コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 111

日経平均株価が2万9000円台に

2021年02月09日 09時00分

 日本は過去何度か円高不況に見舞われてきた。自動車や電子部品など輸出品の海外価格が上がり、売れなくなるため国内経済が悪化するのである。近年では2010年代の円高が記憶に新しい

 ▼リーマンショックを震源として欧州財政危機、米国債問題と続く国際金融環境の悪化で、行き場を失った投資資金が比較的安全な円に集中。一時は1㌦70円台まで高騰したのだから輸出産業は息をするのもやっとだったろう。こればかりは事前に予測するのが難しい。気象の複雑性を説明するのに「ブラジルで一匹のチョウがはばたくとテキサスで竜巻が起こる」と表現することがあるが、グローバル経済も似たようなもの。金融が情報化した現在、経済は一瞬で天国にも上れば地獄へも落ちる

 ▼となるとこの現象は一体どう見るのが正しいのだろう。東京株式市場できのう、日経平均株価が30年6カ月ぶりに2万9000円台を回復した。バブル崩壊からのいわゆる「失われた30年」の直前水準にまで戻った格好である。それだけ聞くと景気の良い話で大いに歓迎したいところ。ただ実体経済との乖離(かいり)を考えると手放しでは喜べない。コロナ禍で経済は相当な痛手を負っているのに株価だけ高いのは違和感がある

 ▼米の追加経済対策やワクチンへの期待が株価押し上げの要因というが、実際はコロナ禍で行き場を失った投資資金が多少動きのある株式市場に流れ込んでいるだけでないか。かつて安全な円が買われたようにだ。もしバブルなら、崩れると経済は一層の深手を負う。株高きが故に貴からず、だ。


宇宙寺院

2021年02月08日 09時00分

 童話作家宮沢賢治の代表作『銀河鉄道の夜』で印象的な場面といえば「北十字」もその一つだろう。ジョバンニとカムパネルラが汽車に乗って出発した直後に通る島である。平らな頂にあるのは「立派な眼もさめるような、白い十字架」だ

 ▼それを目にした旅人たちは立ち上がり、つつましく指を組み「ハレルヤ、ハレルヤ」と祈るのである。宇宙に翼を広げるはくちょう座をキリスト教の十字架に見立てたのだった。賢治は熱心な仏教信者だが、献身の教えを説くキリスト教にも親しみを抱いていた。銀河鉄道のテーマが自分を犠牲にして他人を救うものだったため、その世界観を取り入れたらしい。さて、そんな賢治が存命ならこれをどう思ったろうか

 ▼世界文化遺産にも登録されている真言宗醍醐派総本山の醍醐寺(京都府)が、宇宙に本物の寺院を建立するというのである。汎用衛星の量産に取り組むベンチャー企業「テラスペース」と提携して人工衛星を打ち上げ、内部区画に寺院機能を持たせるそうだ。この〝宇宙寺院〟は高度400―500㎞の低軌道で運用し、約1時間半かけて地球を1周する。その名も「浄天院劫蘊寺」。開山趣旨が地球を含む宇宙全体の平和と人類の宇宙での活動の安全というのだから何と壮大なこと

 ▼合わせたわけではなかろうが、衛星は賢治没後90年の2023年に打ち上げられる。もしかすると宇宙旅行を手掛ける米スペースX社の船窓から、「劫蘊寺」に手を合わせることのできる日が来るかもしれない。さすがの賢治もそこまでは想像できなかったのでないか。


道内児童生徒の体力低下

2021年02月05日 09時00分

 このコロナ禍で気軽に外出ができなくなり、すっかり太ってしまったという人も多いのでないか。当方もその一人である。参加を予定していたマラソン大会が軒並み中止。やる気とともに練習量は減ってゆき、反対に体重は増えていった

 ▼「三食を規則正しく冬篭」佐藤宮子。家にこもっている時間が長いと、三食どころか5回も6回も食べてしまう。口寂しくてついおやつに手が伸びるのである。太るのも当たり前。体を動かさなくなると太り、太ると体を動かすのがおっくうになる。卵が先かニワトリが先か。難しい問題だが、いずれにせよ健康にはあまり良いことではない。しかもこの悪循環、人生に疲れが出ている大人だけではないようだ

