コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 15

札幌の地下鉄 広場一部閉鎖

2023年04月06日 09時00分

 日本を代表する建築家伊東豊雄さんはここ十数年、箱に人を閉じ込めてきた近代建築からの脱却に取り組んできた。その一つの結実が、東日本大震災をきっかけに生まれた「みんなの家」である

 ▼当時は津波と地震で街も建物も破壊され、地域コミュニティの維持も難しい状態。住民の心細さは募るばかり。人々が集まれる「みんなの家」ができると、コミュニティが自然と立ち上がり、復興の支点となったのだった。伊東さんは『「建築」で日本を変える』(集英社新書)にこう記している。「目には見えないコミュニティに対して、目に見える場、人と人との繋がりを体感できる場所をつくっていくことこそが、これからの建築の使命です」

 ▼裏目に出た形ではあるが、この現象もそんな流れの中に浮かび上がったものでないか。札幌の地下鉄南北線大通駅〈大通交流拠点地下広場〉で昨年末以降、複数のグループが酒を飲んで騒いだり、長時間にわたって場所を占有したりする迷惑行為が続いていたのである。本来は誰もが自由に待ち合わせや休憩、ちょっとした時間つぶしに使えるようにと設けられた空間。場ができたことで、人が集まる所に特有の温かさや活気も生まれていた。居心地の良さにひかれて他に行き場のない人々が集まりたがるのも分からないではない

 ▼せめて建築の理念を感じ適切に利用してほしかったが、周りへの気遣いができない人々にマナーという高度な作法が理解できるはずもないか。交通局はおととい、休憩スペースの一部を閉鎖した。みんなの広場が一日も早く戻るといい。


報道に圧力をかけるのは

2023年04月05日 09時00分

 味方には甘いが敵には厳しい。人にはよくあることである。しかも自分のその振る舞いに無自覚な場合が多い

 ▼「ロボット」の語を生んだチェコの作家カレル・チャペックのエッセー集『いろいろな人たち』(平凡社)に興味深い一文があった。ボクシングの試合を例に挙げ、観客はひいきのボクサーの戦い方を無条件に称賛する一方、相手のボクサーには卑怯だの反則だのと非難の言葉を投げつけるというのである。相手がフェアでも関係ない。敵側には「インチキと裏切りと謀略しかない」と信じ込んでいる。チャペックは政治も同じと指摘。「相手の党の中には無能な人間と裏切り者しか見ない」上、反論されると「恥だ、裏切りだと叫び、自分たちが傷つけられた感じを持つ」という

 ▼まさにそんな喜劇を見ているようだ。内容の真実性に疑問のある総務省文書を示し、政権が放送法に圧力を加えたと高市早苗経済安保担当相を非難していた立憲民主党の小西洋之参院議員の立場が一転、危うくなっている。当時の安倍自公政権の闇を暴いたと思い込み勢いがついたか、小西氏は自身が野党筆頭幹事を務める衆院憲法審査会までやゆ。毎週審議を「サルがやること」「野蛮」と言い放ったのである。これには立民も幹事を更迭せざるをえなかった

 ▼しかも小西氏は発言を伝えた報道機関に名誉毀損(きそん)、あらゆる手段を講じて改善させるなどとどう喝まがいの行為に出る。反論され傷つけられた気がしたのだろう。報道も敵と見ればためらいなく圧力をかける。政権はだめでも自分ならいいらしい。


新1年生

2023年04月04日 09時00分

 ことしも近所でほほ笑ましい光景を多く見掛ける時期になった。この春に小学校へ入学する子どもたちが学校までの道のりを、実際に歩いて確かめている姿である

 ▼真っすぐ前を向いて一人だけで歩いている子もいれば、友だちとおしゃべりをしながら楽しそうに行く子たちもいる。親に連れられて、とぼとぼという子は少し気後れをしているのか。自分の子どもたちが小さかったころのことを思い出しほろりとする。道内の入学式はほとんどがあさって6日。子どもたちも親も、期待と不安が最高潮に達していよう。学校によって対応は違うが、久々にマスクなしで学校生活が送れる新1年生である。文部科学省が先月、基本方針を各学校に通知した

