コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 13

カズワン遭難から1年

2023年04月21日 09時00分

 山登りをする際に大切な心掛けの一つは、「やめる勇気」を持つことである。荒天や体調不良など条件の悪化が見られるときは、たとえ登山口まで来ていたとしても計画を中止したり、頂上付近まで行っていたとしても引き返す判断をしなければならない

 ▼勇気とは大げさなと思う人もいよう。ただ、時間も手間もお金もかけて現地まで行き、すぐ目の前に憧れの山の頂があるのに登らないという選択をするのである。登山のリーダーにはそれくらい強い決断力が必要だし、責任感も欠かせない。遭難事故が起きてから後悔しても遅いのだ。知床半島沖で小型観光船「KAZU I(カズワン)」が沈没し、20人が死亡、6人が不明となっている事故からまもなく1年になる。こちらのリーダーはどうだったか

 ▼先日の北海道新聞に、運行会社の桂田精一社長が最近の取材で「出航自体は間違いではなかった」と主張したとの記事が出ていた。同じ状況に立たされた登山隊の隊長からは、まず出てこない発言だろう。キャンプ地は快晴でも、遮るもののない稜線で猛吹雪に襲われる可能性が高ければ隊長は出発を許さないものだ。隊員が「行ける」と言ってもである。もし行かせて遭難したなら出発は間違っていたと反省するほかない

 ▼遊覧観光も自然相手。本来はさまざまな状況や気象条件など全体を見渡した上で、出航の可否を決めるべき。社長は船長を信じたというが、責任者として自ら判断し、「行くな」と言えば済んだ話である。そのひと言を発する勇気がなかったばかりに、多くの人の命が失われた。


岸田内閣の支持率

2023年04月20日 09時00分

 レジェンド作詞家と呼ばれる松本隆さんと日本屈指のメロディーメーカー山下達郎さんが手掛けたとなれば、誰の耳にも残る名曲になるのは当然だろう。男性アイドルユニット「KinKi Kids」が歌った『ジェットコースター・ロマンス』(1998年)のことである

 ▼歌い出しはこうだった。「波はジェットコースター 素敵な風を集めながら 君をさらいたい いいだろう? 恋はジェットコースター」。読売新聞の最新全国世論調査を見てその一節が頭の中でこだました。ジェットコースターは波や恋だけではなかったらしい。岸田内閣の支持率もである。先行きに期待させ高い所を進んでいると思ったら、急激に下がったり上がったり。穏やかそうな岸田首相の人柄とは裏腹に、いささか荒々しい展開である

 ▼時系列グラフを追うと、内閣が発足したおととし10月からしばらくは50―60%台と高めに推移。ところが去年7月に自民党と旧統一教会との関係が取り沙汰され始めると一転、急降下した。相次ぐ増税の表明に物価高騰が拍車を掛け、その後も支持率は急角度で坂道を下る。11月にはついに36%まで落ちてしまった。内閣の命運も尽きたかと思いきや、首相のウクライナ電撃訪問、コロナ禍からの脱却に加え、今回のテロに対する毅然とした態度で最新は47%に急上昇。しぶとさを見せつけた

 ▼頼りなさばかり目立った首相に、強いリーダーシップが現れてきたようだ。議長を務めるG7広島サミットも近い。さてこのまま「素敵な風を集めながら」高め安定で走り続けられるかどうか。


札幌でG7環境相会合

2023年04月19日 09時00分

 先進7カ国(G7)の気候・エネルギー・環境相が札幌に集まり、今後の温暖化対策などについて話し合ったという。人類共通の課題に一丸となって取り組もうと協調ムードで始まったものの、議論が進むうちに各国の事情や思惑の違いが露わになってきたそうだ

 ▼中でも日本と欧米の温度差は時に著しく、熱湯風呂と水風呂くらいの差があったらしい。16日に出された共同声明が、ぬるま湯になったのもうなずける。例えばEV(電気自動車)に関してである。欧米が導入の数値目標を定めようと主張したのに対し、ガソリンも使うハイブリッド車に強みを持つ日本はこれに抵抗。結局、車種を限定せず自動車全体で、2035年に二酸化炭素(CO₂)排出量を50%削減するとの目標にふわりと着地した