 ▼道教育委員会が児童生徒の体力・運動能力を調査した結果、2020年度は体力低下の傾向がはっきり表れていたという。スポーツ庁が小5と中2を対象に毎年度実施している「全国体力テスト」がコロナの感染拡大防止で中止になったため、独自に調査したそうだ。特に中学生の体力低下が著しく、前年度の全国体力テスト(9種目)に比べ男子が5種目、女子が6種目で道内記録を下回った。中でも50㍍走のタイムなどで示される走力の低下が目立つ

 ▼外遊びや部活動の自粛の影響が子どもたちにも出ている証拠だろう。一生元気で過ごす強い体をつくるのに大切な時期だけに心配な話である。「すぐそこに来てゐる春や春を待つ」植村占魚。感染者数は全国で減少しつつある。大人も子どもも何気兼ねなく外に出られる春がすぐそこに来ているといいのだが。


ミャンマーのクーデター

2021年02月04日 09時00分

 子どもでも会社の新人でも同じだが、人を育てるというのは難しいことである。特に間違った行為をしたときどう指導するかは多くの人の悩むところだろう

 ▼例えば50年くらい前なら、頭ごなしに怒って本人の非を責め、押さえ付けるのが一般的だった。その結果、子どもであれば反発し、逆に悪い仲間とつるんで非行に走るケースが多々あったのである。たとえ自分が悪くとも一方的に怒られて喜ぶ人はまずいない。それと対比するのは適切でないかもしれない。ただ、これから国際社会がかなり難しい問題に直面することだけは確かである。ミャンマー国軍が1日、クーデターで政権を奪取し1年間の非常事態宣言を全土に発令した

 ▼民主政権を武力で転覆させた蛮行は非難されてしかるべきだ。とはいえ経済制裁などで締め付けを強め、国際的に孤立させるとミャンマーをより親中国の方向へ追いやりかねない。インド洋に開かれたミャンマーを、中国の腕の中に入れてしまう地政学的リスクは計りしれない。クーデターでアウン・サン・スー・チー国家顧問や国民民主連盟の幹部はことごとく拘束され、国軍主導の内閣が発足した。他国の内政とはいえ、民主主義の破壊と中国の野心が絡むとなれば見過ごすわけにはいかない

 ▼戦後に国連全権大使を務めた外交官加瀬俊一は「鼠穴を塞がず」を外交の鉄則にしていたそうだ。相手の逃げ道を用意しておけというのである。国軍に対しても同じでないか。制裁やむなしだが力押しは反発を招くだけ。勇気ある撤退を促す老練な説得を国際社会には望みたい。


親分子分の政治

2021年02月03日 09時00分

 映画を見たことはないが、歌だけはなぜかよく覚えている。子どもの耳に残るくらいだから、かなりの人気作品だったのだろう。『昭和残侠伝 唐獅子牡丹』(1966年、東映)の同名の主題歌(水城一狼・矢野亮作詞)である

 ▼主演を務めた高倉健が渋い声で歌っていた。「義理と人情を 秤にかけりゃ 義理が重たい 男の世界 幼なじみの 観音様にゃ 俺の心は お見通し 背中で吠えてる 唐獅子牡丹」。親分子分、義兄弟。そんな義理を大切にする「男の世界」と、政治の世界が似ているように見えるのは気のせいか。今回、またその思いを強くした。松本純元国家公安委員長ら3人の衆院議員が緊急事態宣言中に東京銀座のクラブで深夜まで飲酒していた一件である

 ▼事実が明るみに出た当初、松本氏は「1人で行った」と語っていた。ところが実は同じ自民党の田野瀬太道文部科学副大臣と大塚高司衆院議院運営委員会理事を連れていたのだ。松本氏が後輩2人をかばい、うそをついたのである。自分1人が盾になって批判の弾を受け、2人の子分を守ろうとしたようだ。親分として見上げた心掛けでないか。ただし本当に守らねばならない人が他にいると気付かなかったのは残念だ

 ▼国民は今、医療的にも経済的にもギリギリの状態で新型コロナウイルスと戦っている。現に命を落としている人が世の中には大勢いるのだ。なのに国民の代表である国会議員が、身内の義理と政治生命しか大切に考えていないとは嘆かわしい。どうやら胸で「吠えてる」議員バッジはただの見掛け倒しらしい。


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