コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 126

持続化給付金不正受給

2020年10月16日 09時00分

 いにしえの生活様式を守り続ける南海の孤島ウポルの長ツイアビが初めて文明社会に触れたとき、驚いたそうだ。そこにも形ばかりの信仰はあったが、彼らが本当に信じている神はお金という金属や紙だったからである

 ▼ツイアビは語る。「お金のために残酷になるのは正しいことだと考えるようになる。その手がお金をつかもうとするとき、彼の心は固くなり、血は冷たくなる」。お金のためなら何でもするわけだ。人間がお金に絡んで欲にかられ、起こしてしまった事件を見るたび、ツイアビの物語『パパラギ』(立風書房)のその一節を思い出す。今回もそうだ。コロナ禍によって売り上げが激減した事業者に支給される持続化給付金の不正受給が全国で相次いでいるという

 ▼「誰でも簡単にもらえる」との甘い言葉に乗せられ、受給資格がないのに偽りの書類を用意して提出。100万円を手にしたやからが大勢いるらしい。お金のために良心も法律もかなぐり捨て、苦しむ人々を踏みつけにしたのである。悪事を暴かれ逮捕される例が増えたからだろう。怖くなって警察に自首したり、相談したりする人も出てきていると聞く。どうやら不正受給の方法を指南し、手数料で稼ぐ元締めが各地にいるようだ。元凶はこの種をまいた人物だが、ぬれ手で粟(あわ)と喜んで詐欺に加担した者も罪は免れない

 ▼ツイアビはさらにこう続ける。お金を神とあがめる文明人は「隣の兄弟が不幸を嘆いているのに、それでも幸せでほがらにしていられる」。そんな日本人は皆無だと断言できないのが残念でならない。


道警警部補の捏造

2020年10月15日 09時00分

 いくら着飾っても中身まで変わるわけではない。下手に見栄を張るとたいていは後で痛い目を見る。イソップ寓話(ぐうわ)にそれを教える一話があった

 ▼「王様になりたかったカラス」である。神様が全ての鳥に「最も美しい鳥を王にする」とお触れを出す。このままでは望みがないと考えたカラスは他の鳥の羽を身に付け、虹色の鳥として神様の前に進み出た。信じた神様は喜んでカラスを王にしようとするが…。結末はご存じだろう。不正に気付いた他の鳥たちが羽を取り返し、カラスは元通りの真っ黒い姿に戻るのである。証拠偽造と虚偽有印公文書作成・同行使の疑いで12日に逮捕された道警交通機動隊の警部補も、自分の醜い姿がいずれ明るみに出ることなど容易に想像できたろうに

 ▼パトカーで違反車両の取り締まりをしていたこの警部補はパトカーのレーザー式速度計測装置でうその速度記録をでっち上げ、反則切符を渡していたという。どうやら実績を上げて警察内部で認められたかったらしい。正式な取り締まりは停止したパトカーから対象車両にレーザーを照射して速度を測る。ところが容疑者はパトカーを走らせた状態でレーザーを電柱などに当て、違反したように見せかけていたという

 ▼仕組みを熟知した上で悪用していたのだから弁解の余地はない。被害を受けた人は少なくとも47人に上るそうだ。腹立たしい事件である。ただ、最も怒りを感じているのは日々真面目に職務を遂行している警察官たちだろう。着飾ることもなく、与えられた自らの羽を磨く人がほとんどなのである。


米大統領選近づく

2020年10月14日 09時00分

 陽気で楽天的なのに加え、自分の価値観を絶対視し、それに強い自信を持つ。あくまでイメージだが、米国人をそう見ている人は世界に多いのでないか。それを示すジョークがある

 ▼中東の街に赴任した米国の男がアパートの住民について友人に不満をもらす。「毎晩、右隣のやつは壁をドンドンたたくし、左のやつは物をぶつけてくる。全く常識がない」。友人が同情して尋ねる。「それはひどい。君は大丈夫か」。すると男は豪快に笑いながら「ああ問題ない。俺は見知らぬ国で寂しいから部屋ではいつも朝までトランペットを吹いてるんだ」(『100万人が笑った!「世界のジョーク集」傑作選』中央公論新社)。たわいのない作り話だが、一面の真実を物語るものではあろう