 ▼石炭火力発電でも対立があったと聞く。欧州やカナダは廃止時期を明記するよう要求したが、高効率発電技術でCO₂排出を相当程度抑制している日本はこれにも反対。共同声明への盛り込みは見送られた。一方、洋上風力発電を30年までに21年度実績比7倍とする方針には異論が出なかったようだ。7カ国合計でというのがみそである。いずれかの国が頑張れば目標は達成できるわけだ

 ▼こう見ると大臣たちはなかなかの商売上手。欧米がEVで自動車市場の制覇を狙い、日本は防戦を強いられた。風力設備の製造も欧米が中心である。石炭火力を封じれば風力の買い手は増えよう。脱炭素の理念にうそはないのだろうが、先進国は損になることをしない。声明はぬるま湯くらいでちょうどいいのかも。


岸田首相にテロ

2023年04月18日 09時00分

 江戸後期の経世家二宮尊徳は当時の世の風習を、人道でなく修羅道だと嘆いていた。敵討ちに関する話題が出たときである

 ▼弟子の福住正兄が『二宮翁夜話』(PHP)にこう書き留めていた。「両国橋のあたりで敵討ちがあった。『勇士だ』『孝子だ』と人々は誉めそやした。しかし、先生はおっしゃった。復讐を尊ぶのは、まだ道理をよくわきまえていない者だ」。恨みの肯定は新たな恨みを生むというのである。岸田文雄首相が15日、テロの標的となった。衆院和歌山1区補欠選挙の応援に訪れていた雑賀崎漁港で起きた事件である。聴衆に紛れて機をうかがっていた木村隆二容疑者(24)が首相にパイプ爆弾のような物体を投げつけ、近くにいた漁師やSPに取り押さえられたのだ

 ▼爆弾は1分ほど後に爆発。首相は既に避難していて無事だったものの、聴衆の中にはけがをした人もいたという。木村容疑者は複数の爆弾を所持していた事実が分かっている。一つ間違えば大惨事になっていたかもしれない。安倍元首相が銃撃され、死亡した去年7月の事件とよく似ている。影響を受けたのでないか。そのときは安倍政権を批判していた野党や一部マスコミ、識者などから山上徹也被告を擁護するかのごとき言説が次々と飛び出した。勇士として扱う者までいる始末

 ▼「安倍氏が自ら招いたこと」「社会にも問題がある」というわけである。ばかな話だ。わずかでもテロに価値を与えたり、言い訳を許したりしてはいけない。木村容疑者のような人物の背中を押し、世の風習を修羅道に落とすだけだろう。


Jアラート

2023年04月15日 07時00分

 おとといの朝、出勤の準備をしているさなかにテレビとスマホから異様な音が鳴り響いた。常のことではないため緊急地震速報か北朝鮮のミサイルか一瞬考えたが、スマホを手に取るとミサイルの方。しかも本道周辺に落ちるというではないか。さすがに緊張した

 ▼通勤途中の人も、既に仕事をしていた人もいたろう。自分はさておき、真っ先に家族や友人らの心配をした人も多かったのでないか。大丈夫だろうかと。幸い誰も傷つけることなくミサイルは消えたようだ。政府は午前8時16分に「北海道へ落下する可能性はない」と情報を修正した。北朝鮮はきのう、初の固体燃料式大陸間弾道ミサイルの実験だったと発表。多段式で段ごとに角度を変えたことも明らかにした。発射も軌道も探知しにくい厄介な代物である

 ▼ミサイルは途中でレーダーから消えたものの、軌道を予測すると、直撃はせずとも残存物は本道に落下する危険があると政府は判断したらしい。大事をとってのJアラート発令だったわけだ。警報が人騒がせなのは確かだが、以前とは受け止め方が違う。今回はロシアのミサイルにおびえるウクライナの人々がすぐ思い浮かんだ。現地では空襲警報が鳴ればどこかで建物が壊れ、多数の負傷者が出て人が死ぬのである

 ▼平和がどれほどはかないか、独裁体制がいかに邪悪か、嫌というほど見せつけられた。日本の隣にあるのも国際法を無視し、国連決議も意に介さないそうした国の一つである。個人にできることは限られるが、Jアラートは抜き打ちの避難訓練と捉え、もしもに備えたい。


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