日本を代表する建築家伊東豊雄さんはここ十数年、箱に人を閉じ込めてきた近代建築からの脱却に取り組んできた。その一つの結実が、東日本大震災をきっかけに生まれた「みんなの家」である
▼当時は津波と地震で街も建物も破壊され、地域コミュニティの維持も難しい状態。住民の心細さは募るばかり。人々が集まれる「みんなの家」ができると、コミュニティが自然と立ち上がり、復興の支点となったのだった。伊東さんは『「建築」で日本を変える』(集英社新書)にこう記している。「目には見えないコミュニティに対して、目に見える場、人と人との繋がりを体感できる場所をつくっていくことこそが、これからの建築の使命です」
▼裏目に出た形ではあるが、この現象もそんな流れの中に浮かび上がったものでないか。札幌の地下鉄南北線大通駅〈大通交流拠点地下広場〉で昨年末以降、複数のグループが酒を飲んで騒いだり、長時間にわたって場所を占有したりする迷惑行為が続いていたのである。本来は誰もが自由に待ち合わせや休憩、ちょっとした時間つぶしに使えるようにと設けられた空間。場ができたことで、人が集まる所に特有の温かさや活気も生まれていた。居心地の良さにひかれて他に行き場のない人々が集まりたがるのも分からないではない
▼せめて建築の理念を感じ適切に利用してほしかったが、周りへの気遣いができない人々にマナーという高度な作法が理解できるはずもないか。交通局はおととい、休憩スペースの一部を閉鎖した。みんなの広場が一日も早く戻るといい。