コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 271

衆議院解散

2017年09月29日 07時00分

 何がどうしたのかさっぱり分からない。きのうの衆議院解散の報を聞き、そう思った人がほとんどではないか

 ▼安倍首相はなぜこの時機を選んで解散したのか、小池都知事の希望の党は日本をどう変えようとしているのか、事実上の解党を決断した前原民進党代表の思惑とは…。一部の国会議員は生き残りをかけ、コウモリよろしくあっちへフラフラこっちへフラフラ。国民のことなどまるで気にもしていないようだ。政府は衆議院選を10月10日告示、22日投開票と決めた。置いてきぼりを食ったような国民のさめたムードを尻目に、政界は一気に盛り上がりを見せている。まあ、彼らにとっては数年に一度のお祭りなのだろう。普段は目立った仕事もしないのに、みこしを担ぐとがぜん元気になる人はどこにでもいる

 ▼大義と言えるかどうかは置いておくとして、今回、安倍首相が信を問うのは「全世代型社会保障」のための消費税増収分の使途変更と9条見直しを主とする憲法改正、北朝鮮への対応策だという。これに対し突如台頭してきた希望の党は、しがらみのない政治を実現するため「日本をリセット」するそうだ。耳触り良い言葉で政権を握ったものの、国力の弱体化を招いたかつての日本新党や民主党と同じでなければいいのだが

 ▼民進党に至ってはうたかたの夢がついえたというのだからお話にならない。さて、分からないと悩んでいても仕方がない。政権選択の意思を示す貴重な機会。どの候補者が仕事をする人か、みこしを担いで空騒ぎするだけの人か、さめた目でしっかり見極めたい。


子どもに被爆影響なし

2017年09月28日 07時00分

 マスコミのことはどうも信用がならない―、と思っている人は案外多いのでないか。マーク・トウェインもそうだったようで新聞をやゆした短編を残している

 ▼一人の記者がありもしない出来事を面白おかしく伝え、新聞の部数を大いに伸ばす話である。読者の指摘でうそがばれた記者はこう強弁する。「人が新聞を編集するためにものを学ばなければならんなどというばかげたことを聞いたのはこれがはじめてだ」。記者の役割は世の中について不断に学び事実を明らかにすることではなく、たとえうそでも人が好む記事を提供することだというのである。トウェイン流の毒舌だが、はて、今の日本でこれをただの作り話として笑えるかどうか

 ▼全分野の科学者を代表する日本学術会議が今月初め、福島原発事故による子どもたちへの放射線被ばく影響はないとの見解を発表したのだが、大々的に取り上げたマスコミはほとんどなかった。恐怖をあおり、被災者いじめを助長する報道は相変わらず多いのにである。その報告は「子どもの放射線被ばくの影響と今後の課題」。6年かけ丹念に調査を重ねた結果という。「現在も今後も子どもへの影響なし」の事実は、本来ならトップニュースになっておかしくない

 ▼ところがマスコミの関心はいまだ福島の危険性にばかり偏っている。どうやら事実であっても、安心は大きく取り上げる価値などないようだ。人々が判断するための肝心な材料をあえて伝えないなら、うそを流布するのと同じだろう。そう言ったら、「ばかげたことを」と怒られるだろうか。


リセット

2017年09月27日 09時17分

 菊池寛は時代短編「形」で、見掛けが他者に与える影響の本質を鮮やかに描いてみせた。主人公は五畿内中国に知らぬ者のない勇猛な侍大将中村新兵衛。火のように赤い羽織と金のかぶとが特徴で、それを見ただけで相手は震え上がったという

 ▼ある日、新兵衛は懇意にしている若侍に、初陣で勇気を付けるために侍装束をぜひ貸してほしいと頼まれた。快く承諾し、自身は地味な黒いよろいを着て戦に出たのである。さてどうなったか。若侍は経験のなさを全く感じさせない活躍ぶり。何せはなから敵は赤い羽織にひるんでいるのだから楽なもの。一方、正体が気付かれていない新兵衛には次から次と敵が打ち掛かる。つまりこれまでは大部分、赤い羽織が戦っていたわけだ

