コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 292

北海道の桜

2017年04月25日 09時21分

 本道にもようやく桜前線が上陸したらしい。気象台でなく松前町の独自観測だが、おとといの昼過ぎに松前公園の松前城前でソメイヨシノの開花が見られたそうだ

▼10年ほど前に松前を訪れたときには、幾種類かの桜が見事に咲き競う風景を眺めることができた。「桃色を重ねてさくら空に入る」松山瑛子。松前城では色調の異なるいろいろな桃色の重なりを見ることができて楽しい。そんな満開の日も、間近である。開花と聞いて、少し前に読んだ話を思い出した。ジャーナリスト池上彰氏が斎藤美奈子著『それってどうなの主義』の解説に書いていたことである

▼臨時教育審議会を取材していた際、日本の学校も9月入学を認めてはとの議論になったという。すると、「ある『有識者』が、四月入学の死守を主張して『入学式は、やっぱり満開の桜の下で行われないと』と発言したのです」。これには池上氏もあぜんとしたそうだ。その「有識者」は、日本国中どこでも桜の咲く時期は同じと信じていたらしい。北東から南西にかけて長い日本列島とはいえ、あまりにも想像力に欠ける。もとより本道の入学式が満開の桜の下で行われたためしはない。道産子にとって桜といえばやはり5月ゴールデンウィーク前後の行楽と花見だろう

▼日本気象協会の開花予想によると、函館がきょう25日、札幌が30日、5月に入り旭川が3日、釧路が14日とのこと。新年度が始まってひと月。一息入れるにはちょうど良い頃合いだ。その気持ちに寄り添うように咲く北海道の5月の桜もまた、風情のあるものである。


自分の罪を顕微鏡で

2017年04月22日 09時00分

 司馬遼太郎が昭和中期に取り上げたことで再び知られるようになった明治期の宗教哲学者に、真宗大谷派の僧侶清沢満之がいる。東大文学部に学び、仏教界の改革に乗り出した人だったという

 ▼厳しい自戒生活を実践する中で、こんな言葉を残したそうだ。「他の善と、自の悪とは、顕微鏡にて之を見よ。そのいかに大なるかを感ずべし。他の悪と自の善とは、望遠鏡にて之を見よ。そのいかに小なるかを感ずべし」。自分の犯した過ちは、わが身かわいさもあってつい過小評価してしまいがちなもの。悪気はなかった、わざとじゃないんだ、と言い訳を並べたくもなる。そこをあえて拡大して見ることで初めて、自分の罪の重さや他の人に与えた痛みが分かるというのだろう

 ▼誰にでも当てはまることではある。ただ、悲惨な交通事故を起こし、罪が重過ぎるからと下級審判決を不服として控訴していた者たちには特に、この言葉をかみしめてほしい。小樽と砂川の裁判で、相次いで危険運転致死傷罪が決まった。女性4人が死傷した小樽ひき逃げで最高裁は18日、被告の「罪が重過ぎる」との主張を退け、二審判決妥当の決定を下した。一家5人が死傷した砂川も、札幌高裁は14日、被告2人の「共謀していない」との訴えを認めず一審判決を支持した

 ▼控訴を否定するつもりはないが、裁判で見えたのは自らの罪を望遠鏡で遠く眺めるかのような被告たちの罪悪感の薄さである。これでは被害者らも救われまい。刑務所には時間という顕微鏡もあろう。今度こそ自分の罪をしっかり見詰めねばならぬ。


PKO部隊帰国

2017年04月21日 09時45分

 その日が楽しみで待ち遠しくてたまらない。そんな経験、誰にでもあるのではないか。小欄で度々紹介している読売新聞の「こどもの詩」にも、わくわくした気持ちが伝わるこんな作品があった

 ▼「きのうは/あさって/だったでしょう 今日は/あした/でしょう あしたになったら/今日なんだよね 黒部ダム/行くの」。まつざきやす子さん(小3・当時)の「黒部ダム」である。心はもうその日にいるらしい。子どもたちには小さな旅行もうれしい出来事だろう。ただ、仕事で長く家を留守にしていたお父さんが帰って来たとなれば、喜びはそれ以上だったに違いない

