コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 270

復興マラソン

2017年10月06日 07時00分

 先の日曜日、東日本大震災で壊滅的な津波被害を受けた宮城県東部をコースにした「東北・みやぎ復興マラソン」が開かれた。ことし初開催の大会である

 ▼なぜ、あえてつらい記憶を伴う場を選んでマラソン大会を企画したのか。それは震災から6年半が過ぎた被災地を駆け抜けながら復興に取り組む現在の姿を見てもらい、未来への変化を感じてほしいとの地元の願いがあったから。その思いは十分伝わったようだ。というのもフル、親子、車いす、ファンの各マラソン合わせて1万6000人ものランナーが集まったのである。筆者もその一人なのだがその6割以上は県外からの参加者だったそうだ

 ▼走ってみて、こんな大会は他にないと実感した。例えば沿道の声援。「頑張れ」に加え多くの人から「ありがとう」の声が飛ぶ。復興への感謝だという。いつもならランナーが応援へのお礼に返す言葉である。住民と「ありがとう」を交わしながら走っていると次第に一体感が生まれ、胸が震えて仕方なかった。コースは仙台空港に近い岩沼海浜緑地を起点に、行政区域の約半分が浸水した岩沼市と亘理町を通り、甚大な被害を受けた名取市閖上で折り返す。所々に3・11を形にとどめた廃虚があり、慰霊碑があった。かつての集落の名残なのであろう家の基礎も度々目にした

 ▼地域の名産を使った給食、心のこもったスタッフやボランティアの対応。実に気持ちの良い大会だった。ただ1万6000人のランナーは厳しい現実も同時に胸に刻んだろう。それが復興の次の一歩への大きな力になると信じたい。


重力波初観測でノーベル賞

2017年10月05日 07時00分

 ドイツの考古学者シュリーマンのことは多くの人がご存じだろう。トロイアの遺跡を発掘したことで知られる偉人伝の常連だ

 ▼ただの物語にすぎないと考えられていたギリシャ神話のトロイアの遺跡が実在すると信じ、私財を投げ打って探し回った末にとうとう発見した人物である。幻を追い求める変人と笑われようが諦めなかった。だからこそ歴史を塗り替える宝物を発見できたに違いない。偉人たるゆえんである。こちらの宝物もアインシュタインの予言からおよそ100年、存在を疑われたこともあったが、昨年初めて観測に成功した。重力波のことである。3日、その初観測に貢献したマサチューセッツ工科大のレイナー・ワイス氏ら3人の米研究者にノーベル物理学賞が贈られた

 ▼重力波は時空のゆがみが光速で波のように宇宙を伝わる現象。もちろんシュリーマンのようにくわとすきを使って見つけたわけではない。観測装置「LIGO」で、250兆分の1㍉の時空のゆがみの差を計測したのだとか。この重力波、観測が困難なほど小さいものの、光や電波と違い何物にも遮られない特異な性質を持つ。つまり宇宙誕生のころの重力波を捕まえられれば、宇宙の歴史解明も夢ではなくなるわけだ

 ▼この初観測には日本人研究者も裏方として重要な役割を果たしたらしい。国内では大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」による研究も進む。宇宙にはまだ謎がたくさんある。これからは夢の実現に燃える日本の「変人」たちが銀河の底からざくざくと貴重な宝を掘り出すのだろう。楽しみに待ちたい。


米史上最悪の銃乱射

2017年10月04日 07時00分

 だいぶ以前に読んだためどこで目にしたかは忘れてしまったが、「背負い方一つで重荷も軽い」という言葉を覚えている。長年山登りをしている経験からしても、これは間違いのない事実

 ▼ただ、ここでは気の持ちよう一つで、生きやすくも生きづらくもなることを教えている。人生に前向きで周囲には友好的なら軽やかに生きることができようし、逆に悲観、敵対の態度なら重荷を背負って生きることになるわけだ。石川啄木も悲観に陥りがちな人だったらしく、相当な重荷を負って生きていた風がある。「一度でも我に頭を下げさせし人みな死ねといのりてしこと」の歌がそれを象徴していよう。こうした攻撃的な感情が銃社会の中で何かの拍子に暴発すると、今回のような陰惨な出来事になるのかもしれない