 ▼どうやらこちらも同じではないか。頼りなさばかり目立っていた若狭勝、細野豪志両氏が中心になって立ち上げを進めていた新党だが、小池百合子都知事が代表に就くと表明した途端、政局の中心に躍り出た。小池色の羽織の強さだろう。新党名は「希望の党」に決めたそうだ。おとといの記者会見での小池氏の発言が奮っていた。これまでの議論を「リセット」し、自分が直接絡む形にすると宣言したのである。若狭、細野両氏の黒いよろいでは、この厳しい戦に勝ち目はないと判断したに違いない

 ▼ただ忘れてならないのは、急ごしらえの中身まで変わったわけではないことである。選挙戦を通じ政策に具体性がないと分かれば、小池色の羽織の効力も失われよう。小池氏のことだから、さらなる隠し玉があるのかもしれないが。


優性遺伝と劣性遺伝

2017年09月26日 07時00分

 日本語に多彩な表現力があることも一因だろう。日本人はある言葉が本来持っていない意味まで音で感じとり、気にするところがある

 ▼「するめ」を「あたりめ」に、「おしまい」を「お開き」に言い換える類いのことである。あらためて言うまでもないが、「する」の音からはすり減りなくなることを連想してそれを嫌い、祝いの席ではめでたさが「おしまい」になるのを避けたい気持ちが働く。実に神経が細かい。そんな日本でなぜこれが今まで放置されてきたのか分からない。「優性遺伝」と「劣性遺伝」である。日本遺伝学会が最近、遺伝に優劣があるとの誤解や偏見を生む恐れがあるとして、実態に合わせ名称を改めることにしたそうだ

 ▼もとより優秀ゆえの優性でなく、劣悪ゆえの劣性でもない。対立する形質の現れやすい方を優性、もう一方を劣性と名付けたにすぎないのである。科学用語のため素人には敷居が高かったのかもしれないが、言葉に敏感な日本人ならもっと早くに対処できてよかった。何せ明治期に「メンデルの法則」を普及させるため考案された訳語である。専門家が使う分には不都合もなかったのだろう。ところが言葉が一般化するにつれ「優劣」の文字が独り歩きを始め、差別を助長することもあったというから遅きに失した感は否めない

 ▼学会は「優性」を「顕性」、「劣性」を「潜性」に改めるとのこと。これで誤解も減るに違いない。今まで違和感を覚えていた人も多かったはず。日本人ならではの血の通った言語感覚で言葉を見直す大切さを示した良い例ではないか。


秋分の日の決心

2017年09月23日 07時00分

 日本は四季がはっきりした国といわれるが、秋だけはどうもその訪れが分かりにくい。雪が降ると冬で解けると春、夏日が日常になると夏とそれらの季節は迷うことなく実感できるのだが、秋はいつもふと気付くと秋なのである

 ▼詩人で仏文学者の堀口大学の随筆にも夏の終わりころのこととして「朝夕の空気の中に、今までに感じられなかった秋のバイキンがひそんでいたことは否みがたかった」との記述があった。感性の鋭い詩人にしてこうなのだから、やはり夏と秋の境目は判別をつけ難いものなのだろう。ただ、この日を過ぎれば誰の気持ちにもくっきりと季節の線が引かれる。それがきょうの秋分の日である

 ▼秋と聞いて思い浮かぶのは「収穫の秋」と「スポーツの秋」。となれば季節の線を引くだけでなく、生活習慣病を予防するための決心の線を引くにも最適の日といえるのでないか。厚生労働省がおととい、糖尿病を強く疑われる人が全国で初めて1000万人の大台に乗ったとの推計を発表した。2016年に20歳以上の男女約1万1000人を対象に実施した国民健康・栄養調査で明らかになったという。主な原因は高齢化で、臓器の機能低下や肥満が増加に拍車を掛けているらしい

 ▼加えて予備軍も1000万人いるのだとか。「バイキン」のように社会に潜み、じわじわと日本をむしばんでいるわけだ。進行すると様々な合併症を起こす怖い病気だが、対策は生活習慣の改善に尽きる。旬の野菜を多く食べ、適度に体を動かす。この秋は「天高く体引き締める秋」としたいものである。


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