コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 115

人工物の総重量

2021年01月12日 09時00分

 人類の歴史の中で、文明の象徴ともいえる都市が生まれ、今につながる建築が姿を現したのは紀元前5000年頃とされている。現在のイラクを中心とする古代メソポタミアでのことだ。当時の主な建築材料は日干しれんがだった

 ▼一方で土木はどうか。起源の特定は難しいが、勢力範囲内を縦横につなぐローマ街道を挙げるのも一つの答えだろう。大石で舗装した総延長15万㌔の道である。紀元前300年頃の話だ。以来、世界中で多くの建築物や土木施設が造られてきた。建築なら住宅や神殿、教会、城郭、土木なら港湾やダム、橋梁、堤防など。人類の歴史はそういった構造物の整備と累積の歴史といってもいい。材料も土かられんが、木材、コンクリートと耐久性の高い素材に変わってきた

 ▼そんな地球上にある人工物の総重量が昨年末までに1兆1000億㌧に達し、生物の総重量を上回った可能性があるという。イスラエルのワイツマン科学研究所のチームが先頃、英科学誌「ネイチャー」に発表した。人工物とは文字通り人間が作り出した物を指す。ペットボトルや衣服も含まれるが、大部分を占めるのは建築物や土木施設を構成するコンクリートや砂利だそう

 ▼1900年代初めには350億㌧で生物の3%にすぎなかったのに、それからわずか120年で逆転である。今では年間300億㌧ずつ増えているらしい。地球の重さが変わるわけではないものの、物質文明が大きな曲がり角に来ていることを感じさせる数字ではあろう。あまり急ぎすぎると人間は痛いしっぺ返しを食うかもしれない。


香港で民主派53人逮捕

2021年01月08日 09時00分

 自分で口にするのがはばかられる事柄を、動物や妖怪に語らせる手法を文学者はたまに使う。ある男がかっぱの世界に迷い込み、いろいろな経験をする芥川龍之介の『河童』もその一つ。権力を風刺するこんな場面が織り込まれていた

 ▼男が友人のかっぱと演奏会に出掛けピアノに聴き入っていると、後ろの席から「演奏禁止」の声が響く。振り返ると巡査がいて、さらに声を張り上げ「演奏禁止」と怒鳴るのである。巡査はピアノの音色に人々を惑わせ風紀を乱す何かがあると判断したようだ。ただ、音に政治、思想的信条があるはずもない。つまりは自分の気にいらない対象を検閲し、難癖を付けて弾圧したかっただけなのだろう。この作品が発表される2年前に治安維持法が成立していた

 ▼今の香港で起こっているのもそんな権力の暴走に違いない。香港警察がおととい、日本の議会に当たる立法会の民主派前議員ら53人を国家安全維持法違反容疑で一斉逮捕した。昨年6月の同法施行以降、最大規模という。民主派が昨年7月、立法会選挙で過半数を獲得するため実施した候補者絞り込みの予備選が摘発の理由らしい。過半数を得て政府予算否決を狙うのは法が禁じる国家政権転覆行為に当たるからだそうだ

 ▼何のことはない。中国の意に反し民主主義を信奉する人間はどんな理由を付けてでも弾圧するという脅しである。先の小説で男の友人のかっぱ哲学者が自身の書にこう記していた。「阿呆はいつも彼以外のものを阿呆であると信じている」。横暴なかっぱ巡査だけに向けられた言葉ではあるまい。


昨年の交通事故死者数3000人を切る

2021年01月07日 09時00分

 全日本交通安全協会などが主催する「交通安全ファミリー作文コンクール」の2019年度優秀作品集を読み、あらためて交通事故の残酷さや悲しみに触れた

 ▼上三川町立明治小5年(当時)の山田怜生君は、大好きな剣道の先生を突然失ったという。先生の車がトラックと衝突したのだ。山田君は記す。「辛くて胸が苦しくなった。ぼくがこんなに苦しいのだから、先生の家族や親せきはどんなに辛いことだろう」。4日にも東京都渋谷区でタクシーが横断中の歩行者を次々とはね、49歳の女性が亡くなる事故があった。家族の苦しみはいかばかりか。別れは人の世の常とはいえ、そんな理不尽な出来事を素直に受け入れられる人はどこにもいまい。死亡交通事故を少しでもなくしたいというのは多くの人の共通の願いだろう

