コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 123

HPVワクチン

2020年11月07日 09時00分

 大阪大学が最近発表したある論文の波紋が静かに広がっている。子宮頸(けい)がんの原因となるヒトパピロマーウイルス(HPV)への感染を防ぐワクチンの接種率が減少したことで、死亡する日本人女性が将来、約4000人増える可能性があるというのだ

 ▼国が2013年4月に小1から高1の女子を対象にワクチンの積極的勧奨を始めたものの、副作用が社会問題化し、同6月に中止されたままのためである。こうなったのにはマスメディアの責任が大きい。まず朝日新聞が副作用に苦しむとされる女性を大きく取り上げ、薬害の視点でワクチンの危険性を訴える記事を出し続けた。これに他のメディアも便乗し、よってたかってHPVワクチンを悪者に仕立て上げたのである

 ▼恐怖に震え上がった世論を前に、国は接種勧奨を引っ込めるしかなかった。医学的効果がはっきりしていて、WHOも一貫して推奨していたのにである。対するメディア側の根拠は副作用があったと主張する人がいるというだけ。心理学者スティーブン・ピンカーが『コロナ後の世界』(文春新書)でこう述べていた。「人はなぜ理性や科学による進歩を正しく認識できないのでしょうか。原因の一つは、ジャーナリズムです」。理由は「この惑星に起きている最悪なこと」を選んで伝えるから

 ▼その結果が、諸外国はほぼ押さえ込んでいるのに日本では年間2900人が死亡する事実である。論文は一刻も早い接種勧奨再開を求めている。当時間違ったメディアは今こそ大きく報道すべきだが、残念ながらそんな様子はない。


渡り鳥

2020年11月06日 09時00分

 平成の初めころ、細野晴臣、忌野清志郎、坂本冬美の3人でつくった「HIS」という音楽ユニットがあった。アルバムも風変わりな歌が多く、当時は面白がってよく聞いていたものである

 ▼中でも異色だったのが「渡り鳥」。「渡り鳥カモカモ 渡り鳥カモカモ カモカモしれない ワシではないだろう カモカモしれない ガンカモ科のカモか コガモもいるぞ 孫ガモひまご Oh」。冒頭からこの調子である。歌の後半にはガンやシギ、ツルの名前も出てくる。いずれも渡り鳥としては代表的な種類だろう。日本では古くから親しまれ、その愛らしい姿や鳴き声が多くの人の心を和ませてきた

 ▼ただ、必ずしも良いことばかりではない。鳥インフルエンザを運んでくることがあるのだ。今回もそれが起こったらしい。香川県三豊市の養鶏場でニワトリが大量死し、県で調べたところ、「H5型」ウイルスが検出されたという。県はきのう対策本部会議を開き、飼育されている33万羽の殺処分を始めたそうだ。国内の養鶏場での鳥インフル確認は2018年1月のさぬき市以来である。被害を受けた養鶏業者は断腸の思いに違いない。ただでさえ新型コロナで打ちのめされているのに、別のウイルスで大事なニワトリまで奪われるとは

 ▼日本で冬を越す鳥の渡りの季節に入り、鳥インフルへの警戒感は高まっていた。先月には紋別市で採取された野鳥のふんから、やはり「H5型」ウイルスが検出されている。歌は「シベリアの厳しい環境 来年もまた来ておくれ」と続くが、ウイルスは運ばないでおくれ。


おいしい受信料

2020年11月05日 09時00分

 脚本家の木皿泉さんは子どものころ、男尊女卑の気風が残る家で育ったそうだ。自分と妹の部屋は廊下の突き当たりのような場所にあったのに、兄は一部屋を与えられ、食事も良い物を食べさせてもらっていたという。エッセーに記していた

 ▼そんな特別扱いされてきた人は失言やパワハラ、セクハラをしがちになると木皿さんは指摘し、こう表現する。「そういう人たちは、お菓子の家に住んでいたんだなと思う」。どういう意味かというと、おいしい物が出てくるのは当然と考え、「周りの人は自分のためにいるというふうに見えている」から自分のわがままに気付けないのだそう。もしかするとNHKも、そんな勘違いをしているのでないか

