コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 290

1兆円企業

2017年05月12日 08時45分

 帯広出身の作家池澤夏樹は、ワープロで書いた作品で芥川賞を受けた最初の小説家だったという。エッセー「デジタル化で失ったもの」に記していた

 ▼以来、情報機器を活用してきた氏は同じエッセーで、まずデジタル化の恩恵に触れている。「百科事典で一つの項目を引く手間を思い出してみれば、インターネットに重さがないことの利点がわかる」。本など重い媒体からの解放は相当印象深い出来事だったようだ。実はこのエッセー、2009年に出されたもの。当時でも既に驚くほどの利便性があったが、インターネットの世界が今、さらに進んでいるのはご存じの通り。であれば、当然の結果なのだろう

 ▼インターネットを事業基盤とするソフトバンクグループの17年3月期最終利益が、初めて1兆円を突破したそうだ。10日に連結決算の発表があった。前期比3倍の1兆4263億円というから著しい伸び。株式の売却益もあったが主力の光回線通信事業の好調が、飛躍的な利益の向上に貢献したらしい。最終利益の1兆円超えはトヨタ自動車に次ぐ2社目の快挙。一方、トヨタも同日、決算を発表したもののこちらは円高の影響で5年ぶりの減収減益。明暗を分けた。この3月期は「重さ」がない方の企業に軍配が上がったわけだ

 ▼池澤氏は、デジタル化で「肉体感」が失われたが「文化的な営みの多くは肉体の参与を求めている」と指摘していた。ならば体験を売る自動車は世界でまだまだ求められる製品だろう。「重さ」がある方もぜひ、日本企業の雄として存在感を示し続けてほしいものだ。


韓国新大統領に文在寅氏

2017年05月11日 09時06分

 米国のファンタジー作家ル=グウィンの連作長編に『ゲド戦記』(岩波書店)がある。これを下敷きにしたジブリ映画の方をご存じの人もいよう

 ▼第1巻「影との戦い」では主人公の魔法使いゲドが若いころ犯した過ちと、そこから立ち直るための戦いが語られる。ゲドは自分には強大な力があると思い上がり、誤って死の国から世界の秩序を壊す「影」を呼び出してしまうのだ。ゲドにできるのは逃げ回ることだけ。実は「影」とは、自分自身の醜い分身だったのである。逃げるとどんどん大きくなるが、立ち向かって正面から光を当てると力を失う。苦難の末、やっとそのことに気付いたゲドは、「影」をも受け入れて生きることを学んでいく

 ▼きのう、韓国大統領選で文在寅氏が当選したとの報を聞き、この物語を思い出した。というのも反朴槿恵政権、反日、親北朝鮮と、文氏も多くの「影」を引きずって船出するからである。今はそれらを背にしていられるが、これからは対峙(たいじ)せねばならない。韓国政治史上初めて罷免された前大統領の後を受ける革新派の指導者として、期待はいやが上にも高まっている。中でも財閥と政治の癒着解消や既得権益の打破、若者の雇用創出を熱望する国民の姿には、鬼気迫るものがあるらしい

 ▼気になるのはこれらの課題が暗礁に乗り上げたときのことである。自らの失政を反日という「影」に移し変え、さらに事態をあおることで国民の目をそらそうとしてきた大統領を、これまで一体何人見てきたか。文氏にはそんな旧弊をも革新してもらいたい。


ほどける靴ひも

2017年05月10日 09時08分

 しっかり結んだはずなのにどうして―。いきなりほどけてしまう靴ひもに、いら立たしい思いをさせられた人は多いに違いない。最近、この靴ひもが急にほどけてしまう謎が解明されたという

 ▼AFPによると突き止めたのは米カリフォルニア大の3人の研究者たち。トレッドミルで繰り返し人を走らせ、超スローモーション映像の分析を続けたそうだ。まあ、原因が分からなくても支障はないが若干の興味は覚える。仕組みはこういうことらしい。足が地面を叩き付ける衝撃と前後に素早く揺らすことで起こる振動、その2つの力が同時に作用して徐々に靴ひもを緩め、ある点を超えると一気にほどけてしまうのだとか。なるほど何にでも理由がある

