コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 113

日本製紙釧路工場

2021年01月26日 09時00分

 東日本大震災で壊滅的被害を被った日本製紙石巻工場が再生するまでの道のりを追った、佐々涼子さんの『紙つなげ!』(早川書房)ほど優れたノンフィクションはなかなかない。全てを津波にのみ込まれ、誰もが「工場は死んだ」と絶望したところからの奇跡の復活劇を丹念に記している

 ▼工場は石巻市の基幹産業の一つ。1940年の操業開始以来、地域に雇用を生み、経済を回しながら日本の出版を支えてきた。ひときわ胸を打たれたのは、芳賀義雄社長(当時)が震災2週間後に現地入りし、がれきと化した工場を一通り見た後の場面である。不安顔の従業員を前に芳賀社長はこう宣言した。「これから日本製紙が全力をあげて石巻工場を立て直す!」

 ▼残念ながら釧路ではついにその言葉が聞かれなかった。日本製紙釧路工場がことし8月に、紙・パルプ事業から撤退すると発表してからもうすぐ3カ月。存続を願う地元自治体や経済団体、住民らの必死の願いもむなしく、既定路線が変わる様子はない。活字離れとIT化により紙の需要減が進んでいたところにコロナが追い打ちを掛けた。この先、需要回復は望めない。会社としても苦渋の決断だったろう。石巻は津波の試練に耐えたが、釧路は世の流れとコロナに勝てなかったわけだ

 ▼ただ、釧路の歴史は100年を超え、石巻より長い。それだけ土地に根付いていたのである。釧路を象徴する巨木を根こそぎ引き抜くようなもの。簡単に考えてもらっては困る。全力をあげてここを立て直す。撤退に当たってはそれくらいの気概を示してほしい。


ネコにマタタビの真相

2021年01月25日 09時00分

 いきなりだがクイズを一問。「世界で最も人間を殺している生物は何でしょう?」。事実の意外さに驚くトリビアとして紹介されることも多いため、ご存じの人も多いのでないか。答えは蚊である

 ▼ライオンやワニ、毒ヘビといったいかにも怖い動物をつい思い浮かべてしまいがちだが、蚊に比べるとかわいいもの。一説では年間の死者が20人程度のライオンに対し、蚊は75万人ともいわれる。危険性ははるかに高い。もっとも蚊自体に高い攻撃能力があるわけではなく、マラリアやデング熱などのウイルスを媒介する結果である。現在マラリアは海外から持ち込まない限り発症しないが、日本でもかつて猛威を振るった時代があった

 ▼「ひとりづつ家族を覚ましひとつの蚊」金子潮。病の原因になってもならなくても蚊のうっとうしさは変わらない。ネコも同じだったらしい。岩手大を中心とするグループがマタタビに対するネコの特有反応を調べたところ、マタタビから蚊を寄せ付けない物質を発見したという。今研究で初めて、マタタビ反応を誘発するのが「ネペタラクトール」という物質であると同定。実験により蚊が嫌うことも明らかにした。つまりネコにマタタビをあげると狂ったように体をすりつけるのは、進化の過程で蚊を忌避する方法を獲得したからだというのである

 ▼検証のため他の動物でも試したところ、同じ結果を示したそうだ。今後は人間を苦しめる寄生虫やウイルスを運ぶ蚊の忌避剤として活用する道を探るという。「世界で最も人間を殺している生物」でなくなる日も近いのでは。


米大統領交代

2021年01月22日 09時00分

 ジャーナリストのボブ・グリーン氏が退任6年後のリチャード・ニクソン元米大統領に会いに行った経験をコラムに記している。ニクソンといえばウオーターゲート事件で悪名が高い人物。対立関係にある民主党本部への盗聴を主導したとされ、この一大政治スキャンダルで最後には辞職に追い込まれた

 ▼グリーンは書いている。「私たちは、ニクソンが嫌いだという感情をむきだしにしてはばからなかった世代だ」。それならなぜわざわざ会おうと考えたのか。しばらくして気付いたらしい。「彼はわれわれの時代のひとりの、想像以上に大きな政治家であったことがいまや否定しがたい事実となろうとしている」。おとといホワイトハウスを去ったドナルド・トランプ氏も、そんな存在になるのかもしれない

