ほとんどの人は子どものころ、砂場や海辺で砂山を作って遊んだ経験があるに違いない。誰が一番早く高い山にできるかを友達と競い合ったりして。ただこれが案外難しい。砂がさらさらだといくら砂を盛ってもすぐに崩れ、なかなか高くならないのである
▼三好達治の詩「砂の砦」にもこんな一節があった。「私は築く/私のうたは砂の砦だ/無限の海にむかつて築く/この砦は崩れ易い/もとより崩れ易い砦だ」。今回の参院選も与党、野党ともに砂山を作るような戦いだったのでないか。結果にもそれが如実に表れている。与党側は過半数を超え実質勝利したとはいえ改選前より議席を減らし、一方の野党側も議席こそ増やしたものの与党の安定を脅かすほどの勢いは見られなかった
▼つまりどちらも目指したほど高い山は作れなかったのである。積んでも積んでもどこかから票が崩れていく。与党は経済や外交などこれまでの実績をアピールし、野党は明確な対立軸として消費増税反対を掲げていたのだが。崩れ易い砂山も裾野を広げれば高くすることができる。ところが与党支持層の中から消費増税反対派が滑り落ち、さりとて野党はいまだその受け皿になれるほど広範な信頼を勝ち得ていない。これではいくら頑張ったところで有権者は端からこぼれ落ちていく
▼投票率が48・8%と5割を切り、戦後2番目に低くなったのもそんな人々のあきらめを反映していよう。今回のように希望の持てない事態が続けば、選挙は砂山どころかいずれ不毛な砂漠と化す。国会議員はそのことを自覚した方がいい。