コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 193

縄文人全ゲノム解読

2019年05月17日 09時00分

 縄文時代の生活と聞いて思い浮かべるのはどんな情景だろう。今40歳代以上の人であれば、20―30人の親族を中心とした小集団が狩猟をしながら細々と暮らす姿でないか。これが30歳代以下だと、大きな集団が一つの地域で共同生活を営む様子を想像する人も多いはず

 ▼この違いは、ここ20年で日本史教科書の縄文時代の記述が劇的に変わったから。1992年に発掘が始まった青森県三内丸山遺跡研究の成果である。広い土地で大人数が一定の秩序をもって暮らせるだけの知的水準と文化を備えた時代。それが新たな縄文像として提示されたのである。北海道から沖縄までほぼ全域にわたり交易があったことも分かってきた

 ▼この女性も遠い地域の話に目を輝かせていたかもしれない。礼文島の船泊遺跡から出土した縄文女性の全ゲノム(遺伝情報)が高い精度で解読されたそうだ。国立科学博物館の研究員を筆頭とする共同研究チームの快挙である。古代人の高精度ゲノム解析は世界でもあまり例がないという。成功は大臼歯に保存状態の良いDNAが残っていたおかげだそう。それにしてもいろいろな情報が分かるものだ。血液型はAで髪は縮れ毛。目の色は茶色で肌の色は濃く耳あかには湿り気がある。お酒にも強かったらしい

 ▼昨年発表された復顔を見ると、どこかで見たようなおばちゃんである。縄文人のゲノムの10%が現代人に受け継がれているというからそれも当然か。お酒に強いと聞くと何だか親しみも湧く。4000年の隔たりはあるが、人間としてはそれほどの違いがないのかもしれない。


市議会議長席占拠

2019年05月16日 09時00分

 思い込んだら後には引かない人がどこの世界にも一人はいる。脚本家の向田邦子さんもエッセイ「唯我独尊」にそんな女性キエ子さんの話を書き留めていた

 ▼彼女は週刊誌の雑な印刷に腹を立てていたそうだ。ぶれた写真が多いからである。これは出版界の一大事と、あるとき雑誌の編集者に苦言を呈した。返ってきた言葉は「失礼だが、検眼をしたほうがいい」。実は老眼のため写真がにじんで見えていたのである。このキエ子さんとは向田さん本人のこと。「世の中で自分ひとりがすぐれている。私のすることに間違いなどあるわけがない。違っているのは相手であり世間である」。そんな考えは「お釈迦様ならいいが、凡俗がやると漫画である」。反省しきりだったらしい

 ▼札幌市議会で13日に起きた珍事を聞き、そのエッセイを思い出した。4月の統一地方選後初めて開かれた市議会で最年長議員の松浦忠氏(79)が自分が議長になると言い張り、9時間以上にわたり議長席を占拠し続けたというのである。地方自治法の規定により最年長の松浦氏が臨時議長に就いたまでは良かった。次に正式な議長を市議互選で選ぶのが慣例だが、松浦氏はこれを突如覆し立候補制を提案。候補は自分1人だとして議長就任を宣言したのである

 ▼「私のすることに間違いなどあるわけがない」と言わんばかり。議員が議会で議論をないがしろにするなど漫画にもならない。これがなんと道都札幌で起きた出来事なのである。同日深夜、ようやく新議長が決まった。松浦氏には肝心なものがぶれて見えていたのでないか。


景気動向指数

2019年05月15日 09時00分

 今の季節にそぐわない歌で恐縮だが、古今集から一首を引く。「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」。平安時代初期の歌人藤原敏行が立秋の日に詠んだ歌である

 ▼8月初旬といえばまだ夏の真っ盛り。周りを見渡しても秋の気配を感じさせる風景はどこにもない。ところがふとした拍子に聞こえた風の音の中には、間違いようもなく秋が入り込んでいた。それにハッとさせられたのだろう。さて、恐縮ついでにもう一首。当方作のため風情がないのはお許し願いたい。「不況来ぬと目にはさやかに見えねども景気動向指数にぞおどろかれぬる」。内閣府がおととい、3月の景気動向指数を発表し、6年2カ月ぶりに「悪化」の基調判断を出した。景気後退の可能性が高いと見たのである

