コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 125

街のクマ

2020年10月23日 09時00分

 童謡『森のくまさん』を歌ったことのない人は少ないだろう。人気漫才コンビ千鳥も、必ず笑いをとれるいわゆる〝鉄板ネタ〟の一つに使っていた。誰もが知っているからこそ多くの人に受けるのである

 ▼一番の歌詞はこんなだった。「あるひ/もりのなか/くまさんに/であった/はなさく/もりのみち/くまさんに/であった」。くまさんと女の子の、危機感があるのかないのか分からない緩い交流が妙に楽しい。ただしこれも「森のくまさん」だから歌えるので、街のクマなら口から出るのは悲鳴だけだ。ことしは本州でクマが街に出没する例が増えているという。19日には石川県加賀市のショッピングセンターに一頭が侵入し、地元の猟友会が駆除する事件もあった

 ▼現場はJR加賀温泉駅南口前の商業地区。森からは遠い。午前7時50分ころ、施設内に入ったのが確認され、保護も検討されたが難航したため射殺に至ったという。石川では18日までの3日間で8人がクマに襲われ、けがをしていたそうだ。特に今月に入り被害が深刻化している。1日に新潟、7日に秋田で女性が襲われ、相次いで死亡。18日には長野で男性が重傷を負っている。人身事故は各地で引きも切らない。いずれも人里に下りてきたクマの仕業である

 ▼人間の生活圏拡大で人慣れし、コロナ禍の外出減で大胆になったクマが山の木の実の不作もあって人里へ出てきているらしい。きょうは二十四節気の霜降。クマにとっては食料を得にくい時期に入る。今まで以上に警戒が必要だ。空腹を抱えた街のクマさんは危険極まりない。


知ったかぶり

2020年10月22日 09時00分

 知ったかぶりは自らを窮地に追い込むことがある。苦い経験を持つ人も少なくないのでないか。落語「酢豆腐」に登場する若旦那もその一人だ

 ▼日頃から何でも知っていると自慢してばかりの若旦那を試してやろうと、長屋の職人たちが一計を案ずる。腐った豆腐を舶来の珍味と偽って差し出したのである。職人が言う。「珍しい物らしいが舌が肥えてない俺たちにはもったいない。若旦那なら味が分かるでしょう」。若旦那が顔を寄せると、臭いがツンときて目にも染みる。知らない物とは言いたくない。苦し紛れに「酢豆腐だな」。引っ込みがつかないまま食べはじめ、目を白黒。こちらの人の言動もはたから見るとそれと一緒だが、やはり本人は一向に気にしていない様子なのが面白い

 ▼立憲民主党の原口一博議員が19日に開いた野党合同ヒアリングの話である。民間から政府の「GoTo」事務局に出向している職員の日当が高過ぎると息巻いているのだが、どうやら日当と手取りの違いが分かっていない。業務委託費で日当4万円と積算されていても社会保険などが引かれると手取りはその7―8割。妥当な額である。原口氏の発言を聞くと会社の給与に加え4万円ももらえると勘違いしているようだ。しかも丁寧に説明する女性官僚に、「あなたはコミュニケーションが難しい方だ」と暴言を放つ始末

 ▼原口氏はこの一部始終を「ユーチューブ」に公開している。国の不正を白日の下にさらしたと鼻高々だが知ったかぶりも度を超すと笑い話では済まされない。党に向けられる目も一層厳しくなろう。


不可抗力

2020年10月21日 09時00分

 つい先日、仙台の友人に車で名所旧跡を案内してもらっていた時のことである。小さな商店街で前を走る路線バスが停車したため、こちらも後ろで待っていた。追い越せるほど通りは広くない

 ▼すると中年男性が目の前を小走りに横断しだした。対面方向からは車が来ている。突然の出来事ゆえ当方もなすすべがない。バスの陰から飛び出す形になった男性をかすめるようにして対面の車は走り去った。息が詰まった。もう1秒違えば重大事故は免れなかったろう。横断歩道があるわけでもない。あの車は飛び出した男性を避けられなかったはず。不可抗力である。それを思い出したのは死亡交通事故の裁判で加害者とされた被告のA氏に無罪判決が出たからだ

