童謡『森のくまさん』を歌ったことのない人は少ないだろう。人気漫才コンビ千鳥も、必ず笑いをとれるいわゆる〝鉄板ネタ〟の一つに使っていた。誰もが知っているからこそ多くの人に受けるのである
▼一番の歌詞はこんなだった。「あるひ/もりのなか/くまさんに/であった/はなさく/もりのみち/くまさんに/であった」。くまさんと女の子の、危機感があるのかないのか分からない緩い交流が妙に楽しい。ただしこれも「森のくまさん」だから歌えるので、街のクマなら口から出るのは悲鳴だけだ。ことしは本州でクマが街に出没する例が増えているという。19日には石川県加賀市のショッピングセンターに一頭が侵入し、地元の猟友会が駆除する事件もあった
▼現場はJR加賀温泉駅南口前の商業地区。森からは遠い。午前7時50分ころ、施設内に入ったのが確認され、保護も検討されたが難航したため射殺に至ったという。石川では18日までの3日間で8人がクマに襲われ、けがをしていたそうだ。特に今月に入り被害が深刻化している。1日に新潟、7日に秋田で女性が襲われ、相次いで死亡。18日には長野で男性が重傷を負っている。人身事故は各地で引きも切らない。いずれも人里に下りてきたクマの仕業である
▼人間の生活圏拡大で人慣れし、コロナ禍の外出減で大胆になったクマが山の木の実の不作もあって人里へ出てきているらしい。きょうは二十四節気の霜降。クマにとっては食料を得にくい時期に入る。今まで以上に警戒が必要だ。空腹を抱えた街のクマさんは危険極まりない。