 ▼南スーダンの国連平和維持活動(PKO)に派遣されていた陸上自衛隊第11次隊の第1陣が19日、帰国した。あさって、あした、きょう、と心待ちにしていたその日が、ようやくやって来たのである。もちろん子どもたちだけではない。言葉に出さずとも周囲の人々は皆、安全とは言いかねる地での活動に心が休まる暇もなかったはずだ。「ひさびさにかへり来れる村の上に低く大きく月いでにけり」(土屋文明)。派遣部隊の中心となった第9師団の拠点青森市に降り立った隊員たちも、家族の顔と見慣れた風景に触れ、やっと重い肩の荷を下ろせたのではないか

 ▼今次は「駆け付け警護」付与や消えた日報といった話題ばかり騒がれたが、何よりもまず社会基盤修復や生活支援など現地のため力を尽くした隊員の奮闘にこそ目を向け、ねぎらうべきだろう。ともあれ戦闘で子どもを悲しませる人が出なくて本当に良かった。


日米経済対話

2017年04月20日 09時34分

 武芸者宮本武蔵は「景気を見る」ことを勝負の極意としていた。『五輪書』火の巻に記している。景気といっても経済状況の方でなく、観察して見て取れる様子の方

 ▼武蔵の教えはこうだ。「敵のながれをわきまへ、相手の人柄を見うけ、人のつよきよわき所を見つけ、敵の気色にちがふ事をしかけ(略)、先をしかくる所肝要也」(講談社学術文庫)。相手の実力を正確に見抜き、先手を奪うことが最も重要らしい。おととい、「日米ハイレベル経済対話」の初会合が開かれ、いよいよ日本とトランプ政権との経済交渉が始まった。早速、お互いの「景気を見る」腹の探り合いが繰り広げられているようだ。先頭に立って剣を交えるのは、麻生太郎副総理とペンス米副大統領である

 ▼まだ本格的な斬り合いには至っていないが、麻生副総理がTPPへの復帰を促せば、ペンス副大統領がそれは過去のものといなし、返す刀で2国間協定を持ち出すという具合。立ち合いは穏やかながら両者一歩も引かぬ構えである。日米の経済関係を象徴するものとして以前、対日年次改革要望書なるものがあった。米国を利する規制改革を日本が進めるためのいわば指示書である。多くの国民はその存在を知らず、公になったときには随分と騒ぎになったものだ

 ▼そこへいくと米国の総大将トランプ氏は、内容はともかくとして真っ直ぐ要求を投げ付けてくるから分かりやすい。常に大上段の構えをとり、力任せに打ち込んでくる型である。さて、相手の流儀もだいぶ把握できた。今度は日本の鮮やかな返し技を見たい。


列車の遅れ

2017年04月19日 09時04分

 きのうの朝、仕事に向かおうとJR発寒駅まで行くと雨のため列車が遅れていた。JR北は昨今、問題ばかりという負の印象が頭にこびりついているせいか、つい「こんな雨ぐらいで」との不満が浮かぶ

 ▼乗客は皆静かに待っていたものの、筆者と同じ思いの人も少なからずいたのでないか。ただ説明をよく聞くと雨そのものでなく、朝里付近で斜面から水が出ていたため区間の運行を中止して点検しているとのこと。お恥ずかしい話だが、実は待合室で流れていた放送がこもり気味で、当初、「斜面」を「車内」と聞き間違えていた。雨で車内が水浸しなんてまた車両の不備か―と早合点した次第。分かってみれば安全のための当然の措置。路盤が流出して事故が起きては元も子もない

 ▼函館本線の札幌小樽間は海沿いを走るため乗客は爽快な気分を味わえる。半面JRにとっては泣きどころだ。明治の幌内鉄道建設で散々苦労したことでも知られる通り、崖地に線路があるため気象の影響を受けやすいのである。朝の列車遅延を機に、あらためて本道の鉄道網が広い大地の多くの難所を越えて張り巡らされていることに気付かされた。「半分の路線が単独で維持困難」の発表から半年。JR北はこの大きな壁を前に立ちすくんでいるように見える

 ▼ただようやく前向きの動きも出てきた。沿線自治体との話し合いである。宗谷線とは既に会合を持ち、27日には石北線とも開かれるらしい。廃線となれば遅延どころの騒ぎでない。JR北への批判もあろうが地域もわが事として腹をくくるべき時なのだろう。


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