コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 118

追加経済対策

2020年12月15日 09時00分

 よく聞く言葉で意味も分かっているのに、つい陥ってしまいがちなのが「木を見て森を見ず」の思考のわなだろう。神ならぬ人間の悲しさである。どうしても目の前の出来事だけにとらわれてしまう

 ▼バブル崩壊後に金融機関が不良債権で瀬戸際に立たされたときのことを思い出す。公的資金を投入して救うべきかどうかの議論が沸騰し、マスコミとそれにつくられた世論が資金投入による救済に大反対したのである。乱脈融資で不良債権を積み上げた金融機関を税金で助けるなどけしからん、というわけだ。投入は見送られた。どうなったか。金融機関が破綻し多くの会社が倒産。不良債権処理も結局長引いた。「森」を見て最初から一気に公的資金を投入していればその後の長期低迷は避けられたのだが

 ▼政府が先週決めた追加経済対策もマスコミ受けが悪い。新型コロナウイルス対策なのに総額73兆6000億円のうち感染拡大防止が5兆9000億円しかなく、全体に財政規律も緩んでいるとの指摘である。感染防止とほぼ同額の5兆6000億円を国土強靱化に割くのを疑問視する新聞もあった。「森」が見えていないのでないか。直接的な感染防止だけでなく失われた民需を埋めるのも重要なコロナ対策だ

 ▼バブル崩壊後、多くの人が職を奪われ街に放り出された。数年して自殺者が急増したのはご存じの通りである。今また、人の交流激減の直撃を受けた業種で同じ事態が起きつつある。ここは民需の欠落を公共でしっかりと埋めたい。ウイルスのみ気にして生活の糧を見ないと将来に禍根を残す。


冬本番

2020年12月12日 09時00分

 本道はあしたから、低気圧の通過とともに真冬より冷たい寒気が入り込み、雪や風の強まる所があるそうだ。真冬日も増えるらしい。名残惜しいが、秋のおまけのようなこの穏やかな日々ともそろそろお別れしなくてはならない

 ▼「寒波急日本は細くなりしまま」阿波野青畝。急な寒さに日本列島が細い身をさらに縮めているというのだろう。本道もわれわれの身もこれからしばらくの間、かなり細くなるのでないか。気象庁がおととい発表した最新のエルニーニョ監視速報によると、今冬は「ラニーニャ現象が続く可能性が高い」という。大きな影響はないというが、ラニーニャ発生時は日本に寒気が流れ込みやすくなるとの説もある。少雪だった昨季と同じではあるまい。油断はできない

 ▼除雪を担当する建設業者の出動準備も整っているようだ。各地から安全祈願祭や事務所開きの報が伝わってくる。ただ、今季はいつもと勝手が違う。新型コロナウイルス対策が新たに加わったからである。厄介この上ない。同建設部がまとめた感染防止対策を見ると、長時間のミーティングを避けることや、シーズンを通じてオペレーターと助手の組み合わせを変更しないことをうたっている。さらにキャビンは常時窓を開けて換気に努めることも

 ▼過酷な除雪作業がさらにつらくなるのは間違いない。もし除雪業務従事者がコロナに感染すれば、交通機能がまひする事態も起こり得るのである。生活と物流を守る除雪は冬の本道の生命線だ。例年以上に、冬将軍と戦う除雪業者への応援と協力を忘れないようにしたい。


AI婚活

2020年12月11日 09時00分

 戦後、個人の自由と権利の意識が高まるにつれ、結婚は見合いが減り恋愛が増えていった。見合いなど時代遅れというわけだ

 ▼小説家の坂口安吾が随筆でそんな風潮を皮肉っていた。「恋愛結婚を進歩的だといって見合い結婚をバカにするが、恋愛などタカの知れたものだということがいずれ看破せられると、人まかせの見合い結婚、ここにはかけのスリルがあって、百年先の文化人のオモチャになるかも知れない」。この安吾の予言が100年もたたずして現実になりそうだ。ただし「文化人のオモチャ」でなく政府の大真面目な施策として。いわゆる〝AI(人工知能)婚活〟である。来年度からの支援を決めた。「人まかせの見合い結婚」の「人」の部分が「AI」に置き換わるのだ

