかつて経験したことのない、波乱の一年だったのでないか

 ▼干支(えと)の話をするとことしは「庚子(かのえね)」で、新しい命が生まれてどんどん増え、万物が茂る年を示唆していた。その増え、茂るものがまさか新型コロナだったとは。ウイルスにとっては最良の一年だったろうが、人間にとっては散々だった。では、来年はどんな年になるのだろう。恒例により干支が物語るところを紹介したい。2021年は「辛丑(かのとうし)」である。「辛」は入れ墨をする針の形をかたどった字で、何かを成すときに伴う痛みを表す。また十干の季節分類では秋の後半になるため果実や穀物が実り熟するさまを示唆する

 ▼一方、「丑」の字の由来は動物の牛でなく、人が手の指の先を曲げて物をつかむ形という。その意味するところは〝締め付ける〟〝縮める〟だ。導き出されるのは植物などが伸び悩む姿である。これが組み合わさった「辛丑」は関係が〝相生〟で、互いの性質を強め合う。となるとコロナ終息をはじめ物事はそう簡単に進まないかもしれない。伸びようとすればするほど締め付けの力は強くなり、殻を破ろうとすると激しい痛みを伴う

 ▼逆にいうとエネルギーは内部に十分蓄えられている状態だ。痛みに耐える体力と覚悟があれば大きな収穫を得ることも期待できる。果敢に立ち向かい産みの苦しみを乗り越えられた者だけが新たな境地に立てるということか。さて、皆さんの覚悟やいかに。


中央リニア談合事件

2020年12月25日 09時00分

 誰もが納得する公平な裁判を「大岡裁き」というが、その呼称の由来となった江戸時代の名奉行大岡越前守忠相の青少年期は決して順風満帆なものではなかったらしい

 ▼生家では第4子だったため9歳のとき他家に養子へ出され、実兄は事件を起こし八丈島に流罪、一族の一人は番頭を殺害し自害している。いわば世の中の暗部を見ながら育ったわけだ。町奉行での名裁きにはそんな経験も生かされているに違いない。だからこそこんな言葉が出てきたのだろう。「下情に通じざれば裁きは曲がる」。民の実情も知らず、お上の威光を振りかざすだけでは正しい裁きができないというのである。現代にも通じる部分がありそうだ

 ▼リニア中央新幹線新設工事の談合事件を巡り公正取引委員会が22日、独占禁止法違反で大林組と清水建設の2社に計約43億円の課徴金納付命令を出した。大成建設と鹿島建設を加えた4社には排除措置命令も出している。この一連の命令がふに落ちないと思っている人は多いのでないか。公取委は大手ゼネコン4社が談合で競争を制限したと断罪している。ただ中央リニアは新たな技術開発が幾つも必要な上、工事難易度も相当に高い。そのため各社とも発注前からJR東海と綿密な打ち合わせをしてきた

 ▼入札はしたが結局、安全かつ確実に施工できる会社が落札したのだろう。公取委はそんな実情を知ってか知らずか。法を厳格に運用したといえばそれまでだが、ゼネコンの技術力をただで使うのを認め、事業も妨げるとしたら、やはり何かが曲がっているように思えてならない。


岩見沢の落雪事故

2020年12月24日 09時00分

 北国の住人にとって雪はなじみ深いものだが、時に受け入れねばならない忍耐を思い出させるものでもある。余市出身の詩人左川ちかもそれが身に染みて分かっていたに違いない。「冬の肖像」という作品を残している

 ▼中段から一節を引く。「どんなに踏み分けて進んでも奥の方がわからない程降ってゐるので、そばを通る人も近くの山も消え去ってしまふ雪の日である」。こうなると外に出るのは諦めるほかない。ただ、家に閉じこもってはいられない場合もある。例えば降り続く雪で家がつぶれそうになったときだ。どうやらそんな状況だったらしい。おととい、岩見沢市栄町の住宅の敷地内で、80代の男性と50代の女性の親子が雪に埋まっているのが見つかった。2人とも亡くなったという

 ▼屋根から落ちてくる雪で1階の窓が割れるのを防ぐため、板を張り付ける作業をしていたそうだ。思いもしない速さで増える雪に慌て、頭上の脅威を忘れてしまったのでないか。そこに屋根から大量の雪が落ちてきた。岩見沢は連日の大雪で、きのう正午現在の積雪は118cm。平年比2・7倍というから驚く。筆者も岩見沢出身のため、以前は毎年冬になると実家の除雪に行っていた。やはり放っておくと窓が全面雪で埋まってしまうのである

 ▼岩見沢はもともと豪雪地域だから皆慣れてはいるが、高齢化が進み、毎日の雪かきもままならない家が多くなっているのも現実だ。今回の悲劇もそれと無縁ではあるまい。行政や町内の助け合いが必要なのはもちろんだが、無理をせず自分の身を守ることも大事である。


政治の三角術

2020年12月23日 09時00分

 金は天下の回り物というが、〝自分の所にだけはちっとも回ってこない〟と割り切れぬ思いを抱いている人も結構多いのでないか。金はつくるのも使うのもなかなか難しいものである

 ▼夏目漱石も小説『吾輩は猫である』で、主人にこんなことを語らせていた。「金を作るのにも三角術を使わなくちゃいけないと言うのさ――義理をかく、人情をかく、恥をかくこれで三角になるそうだ面白いじゃないかアハハハハ」。とある実業家から聞いた金もうけの秘訣(ひけつ)だそうだ。まともな神経をしていては一財産など築けるものではないとの皮肉である。真面目で金に苦労した漱石が主人の口を借りて語ったものだろう。ところで近頃、政治方面では別の三角術がよく使われているのを目にする

 ▼誠実さをかく、道理をかく、順法精神をかく―の「三かく」である。まず吉川貴盛元農水相。大手鶏卵生産会社の元代表からの現金受領疑惑が浮上し議員辞職を表明したが、国民に何の説明もないのは誠実さに欠ける。次に安倍晋三後援会の代表を務める安倍氏の公設第1秘書。「桜を見る会」前夜祭の会費不足分を補填しているのに政治資金収支報告書には記載しなかった。道理を欠く対応というほかない

 ▼昨年の参院選広島選挙区で当選を確実にするため、有力者に金をばらまいた河井案里議員と夫の克行元法相の順法精神を欠く行為はいわずもがな。いずれも自民党なのが気になるところだ。政権与党に安住して少々緩みが出ているのかもしれない。それともまともな神経では政治などできないということか。


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