コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 101

中国のサイバー攻撃

2021年04月23日 09時00分

 東西冷戦時代を象徴する規制組織の一つ、対共産圏輸出統制委員会が解散して27年になる。通称のCOCOM(ココム)の方が耳なじみがいいかもしれない

 ▼1982年のココム事件を覚えている人も多いのでないか。大手工作機械メーカーが、潜水艦のプロペラ音を静粛化する高精度の工作機械をソ連に輸出していたのである。日本企業の貪欲さと、政府の安全保障に対する認識の甘さがさらけ出された事件だった。ココムはなくなったが、事実上それと似た働きをする枠組みとして最近よく話題に上るのが「対中包囲網」である。狙いは中国の覇権主義を食い止めること。制度的裏付けはないものの、米国が主導し、同調する国も増えてきた。最先端技術の流出防止も主要な目的だ

 ▼中国も手をこまねいてはいない。近年、急速に進めているのがインターネットを駆使した情報窃盗、ハッキングである。日本でも防衛・航空産業や最先端技術を持つ企業が多数、サイバー攻撃を受けていた実態が明らかになった。警視庁公安部が20日、中国在住で中国共産党員の男を私電磁的記録不正作出容疑などで東京地検に書類送検したのである。宇宙航空研究開発機構や三菱電機、IHIといった企業約200社を攻撃し、機密情報入手を謀ったとみられている

 ▼大規模な犯行に驚いたとはいえ、意外ではない。「LINE」の情報が中国と韓国に筒抜けになっていた事案でも分かる通り、日本のサイバーセキュリティー意識とスパイ行為に対する罰則は他国に比べ甘すぎる。ココム事件からあまり進歩していないのだ。


デジタル給与

2021年04月22日 09時00分

 三島由紀夫の作品に、『百万円煎餅』という少々不健全ながら味わい深い短編小説がある。値段が百万円の高価な煎餅を買う話でも、煎餅を百万円分大量に買う話でもない

 ▼若い夫婦が仕事に向かう途中で浅草の屋内遊技施設「新世界」に寄り、験がいいからと実際には存在しない百万円札を煎餅のようにしたお菓子を買うのである。本筋ではないが、そのエピソードが効果的に使われ物語に奥行きを与えているのだ。百万円札をかたどった煎餅というのがいかにも安っぽく、おかしみがある。どこかの土産物屋に置いてありそうでないか。今はまだこんな話も引っ掛かりなく楽しめるが、近い将来、理解できない人がほとんどになるかもしれない

 ▼スマホの決済アプリなどで給与を受け取る「デジタル給与」の解禁に向け厚生労働省の検討が加速している。19日、労働政策審議会の分科会に制度案の骨子を示したという。銀行振り込みにはまだ現金の感触が残っていたが、デジタル給与となるともはや実体がない。受け取りから支払いまで全てスマホや電子マネーで済むとなれば、お金に触れる機会は一気になくなっていこう。妻が夫にこづかいを渡すのもスマホでピッで終わり。便利だが風情のないことこの上ない

 ▼とはいえ情報の恒久的安全性さえ保証されるなら、既に使い慣れた人にとっては歓迎できる制度変更に違いない。まあ、これも時代の流れ。米や小判で給与を受け取っている人は今いないのである。ただ、験を担ぎたいときには、たとえ安っぽくとも電子マネー煎餅より百万円煎餅の方がいい。


新型コロナと戦うのは

2021年04月21日 09時00分

 本郷猛と一文字隼人。この二人の名前を聞くと胸が躍るかつての少年は多いだろう。言わずと知れた『仮面ライダー』(石ノ森章太郎原作)の1号、2号である。特撮ヒーローテレビドラマの放映開始が1971年4月だから、今月でちょうど50周年を迎えた

 ▼昆虫や動物の特徴を備えて改造された怪人はどれも醜く恐ろしい。第1話に登場した「蜘蛛男」の気持ち悪い姿が、目に焼き付いて離れない人もいるのでは。第2話の怪人「蝙蝠男」もかなり不気味だった。コウモリならではの鋭い牙で攻撃するのだが、本当に恐ろしいのはその先。人間にかみついて人工ウイルスを植え付け、意のままに操ることができたのである。ショッカーはそれで人類を征服しようと企んだのだ

