コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 24

2類から5類へ

2023年01月23日 09時00分

 輸送機器メーカー大手の本田技研工業は1961年の3月に、1週間ばかり生産を休止した。無理をしてでも作れば売れる景気の良い時期だったが、市場全体の動向を見て、一人勝ちは好ましくないと判断。生産調整を決めたという

 ▼「ここで大切なことは、坂を登っていてもいつ下り坂の準備をするか、その見きわめである」。創業者の本田宗一郎氏が、著書『俺の考え』(新潮文庫)で当時をそう振り返っていた。何事も進むのは易しいが引くのは難しい。大きな実績を上げてきた事業ならなおさらである。引けば利益を失うのは明らか。ただしすぐ先が奈落なら、落ちれば利益どころか膨大な損失を負う。答えは誰にも分からないのだ。実に悩ましい

 ▼さて、岸田首相は引き際を見極める確かな目を持っているだろうか。20日、新型コロナウイルスの感染症法の位置付けを、現在の「2類相当」から「5類」に引き下げる方針を表明し、加藤勝信厚生労働相らに検討を指示した。今春をめどに踏み切るようだ。感染者はいまだ多く、コロナに対応している医療部門の負担も重い。一方で社会全体としてはコロナ前の日常を取り戻しつつある。現状と法の運用にちぐはぐさを感じている人は多いに違いない

 ▼5類になると医療費の公費負担が見直され、一般の医療機関でも患者を受け入れられるようになる。行動制限もない。つまり「政府は手を引く。今後は自己責任でやってくれ」というわけだ。本田氏の生産調整は後にHONDAの信用を高めた。岸田首相の5類への引き下げが招くのは信用か、幻滅か。


処理水

2023年01月20日 09時00分

 物理現象の中には、直感に反する動きを見せるものがある。例えば真空中で鉄球と鳥の羽を同じ高さから同時に落とすと、どちらが先に着地するか

 ▼ほとんどの人は答えをご存じだろう。正解は同時。空気抵抗がないため、両物体の落下速度は等しい。ただ知識として知ってはいても、内心疑問に感じている人も多いのでないか。鉄球と羽が同時に落ちるなど通常は想像できない。だまされているような気にもなろう。先の現象がなぜ事実だと分かるかといえば、実験によって証明できるからである。早野龍五東大名誉教授も『「科学的」は武器になる』(新潮社)に、「科学的に考えること」は「物事の基本に立ち返り、行くべき道を照らしだす羅針盤になってくれる」と記していた

 ▼直感や思い込みで水掛け論をしていても答えが出ることはない。そんなとき役に立つのが科学というわけ。東京電力福島第1原子力発電所の処理水についても同じである。政府が春から夏ごろをめどに海洋放出する方針を固めた。いまだに危険な汚染水と呼び放出に反対する者もいるが、ここは思い込みを排したい。処理水は放射性物質を検出限界値以下まで取り除き、残るトリチウムも1㍑当たり1500ベクレル未満にして放出する。複数機関の検査で信頼性は高い

 ▼人体にも常に7900ベクレルの放射性物質がある。それで健康に問題はないのだ。海で薄まるトリチウムが生物に悪さをする心配もない。これを汚染水と呼ぶのは真空中でも鉄球が先に落ちると主張して譲らないようなもの。羅針盤をよく見た方がいい。


年末年始、飲酒運転相次ぐ

2023年01月19日 09時00分

 警察庁などが主催する交通安全ファミリー作文コンクールで、2021年度の内閣総理大臣賞(小学生の部)を受賞したのは倉敷市立琴浦東小5年の明石仁美さん(当時)だった。テレビで飲酒運転事故のニュースを見たことが作文を書くきっかけになったらしい

 ▼千葉県八街市で下校中の小学生の列にトラックが突っ込み、5人が死傷した事故である。運転していた男からは基準値を超えるアルコールが検出された。仁美さんは記す。お母さんはとっさにテレビの前に立ち、画面を隠したそうだ。むごい現場を子どもに見せたくなかったに違いない。仁美さんがお母さんの手を引き、結局は見ることになったが、「家族みんなの顔がこおりつきました」

