コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 26

変異株の持ち込み

2023年01月05日 09時00分

 ことしは3年ぶりに新型コロナ感染拡大防止のための行動制限がない正月だった。久々に家族や友人で集まり、余計な気を使うことなく語り合ったり、旧交を温めたりした人も多かったろう

 ▼「三代の声重なりて今朝の春」矢野絹。以前はどこの家にもあった親と子、孫が一緒のそんなだんらんも避けねばならない日々が続いていた。親しい人の顔を間近で見、声を聞いて元気を実感できることほど幸せなことはない。経済学者の佐伯啓思氏が、阪神淡路大震災の被災者と長年向き合ってきた精神科医の言葉をエッセーで紹介していた。心のケアとは何かが分かったというのである。医師はこう語ったそうだ。「誰もひとりぼっちにさせへん、てことや」。逆に言うと孤立して心を病む人が増えたということだろう

 ▼災害の種類は違えどコロナ禍で人々を悩ませたのも同じだった。感染を恐れ家族にさえ会うのがはばかられたのだから、孤立を深めるのも当たり前。そう思うと、ことしの普通の正月が輝いて見えた。行動を制限される前の状態に再び戻りたくはない。国内の感染もまだ落ち着いていないが、今それ以上に心配なのが海外からの変異株の持ち込み。具体的にはいまだ感染爆発が止まらない中国である

 ▼2020年の流行初期、多くの中国人観光客であふれた「さっぽろ雪まつり」から感染が拡大したのは記憶に新しい。政府は8日から水際措置を強化すると決めたが当然でないか。もっと厳しくてもいいくらいだ。差別の問題ではない。「ひとりぼっち」の人をつくらないために必要な対策である。


関東大震災から100年

2023年01月04日 09時00分

 試練の年が続く。なぜこうも困難なことばかり起こるのか。頭を抱えている人も多かろう。ただ、この苦しい経験が将来、大輪の花を咲かせる土壌にならないとも限らない。逆境が人や社会を強くするのは昔から変わらぬ世のことわりである

 ▼黒田三郎の詩「紙風船」を思い出す。こんな作品だった。「落ちて来たら 今度は もっと高く もっともっと高く 何度でも 打ち上げよう 美しい 願いごとのように」。困難に遭遇しても、つらい出来事があっても、それをばねにして諦めず何度でも高みを目指そうというのだろう。内に秘めた強さが伝わってくる。日本人と自然災害の関係にも似たところがあるのでないか。地震や津波、大雨などで国土が破壊されるたび、より強靱なインフラを整え安全な国づくりを進めてきた

 ▼近代日本で、そんな災害対策の原点となったのが関東大震災である。死者10万5000人、被害家屋29万3000棟の大惨事。1923年の発生からことしでちょうど100年になる。この危機を教訓に、災害に強い新たな都市計画が模索され、土地区画整理や円滑に流れる道路の整備が進められたのだった。建築物をはじめ全てのインフラに高い耐震と防火の性能が求められるようになったのも同じである

 ▼思想家の平塚らいてうは当時こう語ったそうだ。「勇気と忍耐と努力の何時かの後、私共は不幸が後に輝かしい幸福の原因であることを知ってよろこぶ時が来ることでありましょう」。災害対策は未来への遺産でもある。その大切な積み重ねに改めて向き合う1年としたい。


来年の干支

2022年12月28日 09時00分

 新型コロナとの付き合いも幾分こなれてきたと安心していたら、その足元をすくうようにロシアのウクライナ侵略、エネルギー問題、物価高騰が次々と―。結局、息つくいとまもない1年だった

 ▼干支(えと)の話をするとことしは「壬寅(みずのえとら)」で、着実に準備を整えれば好循環の流れができ、次の発展につながる新たな命が育つ年を示唆していた。新型コロナとの付き合いだけはそうだったのでないか。さて、来年はどんな年になるのだろう。恒例により干支が物語るところを紹介したい。2023年は「癸卯(みずのとう)」である。「癸」は矛先が放射状に突き出た武器をかたどった字で、形状が円に見えることから循環の意を表すという

