コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 119

はやぶさ2帰還

2020年12月08日 09時00分

 米国の神話学者ジョーゼフ・キャンベルは、洋の東西を問わず世界の神話には幾つかの共通したパターンがあることを明らかにした。例えば英雄神話なら〈冒険の旅に出て、多くの試練を乗り越え、宝物を見つけて家に帰ってくる〉といった形式をとる

 ▼紀元前に書かれた古代メソポタミアの「ギルガメッシュ叙事詩」から、中世日本の昔話「桃太郎」、現代アニメ「宇宙戦艦ヤマト」まで同じ構造を持つ物語は多い。英雄と認められるにはそれだけ厳しい条件が必要ということだろう。だとすれば、このケースも英雄神話に加えて差し支えあるまい。2014年に小惑星「リュウグウ」へ向け出発し、数々の難しいミッションをこなし、リュウグウの地下物質を持ち帰った小惑星探査機「はやぶさ2」である

 ▼宇宙航空研究開発機構(JAXA)が6日、豪州南部ウーメラの砂漠地帯で物質の入ったカプセルを回収した。完全な状態だったという。宇宙や生命の謎を解く鍵になるかもしれない、まさに宝物である。物質だけではない。はやぶさ2の運用成功自体が素晴らしい財産だ。地球から約3億㌔離れた直径900mの小惑星に到達し、7m四方の目標範囲にぴたりと着陸。ロボットを遠隔操作し、地下物質を採取して帰還した。どれも世界初である

 ▼これが昔ながらの英雄物語と違うのは、多くの大学や研究者、中小企業、関係機関も参加したチームで成し遂げた偉業だということだ。多くの人々の応援も力になったろう。カプセル投下後、はやぶさ2はまた次の小惑星へ向け出発した。冒険の旅は続く。


急がれる災害対策

2020年12月07日 09時00分

 気象庁が特定の条件を満たした台風に名称を付けているのはご存じだろう。「顕著な被害が発生し、かつ後世への伝承の観点から特に名称を定める必要があると認められる」場合である

 ▼最も古いのは1954年の洞爺丸台風で、伊勢湾台風や室戸台風などよく聞く名称が並ぶ。現在、名称が付けられているのは10個。ところで最新の2個はことし付けられたのだが、それを知っている人は意外と少ないかもしれない。千葉県を中心に甚大な被害をもたらした去年9月の「令和元年房総半島台風」(15号)と福島、宮城両県で多数の死者を出した10月の「令和元年東日本台風」(19号)である。名称が付けられたのは1977年の沖永良部台風以来。実に42年ぶりというから、それだけ近年まれに見る顕著な被害だったわけだ

 ▼菅首相は1日の閣僚懇談会で、仮称「防災・減災、国土強靱化のための5か年加速化対策」をまとめるよう閣僚に指示した。先の台風2個のような自然災害の激甚化に対応するためである。近年ほぼ毎年、風水害や巨大地震に襲われる事実を考えると、優先順位の高い政策課題であることは間違いない。計画は21―25年度で事業費15兆円。インフラ整備では予防保全や老朽化対策、デジタル化に力を注ぐらしい

 ▼幸いことしは巨大台風や地震がなかったが、もしこのコロナ禍で起こっていたらと考えると寒気がする。これで対策に感染症という難しい前提が加わった。ただ、解決策はある。台風や地震が来ても被害を最小限に抑える手立てを講じることだ。計画の足を止めてはいけない。


夢の他には何も 

2020年12月04日 09時00分

 若いころ、シンガーソングライター浜田省吾さんのアルバム『Sand Castle』(サンド・キャッスル)をよく聴いていた。独特な声と叙情的な歌に、一人で胸を震わせていたものである

 ▼名曲ぞろいの中で、特に気に入っていたのが「丘の上の愛」。主人公の女性は貧しさを嫌い、愛と引き換えに丘の上の金持ちとの安定した生活を手に入れたのだが、なぜか出るのは涙とため息ばかり。何かが違ったのだ。ところがそんな息の詰まる日々の中で彼女はある男性と出会う。聞かせどころだろう。どんな人物だったのか。こんな一節で明かされる。「君がただひとり 心を奪われた あいつはまだ若く 夢の他には何も 持たない貧しい学生」