 ▼日本時間2日午後に米国ラスベガスのコンサート会場で起こった無差別銃乱射事件である。少なくとも59人が死亡、500人以上が負傷したそうだ。銃乱射事件としては米史上最悪の死者数だという。容疑者の男は会場を見下ろすホテルの32階の部屋から、約10分にわたり2万2000人の観衆に向け自動小銃を撃ち続けた。男は自殺したが部屋には大量の銃と弾薬があったそうだ。多くの人を殺傷しようと周到に準備していたらしい

 ▼残虐な上に極めて卑劣なこの男、重荷の背負い方を間違えていたのだろう。銃の力を頼りゆがんだ感情を最悪の形で噴き出した。どんな重荷を感じていたにせよ、啄木のように祈るくらいでとどめておけばよかった。簡単に銃を入手できる社会の怖さである。


「No Maps2017」

2017年10月03日 07時00分

 No Maps2017が、5日から15日まで札幌市内で、開催される。昨年プレ開催したが、本開催はことしが初めて。先端テクノロジーを積極的に生かして、札幌・北海道を社会実験・社会実装の聖地にすることを目指す

 ▼実行委員長を務めるクリプトン・フューチャー・メディア代表取締役の伊藤博之氏は、民間企業、自治体、教育研究者が一堂に会し効率的な運営ができるオール北海道体制の利点を強調する。多くの市民が日常生活で使っている札幌駅前から大通までの地下広場「チ・カ・ホ」を展示スペースとして利用し、VRの体験イベント「没入祭」など多彩な体験型コンテンツが用意される

 ▼札幌駅直結ACU―Aをメイン会場に開かれるビジネスセッションも充実している。第3のIT革命と呼ばれ、社会の仕組みを変えるブロックチェーン、空の産業革命と注目されるドローン、身近になってきた宇宙ビジネスなど、魅力的なテーマが並んでいる。その中でも、人工知能関連の企画が目立つ。11日開催の「農業、漁業、産業、観光、そしてAI~IoT、ビッグデータを利用した北海道からの人工知能の取り組みへ~」は農業、観光など、膨大なデータの宝庫である北海道の可能性を示す

 ▼テクノロジーが急速に社会全体を変えていく前例のない時代を迎えている。人工知能を中心とする多様なテクノロジーの生態系が産業革命を上回る劇的な変化をもたらすだろう。No Mapsのキャッチフレーズは「まちに、未来を、インストール。」。会場に足を運び、一足早く未来に触れたい。


ふるさと納税の使い道

2017年09月30日 07時00分

 まだ一度も「ふるさと納税」をしたことがない。ただ興味だけはあって、時折、各自治体の取り組みを紹介するWebサイト「ふるさとチョイス」をのぞいている

 ▼豪華すぎるとか、趣旨を逸脱した返礼品があるとか何かと話題のこの制度だが、肝心なのは使い道。このサイトで、思わず応援したくなる素敵な事例を見つけた。本道の遠別町である。ふるさと納税を活用し廃校寸前だった遠別農高を救ったというのだ。遠農は人口約2900人の町にある日本最北の農業高校。近年は入学者が減り、存続の危機に陥っていたそうだ。住民にとって学生は未来の希望。町が起死回生の策として打ち出したのが、遠農ブランドの食品や農産物をふるさと納税の返礼品にすることだった

 ▼丁寧な作りでおいしい遠農ブランドはもともと人気で、地元のイベントではいつも行列ができるほどだったという。返礼品にしてみるとこれが大当たり。寄付金は合計で以前の60倍、1億3000万円(2016年)に伸びたのである。町はこの大切なお金を遠農支援に充てた。ドローンやタブレット端末の授業への導入、札幌での遠農アンテナショップ開設である。好循環ができ、入学者も着実に増えているらしい。こうした町と遠農の物語に魅力を感じ、道外から来た生徒までいるのだとか

 ▼野田総務相が26日、全国の自治体にふるさと納税の使途を明確にするよう要望した。移住や交流人口の増加をさらに進めてほしいとの意図だそう。これを機に自治体が学び合い、遠別町のような優れた事例がたくさん生まれるといい。


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