 ▼新型コロナウイルスも中国の武漢でコウモリの媒介によって人間に感染した可能性が高いとされている。人工ウイルスではないにせよ、50年前に今と符合する状況が設定されていたことに驚く。感染症の怖さが分かっていたに違いない。新型コロナは瞬く間に世界中に広がった。まだ終わりは見えない。一時は押さえ込んだかに思えた日本も今は第4波の真っただ中だ。大阪府はきのう、政府に3度目の緊急事態宣言発令を要請。東京都も再要請を検討していると聞く

 ▼とはいえ宣言が仮面ライダーのようにウイルスを倒してくれるわけではない。コロナ対応の医療関係者だけに頑張らせてよしとするわけにもいかない。3密回避と手洗いの励行、感染を広げない行動を武器に自分も他人も守る。一人一人がヒーローにならなければ。


日米首脳会談

2021年04月20日 09時00分

 近年、「コミュ力」なる言葉を聞く機会が増えた。説明するまでもないと思うが、コミュニケーション能力を略したものである。他人と自在に意思を通じ合わせる技術や才能のことをいう。学校や職場で本当に役立つのは学力よりコミュ力と考える人も多いようだ

 ▼たまにこのコミュ力の権化のごとき人がいる。その日初めて参加した集まりなのにすぐ場になじみ、旧知の間柄のように皆と会話を弾ませていたりして。一つ間違えると無礼に陥る危険はあるものの、人と人との間の垣根が低いと話が早い。高いコミュ力が求められるゆえんだろう。安倍前首相はこの力に優れ、外交で遺憾なく発揮していた印象がある。さて、菅首相はどうだったか

 ▼菅首相とバイデン米大統領が16日、ホワイトハウスで対面による初の首脳会談を実施。会談後の共同記者会見で、バイデン氏が自然に「ヨシ」と呼び掛けたのに対し、菅氏は「ジョー」と言うまでに一瞬の間があった。そう簡単に垣根をなくせる性格ではないようだ。どうやら安倍氏ほどコミュ力は高くないらしい。国内での舵取りを見ていても、これぞと思う政策は有無を言わさず断行するが、国民への説明はいつも言葉足らず。仕事はできるのに、それが評価に結び付かないタイプである

 ▼今回もバイデン氏が初めて会談する外国首脳となり、共同声明には中国をけん制する「台湾海峡」の文言が盛り込まれた。大きな成果なのに国内で首相の株が上がった様子はない。外交のためにも国民の信を得るためにも、もう少しコミュ力を高めた方がいいのでないか。


いなかのほんね

2021年04月19日 09時00分

 どこに住み何をして暮らしを立てるか。ほとんどの人が一度は向き合わねばならない問いだろう。巡り合わせによっては、何度かやり直す人もいるかもしれない。それは自分が生きる上で一番大切なものを見つけ出す作業でもある

 ▼最近、そんな人生の一大事について、あらためて考えさせられた本があった。学生たちが道内の過疎地に住む人々にインタビューし、生の声を集めた『いなかのほんね』(中西出版)だ。「不便なところになぜ住むの?」。そんな〝ド直球〟の質問をぶつけられたのは岩見沢市美流渡、毛陽、万字地域に住む10組の方々だった。まとめたのは道教育大の学生26人と美流渡在住の編集者來嶋路子さんである

 ▼「いなか」に暮らすわけも職業もそれぞれだが、共通するのはそこが気に入っていること。横浜から移住し花のアトリエを主宰する大和田誠、由紀子夫妻は旅から戻ったとき感動したという。「こんな静かでよいところに住んでたんだって。帰ってこれたのは幸せだったなあと」。88歳の元左官職人細川孝之さんが美流渡へ越してきたのは、まだ炭鉱華やかなりし80年以上前。市街地での仕事も増えたが、「だんだん離れがたくなっていったんだよね。住めば都だよ」

 ▼札幌から移り住んだ上美流渡のパン屋女将中川文江さんの言葉も胸に染みた。「地方ってダイヤモンドの原石。いろんな人が集まってくると可能性が広がる。そして化学変化していくでしょ」。新型コロナに生き方、働き方の見直しを迫られている今だからこそ、「いなかのほんね」にじっくり耳を傾けたい。


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