 ▼秋篠宮皇嗣殿下の長女眞子内親王殿下の、婚約者小室圭氏に寄せる愛を先頃発表された文書であらためて知り、久々に先の歌を思い出した。こう言っては何だが小室氏は今のところ、弁護士資格を取得するため米国で学ぶ「夢の他には何も持たない」学生である。もちろんそこが魅力なのだ。漫画家の柴門ふみさんもエッセーに、好きになるときの男女の違いを「女は男の夢に弱い。夢を語る男に、ぽおっとなってしまう」と記していた。支えたいと思うのかもしれない

 ▼気が気でないのは親である。ただ、あれだけ結婚に反対していた秋篠宮さまもついに折れ、最近の記者会見では二人の気持ちを尊重すると語っていた。とはいえ眞子さまは皇嗣の長女として責任ある立場。小室さんはまず身辺をきれいにし、持つのが夢だけでないと証明する必要があろう。


国税局のOBが詐欺

2020年12月03日 09時00分

 テレビで時代劇を見ていると、盗賊が商家の大店に押し入ろうとするとき、店の手代が裏で手を引いていることがある。史実に基づくのかどうかは分からないが、盗賊も手代を味方に付けておけば仕事が楽になるのは間違いない

 ▼家の者が寝静まる時間はいつか、金目の物はどこに、忍び込むのに目立たない場所は―。手代なら何もかもを把握している。店の主人としては、飼い犬に手をかまれたという気持ちだろう。丁稚から育ててくれた恩のある商家に、どうしてそんな不義理を働くことができたのか。動機は単純だ。大金を手に入れたかったのである。道を踏み外す人間の愚かさは、いつの時代も変わらないらしい

 ▼大阪府警が1日、新型コロナウイルスの影響で収入が減った個人事業主らを支援する国の持続化給付金を搾取したとして、大阪市の元税理士の男を逮捕した。顧問を務める会社などの関係者に不正受給を指南し、2000万円以上の報酬を得ていたそうだ。この男、大阪国税局のOBだという。つまり国の手続き事情に詳しい自らのキャリアを悪用し、国の金庫から金を奪う犯罪の手引きをしたのである。手口はこうだ。関係先の従業員らを個人事業主に仕立て、偽の確定申告書を作成して中小企業庁の専用サイトから申請。口座に100万円を振り込ませる

 ▼その数、およそ100件というから随分と荒稼ぎをしたものである。「盗人を捕らえて見ればわが子なり」。税務署を巣立った上席国税調査官が、まさか税金をかすめ取る方に回るとは国も思わなかったろう。あきれた話でないか。


手話

2020年12月02日 09時00分

 何不自由なく耳が聞こえる人には想像もできない経験が、そこにはあるということだろう。先天性の聴覚障害を持つ疋田直子さん(20歳・当時)が書いた詩「聞こえるよ」(冊子『NHKハート展』)を読んで気付かされた

 ▼短いので全文を引く。「生まれてから/19年間/あらゆる音や声を/聞いた事がない/だけど/唯一聞こえる音が/私にはあるんだ/吸い込まれそうな夜空いっぱいに/咲いては消える花火」。優れた感性の持ち主である。音や声が聞こえないことで、視覚をはじめとする他の感覚が研ぎ澄まされたのかもしれない。特別な能力といえば手話もそうだと前から思っていた。思考と連動して手が動き、それを瞬時に読みながらコミュニケーションを成立させていく。素人からすると魔法のようにしか見えない

 ▼自民党の今井絵理子参院議員が11月30日の参院本会議で、その手話を交えて菅首相に質問した。国会の本会議では初の試みだそうだ。映像を見て自然でなめらかな動きに目を奪われた。実は今井氏の長男も先天性の難聴を抱える聴覚障害者なのだという。これまで子育てをしながら、障害者支援にも取り組んできたと聞く。どうりで自然なわけである。マスクをしていると口の動きが読めないとの聴覚障害者の声を耳にし、それならばと、彼らに伝わるように手話を使ったらしい

 ▼今回、今井氏の質問のおかげで、障害者の前に立ちはだかる壁にあらためて気付かされた人も多かったのでないか。今井氏の小さな行動は氏の意図を超え、打ち上げ花火のように遠くまで響いたようだ。


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