 ▼民進党の蓮舫代表にも、ぜひ教えてあげたいものだ。おそらく今、党組織が急激にほどけていく理由を探しているだろうから、いくらか参考になるのではないか。気付けば長島昭久氏ら重鎮が去り、党内の不協和音は増大。都議選でも離党ドミノが加速している。おとといの国会で福島伸享議員が安倍首相と森友学園は「ずぶずぶの関係だ」と指摘したときには、品の悪い言葉で中身のない質問をする姿勢が支持率に表れている、と首相に皮肉を言われる始末

 ▼失言連発の大臣らを抱える首相もよく唇が寒くならないものだと感心するが、日本の針路より政権攻撃にしか関心がないかのような近頃の民進党への批判としては一理あろう。先の研究によると絶対にほどけない靴ひもはないそうだ。民進党は一度立ち止まり、走り方、結び方を見直した方がいい。


ギョウジャニンニク

2017年05月09日 09時10分

 ことしは前線の進み具合がちょうど良かったらしく、ゴールデンウイークにかけ道内多くの地域で桜が見頃を迎えた。天気にも恵まれたから花見に繰り出した人も少なくなかったろう

 ▼当方は花より団子というわけで、知り合いに誘われるまま旭川の山でギョウジャニンニク採りを楽しんだ。こちらも時期がちょうど良かったようで、斜面にみっしり群生し、まさに採り頃。ほくほくしながらたっぷり袋に詰め込んだ。本道で山菜の王様とも称されるギョウジャニンニクは、かなり古くから食べられていたようだ。アイヌ民族の昔話にも時折出てくる。例えば人間の魂が神の国に行くために、あの世のギョウジャニンニクを持ってこの世に出てくる話

 ▼また、根こそぎ採られたことに怒ったギョウジャニンニクの神が、村おさの妻を病気にして殺してしまう話もあった。山の恵みの中でもとりわけ大切にしていた証しだろう。食材としてはもちろん、薬代わり、さらには魔よけにもなったと聞けばそれもうなずける。実際に薬効があるのかどうかは知らないが、ギョウジャニンニクに限らず山菜を食べると山の力を分けてもらったようで元気が出る。これから初夏にかけてはこれまた山の精気をたっぷり含んだタケノコやフキ、ウド、ワラビ、コゴミの出番だ

 ▼かつて読んだアイヌの古老のこんな言葉を思い出す。「冷害でも困ることはないさ。昔みたいにその辺にあるもの食べれば生きていけるから」。桜の開花を合図に、山菜が次々と食べ頃を迎える。本道の豊かさを実感できる季節がまた巡ってきた。


憲法施行70年

2017年05月03日 09時10分

 イソップ寓話(ぐうわ)の一つに「男の子と木の実」がある。同様の話は数多くあるから、どこかで耳にしたこともあろう。こんな内容である

 ▼男の子が家で木の実の入った瓶を見つけ、食べようとした。つかめるだけつかんで出そうとしたものの握り締めた拳が瓶の口に引っ掛かる。何度やっても出せず、男の子はついに泣き出してしまう。それを見ていた母親があきれ声でひと言。「一つずつ出して食べなさい」。あれも欲しいこれも欲しいと一遍に多くを望んでも、結局何も手に入らない。そんな経験的知恵を教えるものだろう。木の実ならかわいいものだが、これが日本国憲法だとそうも言っていられない

 ▼憲法論議を聴いていると、あまりにも多くを憲法に望み過ぎではと思わされることがしばしばあるのだ。例えば、いわゆる「護憲派」と呼ばれている論者たちの9条の扱い。日本の平和と世界の平和、国際紛争の解決。これら全てを、今ある9条の瓶から一遍に出そうとしている。さぞ、難しかろう。一方、「改憲派」の代表格自民党の「改正草案」。こちらは保守というより、ちりばめた戦前の価値観で国民の思想まで手に入れようとしているようだ。何とも息苦しい。安倍首相は1日、この草案をそのまま憲法審査会に提案することはないと表明したが、賢明な判断だろう

 ▼きょうは日本国憲法が施行されて70年の節目である。あらためて条文を一つずつ瓶から出して点検するのに絶好の日ではないか。おっと、その前に護憲派も改憲派も、まずは固く握り締めた拳を開いた方がいい。


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