 ▼その願いがこんな形でかなえられるとは思いもしなかったが、突然の不幸に見舞われる人が減ったことは朗報といっていい。20年の全国交通事故死者数が前の年を大幅に下回ったそうだ。警察庁が4日発表した。それによると前年比376人(11.7%減)の2839人にとどまっている。統計を遡ることができる戦後すぐの48年以降、3000人を切ったのは初めてのことなのだとか。47都道府県のうち、実に36道府県で減少。本道も8人減の144人だった

 ▼コロナ禍で多くの人が外出を控えたためとみられているが、これだけ世間を騒がせたのだからそれくらいの土産は置いていってよかろう。あとはこれ以上悪さをせず、一刻も早く立ち去ってくれるとさらにうれしいのだが。


脱炭素と電気自動車

2021年01月06日 09時00分

 子どもがまだ小さかったころ、足の踏み場もないほど自分の部屋を散らかしっ放しにしているためすぐに片付けるよう叱った。渋々掃除を始めたが、途中から勢いが付いたとみえて忙しげに物を動かす音が茶の間に響いてくる

 ▼1時間ほどして終わったというので点検に行くと、部屋は見事に片付いていた。喜んだのもつかの間、ふと隣のたんす部屋が目に入ってびっくり。物は全てそこに詰め込まれていたのである。何のことはない。乱雑な部屋がただ平行移動しただけ。プラスマイナスゼロというわけである。全く子どものすることは―と笑ってばかりもいられない。大人でも気がつかないうちに、似たような間違いをしている場合がある

 ▼カーボンニュートラルと車の電動化の関係もその一つだろう。菅首相は2050年に温室効果ガス排出を全体でゼロにする方針を打ち出している。実現のため期待をかけるのが電気自動車(EV)の普及だが、今のままではEVを作れば作るほど二酸化炭素が増えるのだ。日本の電力の中心が火力発電だからである。電動化によって車から排気ガスが出ない分、発電所からまとめて出るというわけ

 ▼日本自動車工業会会長を務める豊田章男トヨタ自動車社長が先月の記者会見でその点を指摘していた。脱炭素に全力で取り組むが、政府も増える需要をまかなえる電源開発を進めよとの主張である。再生可能エネルギーの不安定さを知りながら、原子力発電には及び腰の政府には耳の痛い言葉だろう。きれいな部分だけ政府が取り、厄介事は業界に、では子どもと一緒だ。


緊急事態宣言

2021年01月05日 07時00分

 元日の朝にテレビをつけると、いつものワイドショーで出演者が新型コロナウイルスについて熱い議論を戦わせていた。新年早々からコロナで生放送とはご苦労な話である。ただ、正月までコロナに追い立てられるのはご免だ。ひどくうんざりしてすぐにチャンネルを変えた

 ▼やはり正月のテレビは何となく流れているだけの、毒にも薬にもならないお笑いや列島各地の新年の表情を伝える番組がのんびりできていい。けれどもそういう軽口を言っていられるのも第3波が下火になりつつある本道だからかもしれない。どうやら首都圏はのんびりした状況にはないようだ。感染拡大が止まらず、一部では医療崩壊も始まっていると聞く。東京は2020年締めくくりの日に、過去最多1337人の陽性者を出している。重症者数も100人を超えた

 ▼東京、埼玉、千葉、神奈川の各知事が2日、政府に対し新型コロナ特別措置法に基づく緊急事態宣言発出の検討を要請したのも強い危機感にかられたからに違いない。きのうは官公庁と多くの企業で仕事始めだった。ことしは外出を極力控え、いつも以上の寝正月になった人も少なくなかろう。そんな巣ごもりで動きが抑えられていたウイルスもまた活発に仕事を始めようと狙っているはず。ここで隙を見せるわけにはいかない

 ▼菅首相はきのうの年頭記者会見で1都3県を対象とする緊急事態宣言発出に前向きの意思を表明した。宣言が最高の対策かどうかは分からないが、いま一度気を引き締めたいのは事実。うんざりして投げ出すならウイルスの思うつぼだ。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • web企画
  • 古垣建設
  • 日本仮設

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,623)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,466)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,094)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,083)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (924)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。