ごく当たり前の慣習と受け入れてはいるものの、機会の平等が広まった今ではどこか前時代的な雰囲気も漂う。子へ、孫へと地位や家業を継承させていく世襲とはそういうものでないか
▼『平成川柳傑作選』(仲畑貴志・選、毎日新聞出版)にもこんな一句があった。「世襲制よっぽどいいことあるんだな」(長崎 ゴータロー)。持たざる者のひがみと言ってしまえばそれまでだが、多くの人に共通する思いだろう。「よっぽどいいこと」に、首相公邸で開く忘年会も含まれるのかどうかは分からない。一般の国民には思いも寄らないことである。ただどうやら、岸田首相の政務担当秘書官を務める首相の長男翔太郎氏には、「宴会場首相公邸」がいい発想に思えたようだ
▼昨年末、親族10人ほどで私的な忘年会に興じていたという。さらには組閣時に記念撮影も行われる階段の赤じゅうたんで写真を撮ったり、寝転んだり。昨今世間を騒がす「迷惑系ユーチューバー」をほうふつさせるはしゃぎぶりだったそう。首相もさすがにかばいきれなくなったに違いない。翔太郎氏の行為を公的な立場にある者として不適切と認め、更迭を発表。あす付で交代させる。親としては断腸の思いかもしれないが、首相としては遅きに失した感が否めない
▼翔太郎氏はこれまでも何度か自覚や責任の欠如を指摘されてきた。先の川柳傑作選にはこんな句もあった。「相続率孝行率と比例せず」(宮城 はむすたあ)。親が苦労して築いた信用を、世間知らずの子がぶち壊すのも世襲ではよくある話。いいことばかりではない。