コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 109

違法な接待

2021年02月25日 09時00分

 仏文学者の河盛好蔵が著書『人とつき合う法』(新潮文庫)でこんなフランス小話を紹介していた

 ▼仲間とドライブに出掛けたA君がかなり走ったところで右隣のB君にささやく。「C君は最近金に困ってるんで車代は君が持ってくれないか? 昼飯代は俺が持つことにするから」。B君は快諾する。すると今度は左隣のC君に耳打ち。「Bのやつ金がないみたいなんで昼飯代は君にお願いしたい。車代は俺が払う」。そんなことならとC君も二つ返事で引き受けた。自分だけ金を出さずに済んだA君は、うれしさを表に出さないようにしながらも内心大喜びである。ちゃっかりしているというか小ずるいというか、実にけちくさい人物でないか

 ▼さて、こちらの方々も金を出さずにずいぶんと飲み食いさせてもらっていたらしいが、一体どんな気持ちだったのだろう。菅義偉首相の長男が勤める衛星放送関連会社「東北新社」から、公務員倫理規定に違反する接待を繰り返し受けていた総務省幹部らのことである。ただ接待総額は拍子抜けするほど少ない。去年12月までの4年間で計37件、総額52万円。高級官僚には大した額でもなかろう。なぜ折半しなかったか。「許認可権は省が持つ。飲食代は御社で」。そんな軽い調子で暗黙の了解ができていたのかも。いずれにせよけちくさい話である

 ▼先の河盛先生は割り勘派だった。「役人をしていたら、情にほだされて汚職行為をやりかねない弱さがある」ため、他人から恩恵は受けなかったと記している。〝人とつき合う法〟を忘れた官僚は熟読した方がいい。


レジェンド

2021年02月24日 09時00分

 全豪オープンの女子テニスシングルス決勝で、世界ランキング3位の大坂なおみ(日清食品)がジェニファー・ブレイディ(米国)を下し優勝した。2年ぶり2度目の快挙である。中継を見ていたが、息詰まる熱戦というより大坂選手の横綱相撲だった。危なげがない

 ▼他に類を見ない活躍を長年続け、確かな実績を残した選手を昨今は〝レジェンド〟と呼ぶ。大坂もいずれその仲間入りをすることになるのでないか。レジェンドといえば、誰もがすぐ思い浮かべるのはスキージャンプの葛西紀明選手とサッカーJリーグの三浦知良選手だろう。二人とも常に第一線でそれぞれの競技を引っ張ってきた。結果を出すために自分を厳しく律する姿勢も有名だ

 ▼当時はそんな呼称がなかったものの、本道の熟年以上世代にとってはこの人もやはりレジェンドでないか。不用意な言葉に端を発する騒動で職を退いた森喜朗元首相の後を継ぎ、東京五輪・パラリンピック組織委員会の会長に就任した橋本聖子参院議員である。道産子の女子スピードスケート選手として1984年のサラエボ冬季大会から五輪に出場。92年アルベールビルの1500mで日本女子初の銅メダルを獲得した。夏の五輪にも自転車でエントリーするなど全てを競技にかけてきた人である

 ▼政界への進出もだがなぜそんなに頑張れるのかといつも感心していた。今度もスケートなら最終コーナーを曲がり一番苦しい時の就任だ。ただレジェンド橋本聖子なら成し遂げてくれそうな気がしている。五輪成功という新記録への挑戦にエールを送りたい。


現代学生百人一首

2021年02月22日 09時00分

 音楽ユニット「スキマスイッチ」の『全力少年』(2005年)が好きでたまに聞く。大人になった男が現実に流されるのをやめ少年の心を取り戻そうとする歌だ。こんな一節があった。「ガラクタの中に輝いてた物がいっぱいあったろう? 〝大切なもの〟すべて埋もれてしまう前に」

 ▼東洋大学「現代学生百人一首」も、そんな大切なものを思い出させてくれる歌である。先月、第34回の入選作品が発表になった。全国から6万5000首を超える応募があったそうだ。入選した100首の中から幾つか紹介したい。「秋の午後ホウキギターをにぎりしめ聞いてください本当の俺」(世田谷区立梅丘中2年黒田孔)。そう、世界を開くのは君だ