 ▼政府は最近まで月例経済報告で「景気は緩やかに回復」との認識を示していた。後退局面は極力見ないようにしていたようだ。それだけにこの景気動向指数の風音変化には少々驚かされたのでないか。今回は景気の現状を表す一致指数が前月比0・9減の99・6だったという。下降傾向が3カ月以上連続したため基準により判断が「悪化」に引き下げられた。一致指数の中身は鉱工業生産や小売販売額、有効求人倍率など。どうやら中国向け輸出の急減が響いたらしい

 ▼米中貿易戦争のあおりを食った格好だ。米国が中国製品に25%の追加関税をかけると中国も報復で米国製品に最大25%の関税をかける泥沼状態。夏を前に日本経済に秋風が吹き、そのまま冬が来るようなことにならねばいいが。


プラごみはどこに

2019年05月14日 09時00分

 後のことがどうなっても自分の知ったことではない。それを表すことわざ「後は野となれ山となれ」は江戸時代の浄瑠璃作者近松門左衛門の『冥途の飛脚』にある名文句が元になってできたという

 ▼飛脚問屋の忠兵衛が、ほれた梅川と添い遂げたい一心で客の金に手を付けてしまった。捕まれば命はない。逃げると決めた場面で語りが入る。「栄耀栄華も人の金、果ては砂場を打ち過ぎて、あとは野となれ大和路や」。これまで海外の国々に依存してきたプラスチックごみの処理が一大転換を迫られる事態になりそうだ。企業や家庭から排出される廃プラスチックの輸出について、政府が規制強化に乗り出したのである。日本から持ち出してしまえば「後は野となれ山となれ」はもう通用しない

 ▼有害廃棄物の輸出入を規制するバーゼル条約に10日、廃プラを加える決定がなされたことを受けての措置。日本とノルウェーが共同提案していたという。法改正や基準整備を進め、来年夏頃をめどに輸出停止を実現する。輸入する国があるから輸出しているだけ、というのはグローバル資本主義の真実だろう。ただ、外貨欲しさに処理能力を無視してごみ受け入れを進める国の足下を見たような商行為だ。昨今話題の「ごみ屋敷」を海外で増やし、日本の知ったことではないと言っているに等しい


飛翔体

2019年05月13日 09時00分

 正体が分からず不気味なものでもひとまず名前を付けてしまえば気持ちが少し納まる。人間心理の奇妙さだろう。落語「てれすこ」はそのあたりを笑いで突く

 ▼ある日、浜で漁師も見たことのない魚が揚がる。困惑した奉行は「魚の名を知る者には賞金百両」の高札を掲げた。そこで悪知恵の働く茂兵衛が「魚は『てれすこ』にございます」とでたらめな名を届け出。安心した奉行は約束通り百両を取らせるのである。もちろんこれがオチではない。少々ふに落ちぬ奉行は魚を干物にして再び同じ高札を掲げる。もう一稼ぎと喜んだ茂兵衛は「これはステレンキョウです」。うそがばれてあえなくお縄となる

 ▼こちらもひとまず名前を付けてみた、というところか。北朝鮮が最近数度にわたって発射したとされる「飛翔体」である。映像ではどう見てもミサイルなのだが、韓国軍も日本政府も各報道機関も判で押したように正体不明の「飛翔体」で統一。それならいっそのこと「てれすこ」でもよかったのでないか。先週後半、米国防総省が「弾道ミサイル」と断定したことで日本もやっとミサイルと認定した。短距離で弾道も違うとはいえ、発射のたび詳報を伝えた2年前に比べずいぶん腰が引けている

 ▼弾道ミサイルであれば明確な国連安保理違反。融和ムードに水を差すため判断が慎重になるのも分からなくはないが、「飛翔体」と呼んで事実から目をそらすなら北朝鮮の思うつぼである。第一、あれは「飛翔体」だから安心などと信じる人がどこにいよう。「てれすこ」で納得するほど国民は愚かでない。


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