 ▼どんなシステムか。趣味や考え方、行動履歴などを集めたビッグデータを使い、理想的なマッチング例を集積。利用者に最適の相性となる可能性の高い人を見つけてあげるのである。スリルはあるが賭けよりはよっぽどいい。実際、安吾も指摘している通り、恋愛だからといって必ず幸せな結婚生活が続くわけではない。むしろ見合いの方が離婚率が低いという話もあるくらいである。恋愛結婚だとお互い「釣った魚にエサはやらない」となるのかもしれぬ

 ▼先行してAI婚活を始めている自治体の中には成功率が顕著に上がっている例もあると聞く。データの精度もさることながら、今どきの人は、やり手のおばちゃんよりAIの方が信用できるのかもしれない。どうやら見合いが進歩的とされる時代が来たようである。


自衛隊がコロナ支援で旭川へ

2020年12月10日 09時00分

 新型コロナウイルス感染拡大初期の象徴的出来事といえば、巨大クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」の集団感染だろう。まだウイルスの正体も対応策もはっきりとは分かっていなかったため、現場は混乱し、関係者も右往左往していた

 ▼時は過ぎ、今は第3波が日本を襲う。その象徴的出来事がまさか本道で起こるとは。国内最大のクラスターになってしまった旭川厚生病院である。医療崩壊の寸前だという。急速に事態が悪化し、通常の方法ではもはや収拾がつかなくなっていたダイヤモンド・プリンセス号を救うのに大きな役割を果たしたのが自衛隊だった。危機的状況に陥ったときにはやはり頼りになる。今回も旭川市への派遣が決まった。基幹病院の相次ぐクラスター化で逼迫(ひっぱく)する市内医療体制の後方支援に回る

 ▼陸上自衛隊の看護官ら10人がきのう、担当現場に到着した。2チームに分かれて市内の病院や重症心身障害者施設で医師の診療補助や入院患者の体調管理に当たるそうだ。吉田茂元首相が1957年、防衛大学校一期生に伝えたこんな話を思い出す。「君たちは自衛隊在職中決して国民から感謝されたり、歓迎されたりすることなく自衛隊を終わるかもしれない」。なぜなら「歓迎されチヤホヤされる」のは国民が困っているときだけだから

 ▼国民と自衛隊の間にかなり距離のある様子がうかがえる。時代も社会も変わった。われわれは今、自然災害やウイルスとの絶え間ない戦いの中にいる。人々の命を守るため常に最前線に立つ彼らにはいくら感謝しても足りない。


新庄のトライアウト

2020年12月09日 09時00分

 四国と欧州の草の根国際交流に取り組む「四国夢中人」の代表、尾崎美恵さんがこの会をつくったのは54歳の時だった。といっても会員は自分だけ。当時は専業主婦で、娘に言わせると「日本の田舎の普通のおばちゃん」(『すごいお母さん、EUの大統領に会う』文芸春秋)だったそう

 ▼そんな人が持ち前の行動力とサービス精神で、ついに欧州理事会議長との会見まで実現させてしまうのだから大したものである。ある程度の年齢になると、何かやりたいことがあっても「こんな歳から新たな挑戦はできない」と諦めてしまう人が多いものだ。ところが夢を追い続ける人にとっては年齢などどこ吹く風。立ち止まる理由にならないのだろう

 ▼北海道日本ハムファイターズや米大リーグで活躍した新庄剛志さんもそんな人である。神宮球場で7日行われた12球団合同トライアウト(入団テスト)に参加し、現役復帰してもプレーできると実力をアピールした。新庄は今48歳。この10年、野球からは遠ざかっていた。日ハムのユニホームで現れた新庄は最終打席でレフト前にヒットを放った。その見事さは日ハムで共に日本一を経験したダルビッシュ有も「10年以上野球やってないのに143km/hを芯に当ててるのが凄すぎる」とツイートするほど

 ▼チームが追い込まれると形勢逆転のチャンスをつくり、勝利に導いていた現役のころを思い出す。「持ってる」男なのである。どんな状況でも諦めず、新たな挑戦を続ける人の姿を見るのは気持ちがいい。今回、新庄の挑戦に元気をもらった人も多いのでないか。


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