 ▼飲酒運転による交通事故が後を絶たない。昨年12月、大阪府堺市で夜間パトロールをしていた4人がひき逃げされ死傷した事故も、その後の調べで容疑者の男が飲酒していた事実が分かったという。男は17日、大阪地方検察庁に危険運転致死傷罪で起訴された。忘新年会や家族の集まりが多い年末年始は、飲酒運転の増える時期である。今回も事故の報が相次いだ。飲酒運転事故そのものはここ10年で半分程度に減った。それでも21年には全体で2198件、死亡事故が152件発生している。それだけ涙が流れているのだ

 ▼こと飲酒運転に関しては、目指すのは減少でなく根絶だろう。仁美さんの作文の題名は「できることから始めよう」。仁美さんは黄色の足マークで「絶対止まる」ことにした。運転者は「飲んだら絶対乗らない」。できるはずである。


有名にするな

2023年01月17日 09時00分

 ニュージーランドの都市クライストチャーチで2019年3月、100人が死傷する銃乱射テロ事件があった。覚えている人も多いのでないか。1人の男が2カ所のモスクを相次いで襲撃したのである

 ▼事件を受け、アーダーン首相が議会で、こう呼び掛けていたのが印象深い。「皆さんは大勢の命を奪った男の名前ではなく、命を失った大勢の人々の名前を語ってください。男はテロリストで犯罪者で、過激派だ」。そして強く宣言したのだった。「私は今後一切、この男の名前を口にしない」。当時、BBCニュースが伝えていた。男にどんな思想や背景があったとしても、卑劣なテロリストを有名になどしてはいけないということである

 ▼安倍元首相を昨年7月暗殺した山上徹也容疑者をことさら擁護したがる人が少なからずいると知り、アーダーン首相の発言を思い出した。旧統一教会にのめり込んだ母親のせいで人生がめちゃくちゃになったというが、安倍元首相殺害を正当化できる事情はどこにもない。人一人の命を残酷に奪った犯罪者である。それとも理不尽な運命に苦しむ人が、気に入らない人物を殺すのは仕方ないというのだろうか。そんな風潮はほんの少しでも認めてはいけない

 ▼政治がさらに事態をゆがませている。立憲民主党の小沢一郎衆院議員は事件直後、参院選の応援演説で「自民党の長期政権が招いた事件」と言い放った。暗殺を与党攻撃の具にする識見のなさには驚くばかり。山上容疑者は13日、殺人などの罪で起訴された。今は安倍元首相の無念にこそ思いを致すべきだろう。


UFOを分析せよ

2023年01月16日 09時00分

 SFショートショートの名手星新一に「代償」という作品がある。つかみのうまさには定評のある星さんだが、これもはずさない。冒頭の一文から物語に引き込まれた。こう始まる。「その空飛ぶ円盤は、郊外の原っぱに着陸した」

 ▼前置きなしにいきなり空飛ぶ円盤が登場するのである。読んでいる者は、想像力をかき立てられる。いったいどこから来たのか、誰が乗っているのか、目的は友好なのか侵略なのか―。乗っていたのは物見遊山に訪れた宇宙人で、世界各国に将来の取引への期待をたっぷり抱かせて帰っていった。二度と来るつもりなどないのだが。現実でも未確認飛行物体(UFO)と呼ばれる空飛ぶ円盤への人々の関心は昔から高い。物語のように誰が何の目的でというところに興味があるのだろう

 ▼どうやら米政府も同じのようだ。12日、UFOに関する年次報告を発表し、さらなる分析が必要と結論づけたという。米軍パイロットなどから新たに360件以上の目撃情報が報告されたらしい。報道によると情報は2004年から昨年8月までに510件あり、今も増え続けているそうだ。その半数は正体がほぼ分かっているものの、飛行特性が現在の科学では説明できないケースも多いのだとか

 ▼米政府が懸念するのは、どこかの国が未知の飛行技術を発達させている可能性である。UFOは最速の戦闘機を追い抜いたり、一瞬で別の地点に移動したりすると聞く。軍事的には大変な脅威となろう。物見遊山の宇宙人には、同じ星の上で争うそんな人類の姿こそがいい見ものかもしれない。


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