 ▼十二支の「卯」は誰しも察しの通り、あのかわいいウサギではない。諸説あるものの、元は馬の口にかませるくつわを固定する金具からきた象形文字とされる。字義もかなり多岐にわたるが、やはり口に関係するところから押し開けるとの意味合いが強い。肝心なのはこの二つの字の組み合わせ。「癸」は五行思想でいうと性は水、「卯」は木だとされる。水は木を生むとの考えから「癸卯」の組み合わせを〝相生〟と呼び、互いの性質を強め合う働きをする。未来を閉ざす扉は少々強引なほどの力で押し開けた方が、好循環につながる道が見つかるということか。きっと軽く押したくらいではびくともしないのだろう

 ▼感染症や戦争、物価など自分一人ではどうすることもできない問題も多いが、来年は諦めずに精一杯、目の前の扉に立ち向かいたい。


安定電源確保へ一歩

2022年12月27日 09時00分

 オホーツク地方を中心とする大規模停電がようやく復旧した。先週後半の暴風雪で、送電用の鉄塔が倒壊したのが直接の原因という。一時は紋別市のほぼ全域1万3400戸余りを含め、道内2万戸近くで停電が発生したそうだ。真冬に電気を奪われた住民は、どれだけ不安だったことか

 ▼真冬の停電は寒冷地の住民にとって生死を左右する深刻な問題である。大げさな話ではない。特に道民は身につまされていよう。今回の原因は送電網の物理的破損だったが、停電の話題となるとどうしても気になるのは発電所のことである。たとえ送電網が健全でも電源が頼りなければ安心はできない。やっとその原点に戻ってきたわけだ

 ▼政府が東日本大震災直後の福島第1原子力発電所事故以来続けてきた原発抑制方針を大きく転換した。先日開いた岸田首相を議長とするGX(グリーントランスフォーメーション)実行会議で、脱炭素社会の実現とエネルギー安定供給のため、原発を最大限活用することにしたのである。具体的には上限とされてきた60年を越える運転期間を可能にする措置に加え、次世代型原子炉を想定した建て替えにも踏み出す。原発を止め年間数兆円単位で化石燃料輸入を増やし、国民に重荷を負わせる自虐行為からこれで抜け出せる

 ▼電源のベストミックスを無視した太陽光発電の拡大で火力が割を食う現実も既に見過ごせなくなっていた。何より災害大国日本で暮らしていくには安定供給できる電源が不可欠。感情的な安心に目を奪われ、無理な電源構成を夢見ることほど危険な事態はない。


創作四字熟語

2022年12月26日 09時00分

 ことし5月に公開され、人気を集めたSF特撮映画『シン・ウルトラマン』(東宝)を見に映画館へ足を運んだ人は多かろう。派手な戦闘シーンもさることながら、地球侵略を企むメフィラス星人の独特な語り口も大いに話題となった

 ▼俳優の山本耕史さん演じるメフィラスがしたり顔で言うのである。「呉越同舟、私の好きな言葉です」。またある時には、「捲土重来(けんどちょうらい)、私の嫌いな言葉です」。四字熟語は四文字に深い意味を込められるところが面白い。さて皆はことしをどう捉えたのか。住友生命の「創作四字熟語」が先頃発表になった。最優秀作は「遠客再来(千客万来)」。コロナの水際対策が緩和され、遠来の客が再び訪れてくれるようになった風景を描写している

 ▼優秀作には円安の進行を表現した「急円超下(急転直下)」、ロシアのウクライナ侵略を憂慮する「烏露曲折(紆余曲折)」、NHK大河ドラマの人気を象徴する「鎌倉爆風(鎌倉幕府)」など9作が選ばれている。入選作には日本ハムファイターズのきつねダンスに注目した「狐群扮踊(孤軍奮闘)」もあった。勝手ながら筆者も幾つか本道にちなんだ熟語を考えさせてもらった。まず「知床非情(知床旅情)」。運行も経営も検査も全てずさんだったゆえに起きた海難事故だった

 ▼続いて「線路相談(進路相談)」。JR留萌線廃止など沿線住民とJRで廃止の合意をする例が相次ぐ。最後は「威風殿堂(威風堂々)」。日ハムの新球場が北広島に誕生する。来年は本道も日ハムも劣勢挽回といきたいものだ。


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