 ▼何せ破天荒な大統領だった。不動産王、テレビスター、女性スキャンダルといった過去はもちろん、自国第一主義への過剰な執着や気に入らない相手をSNSで罵倒するやり方には皆、度肝を抜かれた。結果的に国内の分断を進め、国際協調路線に度々反旗を翻して混乱を招いたのは事実だろう。ただ、日本との関係は総じて良かっただけに、あのトランプ節がもう聞けなくなると思うと少し寂しい気もする

 ▼それはジョー・バイデン新大統領がどんな人なのか、何がしたいのか一向に伝わってこないせいでもあろう。歴代大統領の中でも就任時にこれだけ人物像が見えない人も珍しい。かつてのニクソンのようにトランプも米国社会の実相を体現していた。それがいいことかどうかは分からないが。


WHO独立委が武漢コロナで中間報告

2021年01月21日 09時00分

 当欄で新型コロナウイルスに初めて触れたのがちょうど1年前のきょうだった。中国の武漢市で発症者が相次いでいるとして、すぐに始まる春節長期休暇で中国人が日本へ大挙して訪れることに懸念を示す内容である

 ▼とはいえ「感染力は弱く、重篤になるのもまれ」と楽観していたところをみると、当時はそれくらいの認識しかなかったのだろう。まさか1年後に世界がひっくり返るような事態になっていようとは。次第に明らかになってきたのは中国がおととし12月の初期段階で、ウイルスの発生を隠蔽(いんぺい)しようとした疑惑である。ところが中国は頑としてそれを認めない。1年たってようやく一つの答えが出たようだ

 ▼14日に初めて武漢に入った世界保健機関(WHO)の独立調査委員会が18日に中間報告を発表。中国の初動対応に遅れがあったと厳しく指摘したのである。中国はなんやかやと理由を付け、独立委の現地入りを長らく拒み続けていた。よほど知られたくない事実があったとみえる。独立委はWHOが1月30日まで緊急事態宣言を出さなかった点にも疑問を呈した。テドロス事務局長はその数日前に訪中。習近平国家主席と会い、対策を称賛している。テドロス氏は中国に特別な配慮はしていないと言うが、さて

 ▼結局、感染拡大防止に最も重要な最初の2カ月を無駄にしたわけだ。ゴールキーパーもディフェンダーも置かず、ウイルスが次々とシュートを決めるのをただ見ていたようなもの。それから1年、入り口でつまずいたばかりに世界はいまだ出口を見つけられずにいる。


文在寅韓国大統領の変心

2021年01月20日 09時00分

 落語の「饅頭怖い」はよくご存じだろう。仲間が集まり何が一番怖いかを話し合っているとき、普段は兄貴風を吹かせている松が言いにくそうに「実は饅頭が怖い」と打ち明ける噺である

 ▼みんな面白がっていろいろなまんじゅうの名前を次々と上げ、松をからかう。そのうち松は気持ちが悪くなってきたからと横になってしまうのだが、みんな悪乗りして本物を枕の横に積み上げた。松はそれをうまそうに平らげる。だまされたと気付いた時にはもう遅い。いいように遊ばれ、利用されていたのである。その松といささかダブって見えるのが最近の文在寅韓国大統領だ。18日の新年記者会見での様子が日本に対するいつもの強硬姿勢とはだいぶ違っていた

 ▼元徴用工(旧朝鮮半島出身労働者)訴訟の判決に従い日本企業の資産を強制執行で現金化するのは「韓日関係にとって望ましくない」と発言。さらに元慰安婦に対し日本政府に損害賠償を命じた8日の判決についても「正直困惑している」と語ったのである。額面通り受け取りたいが、「饅頭怖い」のようで警戒心が先に立つ。これまで元徴用工訴訟については「司法を尊重」と知らぬふりをし、慰安婦問題では2015年の日韓合意をないがしろにしてきたのが文大統領である。問題は自国の司法にあるのに、「韓日で解決策を模索したい」と言うことからしておかしい

 ▼先の落語で松は本当に怖い物は何かと問われこう答えた。「それなら熱くて渋い茶が一杯怖い」。文大統領も何か自分の得になることを狙っていると思われても仕方ないのでないか。


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