 ▼事故は昨年4月、東京都渋谷区で起こった。A氏は信号機のない交差点を右折するため手前で一時停止し、徐行しながら進み、再び停止した。右から走ってきたオートバイがそれに驚いて転倒。投げ出された人がA氏の車にぶつかって死亡したのである。A氏は街路樹で視界が遮られるため左右が見える所まで慎重に出た。時速75㌔で走っていたオートバイは気付くのが遅れたらしい。東京地裁は14日、「注意していても回避できたか疑問」と判断したそうだ。やはり不可抗力でないか

 ▼この場合、事故の誘因が街路樹にあったことは疑問の余地がない。実は仙台の現場も緩やかに盛り上がった道の頂点で、先の見通しが悪かった。人が注意すべきは当然だが、道路環境が事故を招く例も多い。一人一人が危険箇所を知り、賢く事故を避けたいものだ。


風評被害を作るのは

2020年10月20日 09時00分

 作家太宰治に「容貌」という小編がある。顔の大きな男があらぬ誤解を受ける話だが、全くの見当違いのため本人は深く傷つく。この男は見た目で傲慢(ごうまん)と思われがちなのだった

 ▼男はぼやく。「大きいつらをしやがつて、いつたい、なんだと思つているんだ等と、不慮の攻撃を受ける事もある」。店で飲んでいて女の子に〝偉そう〟〝芸術家気取り〟〝夢は捨てる事だ〟と罵倒されることもあったという。中身をよく吟味しないまま思い込みや漠然とした印象にとらわれて結論に飛びつく人は案外多い。東京電力福島第1原子力発電所で、貯蔵がほぼ限界に達している処理水の海洋放出についてもやはり同じ。〝危険で怖い放射性物質を含むのだから環境への影響は大きいはず〟と思い込んでいる人が少なくないようだ

 ▼国が先週、地元自治体を訪れ海洋放出を前提とする説明をしたとの情報が流れると、一部のマスコミがすぐに懸念を表明。一般の人だけでなく、識者の間からも反対の声が挙がった。しょうゆもボトル1本一気に飲めば死亡するが、適度に使う分には健康を害さない。有害な核種が取り除かれた処理水も、トリチウムを含むとはいえ海水で薄まるとほぼ検出できなくなる。放出時点でさえ放射性は世界中の原発が捨てている排水と比べ特別高くない

 ▼一般の人が不安を抱くのは仕方のない部分もある。ただ専門知識を持つマスコミや識者が延々と危険をあおるのはいただけない。これでは率先して〝あいつは顔が大きいから傲慢に違いない〟と風評被害を作っているようなものだ。


GoTo北海道

2020年10月19日 09時00分

 北海道内の食や観光の最新情報を教えてくれる雑誌を折に触れ購入している。「北海道じゃらん」(リクルート)や「HO」(ぶらんとマガジン社)、「poroco」(えんれいしゃ)などである
 
 ▼新しいカフェができた、おいしいラーメンがある、温泉に出掛けるならここ、といった記事が並ぶ。見ているだけで楽しい。気になった所には実際に足を運んでみたりして。多彩な魅力を持つ土地に暮らす幸せである。だからだろう。毎年この結果を見ると誇らしく感じたり、当然と思ったり―。民間調査会社のブランド総合研究所(東京)が先週発表した「地域ブランド調査2020」の魅力度ランキングで、ことしも北海道が47都道府県中1位に輝いた。2009年から12年連続だという

 ▼各回答に重み付けして算出した「魅力度スコア」は60・8で、2位の京都(49・9)、3位の沖縄(44・1)を大きく引き離す。都道府県平均が21・5と聞くと、当然と思いながらも本道のスコアに恐縮するばかりである。どこがそんなに気に入られているのか。地域資源評価の項目では豊かな自然と食事が際立って高い。一方で歴史や伝統、人の優しさやおもてなしはすずめの涙ほど。これもまたいつも通りである

 ▼最近、ウポポイがオープンして歴史や伝統へのてこ入れが図られた。人に関してはぶっきらぼうなところもあるが、これはまあ、おいおい改善していくほかあるまい。「Go To」キャンペーンが続いている。これを機により多くの人が雑誌片手に本道を歩いてくれるといい。コロナ対策は忘れずに。


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