コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 114

通常国会始まる

2021年01月19日 09時00分

 鎌倉、南北朝期の随筆家で歌人の吉田兼好は歯に衣着せぬ人物だったらしい。代表的著作『徒然草』のこの一節に覚えのある人も多いのでないか。「万の事は頼むべからず。愚かなる人は、ふかくものを頼むゆえに怨み怒る事あり」

 ▼つまり、何でもかんでも他に頼ろうとするな。愚か者は依頼心が強すぎるあまり勝手に裏切られた気になり恨んだり怒ったりする、というのである。なかなか手厳しい。痛い所を突く。愚か者かどうかは別にして、人とはそういうものだろう。解決すべき問題があるのに自分ではどうしていいか分からなくなったとき、頼りにしていた相手に批判の矛先を向けがちだ。今月の各社世論調査を見て、その思いを新たにした

 ▼菅内閣の支持率が軒並み落ちているのである。18日発表の読売新聞が支持39%、不支持49%、13日のNHKがそれぞれ40%、41%、10日の共同通信が41.3%、42.8%。いずれも先月調査と支持、不支持が逆転した。頼りにしていたのに…、といったところか。確かに政府のコロナ対応には非難されても仕方ない部分はある。ただ現在も日本は欧米主要先進国より感染者も死者も格段に少ない。野党やマスコミはいたずらに政府批判をあおりすぎてはいないか

 ▼民主党の菅直人内閣が東日本大震災後、自社さ連立の村山富市内閣も阪神淡路大震災後、支持率を著しく下げたのを思い出す。前例のない事態に対処するのは難しい。今は全ての面で分断より協力が必要なときである。国会がきのう始まった。一丸となって立ち向かう機運は醸成されるのだろうか。


末の松山 波越さじとは

2021年01月18日 09時00分

 子どものころに百人一首で遊んだことがある、という人は多いのでないか。当方もその一人である。歌の意味は分からなくとも、音の響きと筆文字の形を覚えてしまえば、あとは普通のかるたのように楽しめるのだ

 ▼その中に清少納言の父清原元輔の歌があった。「契りきな かたみに袖を しぼりつつ 末の松山 波越さじとは」。今の言葉にすると、「二人で泣きながら永遠の愛を誓った」といったところだろう。言わずと知れた恋歌だが、注目したいのは「末の松山 波越さじとは」の部分。末の松山とは宮城県多賀城市の海岸近くにある丘陵地で、どんな大きな津波が来ても水に漬からない所とされていた。永遠の愛を語りながら自然災害に対する知恵も織り込んでいたのである

 ▼詠まれたのは951年。やはり東北地方太平洋側で大津波が発生し、大きな被害が出た869年の貞観地震が歌の背景にあったとみられている。平安時代も人々が自然災害を身近に感じていたことを示す貴重な証拠といえよう。さらに遡り、文字も何もない縄文時代あたりになるともう自然災害の歴史を知るすべはないのだろうか。そんなことはない。考古学がその仕事に当たっている

 ▼『北海道の防災考古学~遺跡の発掘から見えてくる天災』(みつ印刷)に教えられた。発掘調査で明らかになった大昔の地震や津波、洪水の痕跡をまとめた労作である。天災は繰り返す。できるだけ古くからの歴史を押さえておくに越したことはない。危険な場所が特定されると、安全な「末の松山」もおのずから浮かび上がってこよう。


津軽海峡トンネル

2021年01月15日 09時00分

 日本が主導して建設した太平洋横断海底トンネルは、米国のシアトルと東京、中国の上海を結ぶ。といっても現実の話でなく、中国人SF作家ケン・リュウが描いた架空の建設小史である。短編集『紙の動物園』(早川書房)に収められていた

 ▼世界恐慌から立ち直るため1929年に着工し、10年かけて完成。圧縮空気で輸送カプセルを動かすシステムで、全世界のコンテナ輸送の30%以上を担っているとの設定だ。当時、米国―日本間は船旅で片道2週間程度かかっていたが、このトンネルの開通でわずか2日に短縮された。移動が楽になったため観光需要も増大し、経済効果は全体として膨大な規模に。夢物語とはいえ一つの思考実験として興味深く読んだ