 ▼五百竹雄貴君(小1・当時)の詩を思い出す。こんな一節があった。「なにもしなくても ともだちができるわけじゃないんだ じぶんで『ともだちになろう』っていうんだよ」(『ことばのしっぽ』中央公論新社)。互いの顔が見えたら気持ちも伝わりやすい。この春、新たなスタート台に立つのは子どもたちだけではない。政府の「こども家庭庁」もである。本年度予算に一般、特別会計合わせて4兆8104億円を盛り込み、岸田首相肝いりの「異次元の少子化対策」に取り組む

 ▼こちらもぜひマスクなしで、顔の見える施策を実行してもらいたい。先の詩になぞらえると「新たな役所をつくっても 仕事ができるわけじゃないんだ」というところだろう。自分から動いてこそ少子化に歯止めを掛けられる。新1年生の春の風物詩をなくしてはいけない。


AIのリスク

2023年04月01日 09時00分

 未知の物質に侵され滅亡の危機にひんする地球を救うため、3人の精鋭が手掛かりを求めて深宇宙に旅立つ。日本でも話題になった米作家アンディ・ウィアーのSF小説『プロジェクト・ヘイル・メアリー』(早川書房)である

 ▼ところが冷凍睡眠から覚めると生きているのは一人だけ。それでも宇宙船での生活に不便はなかった。AI(人工知能)が食事から治療、健康管理、操船まで全てやってくれるからである。AIがそんな便利で信頼の置ける仲間になれるかどうか、意見は真っ二つに分かれているようだ。起業家のイーロン・マスク氏や歴史学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏ら著名人千人以上が、最先端AIの開発を少なくとも半年間停止するよう求める米非営利団体の公開書簡に署名したそうだ。団体が先頃公表した

 ▼報道によると、理由は社会や人類の深刻なリスクとなりうること。開発者自身にさえ何が起こるか予測できない中で、新たな知性を野放図に進化させていいのかと訴えているのである。一方で実業家のビル・ゲイツ氏などは、AIがもたらす恩恵に重きを置く。どちらが正しいか、誰も答えを持っていない。実際「ドラえもん」ならいいが、人類を駆逐する「ターミネーター」になっては目も当てられない

 ▼「リクルート」の研究機関が先日、2040年には社会の担い手が1100万人不足すると予測していた。ただし大方の仕事はAIに置き換え可能との説もある。浸食されるようで少々気味が悪い。きょうから新年度。いつまでも人が主役の門出の日であってほしいものだが。


ごみ屋敷

2023年03月31日 09時00分

 ネットを眺めていたら、大切にしていた年代物の人形類を妻に全て捨てられて嘆く夫の話が出てきた。猛然と抗議する夫に妻はこう言い放ったそうだ。「ガラクタばっかりじゃない」。ある人のごみは別の人の宝とはよく言ったものである

 ▼落語の「道具屋」もそれと似たところがあった。どんな仕事も長続きしない与太郎に、伯父が道具屋をやらせるのである。元手がない与太郎に伯父は道具の入ったこうりを渡す。中を見ると鼻の欠けたひな人形やぼろぼろにさびたのこぎり、古ぼけた股引などごみだらけ。与太郎もさすがに文句を言うが、伯父はこんな物でも売れると保障するのである。いざ道端で商売を始めてみると、実際買っていく人がいるのだった

 ▼いわゆる「ごみ屋敷」の住人も、家に山と積まれたごみを自分の大事な財産と見なしている人が少なくない。そんなごみ屋敷が過去5年に全国で5224件確認されていた。環境省がこのほど発表した自治体アンケート結果で明らかになった事実である。全1741市区町村のうち、ごみ屋敷があると回答したのは661市町村。東京が880件と最も多く、愛知の538件、千葉の341件がこれに続く。住人への指導などで半数は片付いたものの、あとはお手上げという

 ▼衛生状態は悪いわ火事は心配だわで周りは迷惑この上ない。高齢でごみ出しが困難になったケースは対処も容易だが、ごみを私財と主張している場合は行政もおいそれとは手が出せない。集めた物をごみと言われると、人生を否定された気がするのだろう。問題は案外根深い。


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