 ▼トランプ米大統領も先のイメージそのまま、陽気だが自己中心的で独断専行型の人物に見える。最近も黒人に対する差別に冷ややかだったり、自身が新型コロナに感染しても軽視の態度は相変わらずだったりと、まさにわが道を行く。さて、そのトランプ氏、下馬評をひっくり返して再選を果たすのか、それともただの人に戻るのか。11月3日の大統領選投票日が3週間後に迫った

 ▼現在は民主党候補ジョー・バイデン氏が優勢という。NHKが各州の選挙人を試算したところ、バイデン氏が226人で、トランプ氏を大きく引き離していた。どうやら今回も「隠れトランプ支持者」が勝敗の鍵を握ることになりそうだ。表には出てこないがトランプ氏の人気は根強い。夜中のトランペットも同好の士にとっては胸躍る演奏だろう。


大阪都構想住民投票告示

2020年10月13日 09時00分

 それぞれ一人暮らしをしていた男女が結婚して一緒の生活を始めるとなると、まずしなければならないのは持ち物の整理だろう。炊飯器や冷蔵庫、洗濯機は一家に2台もいらない。一軒家にせよマンションやアパートにせよ、家財道具を置く場所は限られている

 ▼よくできたもので、資源を効率よく使え無駄がなくなるため生活費は独身時代ほどかからない。その分、新たな楽しみに回せるお金も増えるというわけだ。身近な出来事に例えるとそんなところかなと勝手に想像しているが、実際はどうなのか。「大阪都構想」の話である。是非を問う住民投票がきのう、告示された。二重行政の解消が最大の焦点とされる。狭い所に洗濯機が2台もあってどうする、ということだろう

 ▼大阪府と大阪市に限らず、都道府県と政令指定都市の二重行政は日本の行政制度が抱える構造的問題だ。目的は同じだが、使い勝手の異なる行政サービスが一つの地域内で複数展開されている。しかも往々にして連携がとれていない。結果、互いに「あいつらこちらに相談もなく」といがみあう事態に。道と札幌市も昔から仲が悪いといわれてきた。まあ、トップの相性にもよるが、時に主導権争いが起きる事実は否めまい

 ▼今の大阪は知事と市長が共に「維新」のため、関係は悪くない。それでうまくいくなら必要なのは都構想という冒険でなく、連携手法の確立だとの意見もある。いずれにせよ、バラ色の夢を描いても結婚同様、一緒に暮らして初めて分かることが多い。住民には難しい選択だろう。投開票は11月1日である。


原子力戦争

2020年10月10日 09時00分

 厳しさ増す財政の支えに交付金が活用でき、国のエネルギー政策にも一石を投じられると町長が高レベル放射性廃棄物最終処分場の文献調査受け入れを表明した途端、すさまじい逆風にさらされた

 ▼どこからか反対の火の手が上がり、すぐに町外の人も多数参加する反対運動が組織される。主要なマスコミは大きく紙面を割いて町長の姿勢に疑問を投げ掛け、知事は「札束で頬を張るようなやり方だ」と国を非難する。この一連の流れをつい最近見た。寿都町の話だろう、と思った方も多いのでないか。実は2007年、現行の最終処分場選定制度になって初めて文献調査に手を挙げた高知県東洋町のことである。田嶋裕起元町長が著書『誰も知らなかった小さな町の「原子力戦争」』(ワック)に詳しく記していた

 ▼田嶋氏は反対の意見が出るのは当然とする。ただ、その意見の多くが誤解や偏見、党派性に基づいていたのには頭を抱えたという。9日、正式応募した寿都町も同じ流れに飲み込まれているようだ。事実奇妙な主張は多い。例えば〝ガラス固化体前では人が20秒で死亡する〟は〝宇宙服なしで宇宙空間に出ると即死する〟と言うのと同じ。現実には起こらない事態で危険を際立たせているだけ。将来構想を見ずに交付金だけ取り上げるのもフェアではあるまい。一度応募すると止められないとの説も手続きを見れば誤解だと分かる

 ▼処分場の議論は避けて通れない。一石を投じた片岡町長の判断は評価されこそすれ、非難されるものではなかろう。まともな議論の輪が全国に広がるといいのだが。


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