 ▼本紙12日付1面「津軽海峡トンネルを構想」の記事を見て、その作品を思い出した。日本プロジェクト産業協議会(JAPIC)が公表した計画だという。函館―青森間が車で2時間半。経済効果は年間で878億円とこちらもなかなかのものである。現在の青函トンネルを新幹線専用とし、新たに片側1車線の自動車道と貨物輸送の単線鉄道で二層化したトンネルを造る。自動車道が自動運転車専用というのも心憎い。それなら安全かつ安心だろう

 ▼JAPICはこの構想を青森や北海道のためでなく、日本のためのプロジェクトと位置付けているそうだ。気候変動が進むと、食料基地としての本道の役割はますます重要性を増す。大規模自然災害発生時を想定すると、安定した物流経路の確保はぜひとも必要である。夢物語で終わらせたくない。


G秘密情報持ち出し

2021年01月14日 09時00分

 ソニーが韓国のサムスン電子と液晶パネルの合弁会社「S―LCD」を立ち上げたのは2003年のことだった。技術の流出を危惧した経済産業省や国内メーカーの反対を押し切る形で設立したのである。世界市場で競争力を高めるため薄型パネルを安く生産する必要に迫られていたのだ

 ▼どうなったか。経産省などが心配した通りになったのである。気付けば苦心して培ってきた技術が軒並みサムスンに渡っていた。媒介したのは人である。サムスンは合弁だけで満足せず、優秀な技術者には好条件を提示しヘッドハンティングを進めた。技術を一から開発するのは大変だが、他社の人材を引き抜けばその手間はいらない。サムスンの以後の急成長はご存じの通りである

 ▼携帯電話大手ソフトバンクの高速大容量通信規格「5G」に関する営業秘密を不正に持ち出したとして、同業の楽天モバイルに転職した元技術者の男が12日、警視庁に逮捕された。楽天としては喉から手が出るほど欲しかった技術に違いない。男がソフトバンクを退社したのは19年12月31日。その直前に技術情報を複数回持ち出した疑いが持たれている。楽天入社は退社翌日だ。楽天が最初から裏で糸を引いていたという見方はうがち過ぎだろう。ただ楽天は携帯分野で後発。ソフトバンクの元技術者を採用するに当たり、5Gのノウハウを期待しなかったはずはあるまい

 ▼ソフトバンクは楽天を訴える構えと聞く。技術の流出は顧客の流出を意味するから切実だ。油断していると、かつてのソニーのように母屋を取られないとも限らない。


電力危機

2021年01月13日 09時00分

 国は非加熱製剤の危険性を十分認識していたのに、それを放置したため多くの人の命が失われた。30年ほど前の薬害エイズ事件である。見過ごせない問題があると分かっているのに何も手を打たず、重大な失敗を招く例は昔から後を絶たない

 ▼畑村洋太郎東大名誉教授が著書『決定版 失敗学の法則』(文春文庫)で、そんな「不作為の失敗」は「挑戦した上での失敗」よりたちが悪い「犯罪的失敗」だと断じていた。国はまたその過ちを繰り返そうとしているのか。そう思わずにはいられないのが最近の電力需給である。連日、綱渡りが続く。きのうのピーク時予想電力使用率は沖縄を除く全国9エリアで95%以上だった。90%を超えると需給は逼迫(ひっぱく)していく

 ▼実は年明けからこの状況が続いていた。直接の原因は昨年末からの長引く寒波と火力発電燃料の液化天然ガス(LNG)不足だが、国の不作為によるところも大きい。解決すべき重要問題に手を付けないまま電力政策を進めてきたのである。筆頭は原子力発電だろう。東日本大震災から10年もたつのに現在稼働しているのは33基のうち3基のみ。安全対策に名を借りた国の怠慢というほかない。脱原発を掲げるのはいいが、安定供給できない道筋は間違っている

 ▼出力を調整できない再生エネルギーへの過剰な期待や電力自由化の野放図な拡大も混乱に拍車をかけていよう。今回も雪で太陽光が使えず火力にしわ寄せが行った。2018年のつらい全道ブラックアウトが頭をよぎる。不作為の失敗は犯罪的。国はそれを肝に銘じてほしい。


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