 ▼先月開かれた総務省の有識者会議でNHKが、テレビなどの受信機を設置した場合にNHKへの届け出を義務化する制度改正を要望した。黙っていてもおいしい受信料が届けられるのを当たり前と考えている上に、今度は箸で口まで運んでもらおうとしているらしい。受信料を支払うべき世帯の2割が契約を結んでおらず、世帯を把握するのに膨大な経費がかかっているというのがNHKの言い分だ。災害などの際、スポンサーに配慮することなく情報を伝えてくれるのは確かにありがたい

 ▼とはいえ高額な職員給与には手を付けず、受信料の引き下げはすずめの涙、番組内容も時に政治的中立を欠くとなればNHKの信頼はいずこにあろう。何より言葉から「国民はNHKのためにいる」との不遜な態度がちらつく。NHKもお菓子の家に長く住み過ぎたのでは。


依存の先には

2020年11月04日 09時00分

 親が何でもしてあげると、依存心が膨らんで何一つできない子どもになる。よく知られた子育ての失敗だろう

 ▼古いテレビドラマを持ち出して恐縮だが、平成初期の『ずっとあなたが好きだった』(TBS)に登場する「冬彦さん」がちょうどそんな男だった。佐野史郎さんの怪演を覚えている人も多いのでないか。溺愛する母親に育てられた結果、何も決められず、常に母親に頼る大人に成長してしまったのである。親の心が愛情の内はまだいい。ただ支配欲が強くなると厄介だ。子どもが意に沿わないことをすると、親は見放すような態度を取る。依存心に凝り固まった子どもにはこれが最大の脅しで、反抗心もすぐにしぼむらしい

 ▼中国がそんな迷惑な親の手法を取り入れようとしている。各国に日頃から部品や物資を過剰なほど好条件で提供し、それなしではサプライチェーン(供給網)が回らない状態にしておく。その上で、中国に対し経済制裁の動きに出ようものなら提供中止をちらつかせて脅すのだ。経済面で国際社会の中国依存度が高まるよう画策し、中国に歯向かえなくする戦略である。習近平国家主席が4月の会議で指示したそうだ。共産党理論誌「求是」が10月31日、ホームページに掲載した会議録で明らかになったという。時事通信が伝えていた

 ▼かつて欧米列強が使い、第2次世界大戦の呼び水にもなった戦略と同じである。長い目で見て国の信頼を高めることにはならない。有無を言わさぬ支配に耐えかねた「冬彦さん」も、最後は母親を刺してしまった。独善の行き着く先は暗い。


冬支度

2020年11月02日 09時00分

 先日、用事ついでに北広島駅からエルフィンロード(札幌恵庭自転車道線)を札幌方面に歩き、しばし紅葉狩りを楽しんだ。ことしは発色の決め手となる寒暖差がちょうど良かったとみえて、全体に鮮やか

 ▼「白露の色はひとつをいかにして秋の木の葉をちぢに染むらむ」藤原敏行。まさに透明な露が木々を色とりどりにする不思議である。坂を上り切った先で真っ赤に色付いた紅葉を見た時は思わず感嘆の声が出た。加えて風情を感じたのが所々で道を覆い尽くしていた落ち葉である。前の晩に吹き荒れた強風によって、ふかふかの黄色いじゅうたんが作られたわけだ。歩を進めるごとに小気味よい音を立てる。「散歩道落葉集まりドレミファソ」(小笠原さくら)の句を思い出した

 ▼紅葉来たりなば雪遠からじ。11月に入り、本格的な冬ももう目と鼻の先だ。本道にいよいよ雪の便りが届き始める。今週は平地でもうっすら雪の積もる所がありそうだ。峠越えを予定している人は冬タイヤへの交換が必須である。札幌管区気象台が発表した10月31日からの1カ月予報によると、1週目は低気圧や寒気の影響で全体に曇りや雨が多く、雪の降る所もあるという。2週目以降は日本海側が曇りや雨、雪のぐずついた天気、太平洋側が晴れの典型的な冬型の気圧配置になるらしい

 ▼「この冬をここに越すべき冬支度」富安風生。そろそろ冬支度をしながら気合いを入れ直さねばなるまい。本道に暮らす者の年中行事である。支度を終えたころには色とりどりだった山も白一色に変わっていよう。また長い冬が始まる。


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