日本は過去何度か円高不況に見舞われてきた。自動車や電子部品など輸出品の海外価格が上がり、売れなくなるため国内経済が悪化するのである。近年では2010年代の円高が記憶に新しい
▼リーマンショックを震源として欧州財政危機、米国債問題と続く国際金融環境の悪化で、行き場を失った投資資金が比較的安全な円に集中。一時は1㌦70円台まで高騰したのだから輸出産業は息をするのもやっとだったろう。こればかりは事前に予測するのが難しい。気象の複雑性を説明するのに「ブラジルで一匹のチョウがはばたくとテキサスで竜巻が起こる」と表現することがあるが、グローバル経済も似たようなもの。金融が情報化した現在、経済は一瞬で天国にも上れば地獄へも落ちる
▼となるとこの現象は一体どう見るのが正しいのだろう。東京株式市場できのう、日経平均株価が30年6カ月ぶりに2万9000円台を回復した。バブル崩壊からのいわゆる「失われた30年」の直前水準にまで戻った格好である。それだけ聞くと景気の良い話で大いに歓迎したいところ。ただ実体経済との乖離(かいり)を考えると手放しでは喜べない。コロナ禍で経済は相当な痛手を負っているのに株価だけ高いのは違和感がある
▼米の追加経済対策やワクチンへの期待が株価押し上げの要因というが、実際はコロナ禍で行き場を失った投資資金が多少動きのある株式市場に流れ込んでいるだけでないか。かつて安全な円が買われたようにだ。もしバブルなら、崩れると経済は一層の深手を負う。株高きが故に貴からず、だ。