 ▼「ありがとう言えない言葉伝えたい空っぽの弁当見て笑う母」(山形県立北村山高2年笠原小夏)。お互い無言なのに雄弁なこのやりとり。「待つ人がいるから毎日病院へがんばる母にエールを送る」(いすみ市立国吉中3年石井美咲)。娘の応援が何より力になる。技術に誇りを持って研さんを重ねる生徒もいた。「目を凝らし細かくハンドル回してくミリより低い俺たちの世界」(広島県立広島工業高2年池田翔太)。分かっているけどやめられないのがこの年頃の男どもだろう。「プリクラで可愛く写る女たち男よ気を張れ実物ちゃうぞ」(山口県立岩国商業高3年友座猛)

 ▼「彼が打つボールは綺麗にゴールへと私のハートに3ポイント」(千葉市立葛城中2年神原結奈)。コロナ禍にあっても輝きを失わない学生たちのはつらつとした歌に心を洗われる。


副反応

2021年02月19日 09時00分

 新型コロナウイルスワクチンの国内接種が17日に始まった。まず医療従事者からだが、最前線に立つ方々がサージカルマスクやアイソレーションガウンより強い防護力を備える意義は大きい

 ▼重症者、死者の多くが高齢者であることを考えると、優先される医療従事者約370万人と高齢者・基礎疾患を持つ人約4420万人の接種が済めば事態が格段に改善されるのは間違いない。感染対策は大きな曲がり角に来た。副反応を気にする向きもあろう。現在承認されているファイザー製は20万件に1件の割合で重い急性アレルギー反応が出るそうだ。解釈に悩む数字だが、飛行機で死亡事故に遭う確率が10万分の1未満といわれている。単純比較はできないものの一つの目安にはなるのでないか。ただ最終的に決めるのは自分である

 ▼むしろ心配になるのは別の副反応のことだ。社会的副反応とでも呼ぶべきだろうか。緊急事態宣言や外出自粛といった行動制限による弊害が急速に広がり、日々深刻さを増している。主なものを挙げると、まずはGDPだ。内閣府の発表では前年比マイナス4.8%とリーマンショック後以来の落ち込み。一方、昨年の自殺者数は11年ぶりに増加に転じた。また国立成育医療研究センターの調査では高校生の3割に中等度以上のうつ症状が見つかったという

 ▼これらは行動制限という劇薬が使われている限り悪化していく。ところが政府の行動制限解除に向けた動きは近頃迷走ぎみだ。ワクチンが効いても行動制限で命を落とす人が出ては元も子もない。見極めはできているのか。


爆弾低気圧

2021年02月18日 09時00分

 2月もはや半ばを過ぎ、きょうは二十四節気の雨水である。雪が雨に変わり氷も解けるころだが、厳冬期の本道にはそぐわない節気だと毎年思っていた。ところがことしは様子が違う。雨水の前の15日に雨が降った。いささか気が早い

 ▼「札幌に夜景の戻る雨水かな」川村としえ。そんな風情を感じられるといいが、この時期に降る雨は難儀なばかり。路地でグサグサの雪に埋まり立ち往生している車をずいぶん見た。あちこちに大きな水たまりもできていて、歩行者が足を滑らせて落ちるのを待っている。慎重に足元を見ながら歩いていると横から車の飛ばした水はねが来たりして。全くやれやれな気分である

 ▼その雨が終わったと思ったら寒気が戻り、間髪を入れずこの爆弾低気圧である。体がついていかない。爆弾というのは決して大げさではない。16日の最低海面気圧が釧路で956・4ヘクトパスカル、網走で956・7ヘクトパスカルと観測史上最低を記録。ここ100年で一番というのだから天気が荒れるのも当たり前か。道内はきのうまで暴風雪や水害で大混乱だった。強風のため紋別などでトラックやバスが横転。各地で屋根が飛ばされる被害も続出した。狩勝峠では多重衝突事故が発生。日勝峠や高速道東道も吹雪で閉鎖され、道央と道東の陸路は一時途絶状態に陥った

 ▼これだけ広範囲だとトラブルに巻き込まれた人も多かったに違いない。札幌管区気象台によると、きょういっぱいは吹雪や強風、高波に注意が必要だ。不要不急の外出は控えた方がよろしかろう。爆弾のかけらがまだ残っているかもしれない。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 古垣建設
  • web企画
  • オノデラ

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,647)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,481)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,123)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,093)
おとなの養生訓 第170回「昼間のお酒」 酔いやす...
2019年10月25日 (933)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。