コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 131

シューパロ湖底の街

2020年09月09日 09時00分

 当時はこの駅前商店街にたくさんの人が訪れ、大いににぎわっていたのだろう。あの神社のお祭りの日は地域全体が熱気に包まれたに違いない―。そんな情景を思い浮かべながら、今はわずかな痕跡の他には何もない土地を歩かせてもらった

 ▼先の日曜日に開かれた、渇水期の夕張シューパロダム湖底を散策するイベントでのことである。なかなかできない経験だ。ここにはかつて人口2万人の街があったのだという。旧鹿島地区は三菱大夕張炭鉱のいわば城下町で、夕張川沿いに市街地が広がっていた。閉山とともに人口流出が始まり、シューパロダムの建設によって完全に水没。ただ、夏場の渇水期には地区の大部分が姿を現すのである

 ▼今回の催しを企画したのは夕張商工会議所(会頭・中島功治北宝建設社長)など地元経済界有志でつくる「沈んだ街あるき実行委員会」。毎年限られた時期だけ見ることのできる昔の街を地域活性化に役立てられないかと考え、関係機関と調整し初開催にこぎ着けたそうだ。栄町商店街、三吉神社、明石駅、夕張東高校、拓銀鹿島支所―。それらがあった場所55カ所には写真付きの看板が置かれ、往時の街を想像することができた。鉄橋や駅のホームなど形を残しているものもある。そこを歩いて見て回れるのだから面白くないわけがない

 ▼当日は大盛況で山奥に思いがけぬ大渋滞が発生。現地に着くまでだいぶ待たねばならなかった。1500人以上が押し掛けたらしい。眠っていた地域観光資源の掘り起こしに成功したということだろう。沈んでいた、というべきか。


車中置き去りで2女児死亡

2020年09月08日 09時00分

 本道は季節外れの猛暑が続いている。夜も思ったほどは涼しくならない。夏バテに睡眠不足も重なり体調を崩す人も少なくないようだ。「炎昼の真只中の救急車」宮内千穂。そうなってしまっては大変である。このコロナ禍でマスクを着ける機会も増えた。意識して涼をとる工夫が必要だろう

 ▼きのうも最高気温は札幌で29・7度、旭川で30・1度、北見では30・3度に達した。この厳しい暑さは今週水曜頃まで続く。こうなるともう一つ厄介なのが車の乗り出しである。屋外に置いてあった車はやけどするほど熱い。ドアを開けるとサウナを超える熱気に息もできないくらいだ。本道でさえこうなのだから、さらに暑い香川県の高松市だとどうなるかは想像に難くない

 ▼二人の女の子はどれだけ苦しかったか。乗用車内に2日午後9時から翌日午後1時近くまで15時間、置き去りにされた6歳と3歳の女児が熱中症で死亡した。26歳の母親はその間、3軒の飲食店をはしごし、知人男性の家にも行っていたという。何ともやりきれない事件である。3日の高松市の気温は午前7時には30度を超え、正午には36度まで上がっていたそうだ。報道によると母親は「クーラーがあるから大丈夫と思った」と言っているらしい。ばかな話だ。15時間放置すればクーラーが止まる他にも不測の事態が起きておかしくない

 ▼「炎昼のおのれの影に子をかくす」日下部宵三。わが身を盾にしてでも子を守ろうとするのが自然な親心というものだろう。子どもたちは母親を呼んでいたはずだ。なぜその声を聞こうとしなかったか。


パソナ本社が淡路島に

2020年09月07日 09時00分

 人材派遣事業を中心に幅広く人材ビジネスを展開するパソナグループ(東京)が、2023年度末までに本社を淡路島へ移すことにしたそうだ。先週発表した。グループ全体の本部機能社員1800人のうち1200人を異動させるというから本気である

 ▼「真に豊かな生き方・働き方」を実現するためだが、コロナ禍でリモートワークが進んだことや、新たな事業継続計画(BCP)が求められることも理由らしい。ごみごみした都会を離れ、豊かな自然の中で働けたらどんなに素敵かと思う人は多いに違いない。この感染症も結局のところ、人が過度に集中する大都市問題との側面もある。人口の地方への分散はもっと積極的に考えられていい

 ▼人材論を専門とするロンドンビジネススクールのリンダ・グラットン教授も『コロナ後の世界』(文春新書)でこう指摘していた。「今回のパンデミックを東京一極集中を緩和する契機と捉えるべきではないでしょうか」。ピンチをチャンスに変えろというのである。一極集中の是正は古くて新しい問題だ。つまり言い換えれば、今まで何をしても空振りに終わっていたのである。政府は20年時点で東京圏からの転出者と転入者を均衡させる目標を立てていたが、いまだ12万人規模の転入超過が続く

 ▼そんな袋小路の中でのコロナ禍である。ウイルスにやられっぱなしでは悔しい。何とか一矢を報いたいもの。それがパソナのような戦略的地方移転なら未来の可能性も広がろう。せっかくだからぜひお薦めしたい潜在力を秘めた土地がある。北海道というんですが。


コンビニ本部が独禁法違反か

2020年09月04日 09時00分

 普段暮らしていて使う場面はまずないものの、ドラマなどでは時々聞く言い回しに「百姓は生かさず殺さず」がある。狙った者をとことん利用するため、細く長く金をしぼり取ろうとたくらむ悪人がよく言う言葉である

 ▼元をたどれば徳川家康の家臣本多佐渡守正信が著した『本佐録』の中の一節「百姓は財の余らぬように不足なきように治むる事、道なり」に行き着くそうだ。それが次第に変わっていったのである。言葉だけでなく、意味も変わっている。中途半端な境遇に置いて苦しみを持続させるというのが今の使われ方だが、本来は「道なり」の語から分かる通り、「程よくせよ」と教えるものだった。さて、それでは「加盟店は生かさず殺さず」に見えるこちらの本部の本音は、いったいどちらなのか

 ▼公正取引委員会がおととい公表したコンビニエンスストアを巡る調査報告書で、本部に虐げられている加盟店の実態が明らかになった。急成長のしわ寄せを、加盟店がそっくりかぶる構造だったらしい。近年、24時間営業強制や人手不足で苦境に陥る加盟店が増えている。ドミナント戦略と呼ばれる地域集中出店により各店の売り上げが減ることも多い。潤うのは本部ばかりで加盟店は青息吐息だ

 ▼ところが改善を求めても本部は交渉を拒絶。時には脅しともとれる対応に出るなど「優越的地位の乱用」が目に付くのだという。公取委は独占禁止法違反にあたる可能性もあると指摘している。コンビニ各社の本部はこの際、後世広まった俗説を信奉するのでなく、佐渡守本来の教えに学んではどうか。


野党合流新党

2020年09月03日 09時00分

 戦国から江戸期にかけて造られた城を観光で訪れる際、粋をこらした城郭を拝むのはもちろん、それを支える石垣を眺めるのも忘れるわけにはいかない。中でも自然石を絶妙に組み上げた石積みを見ると、その高度な技と構造美に思わず感嘆の声が出る

 ▼昔から石積みを専門とする職能集団がいたようだ。ただやはり基本はあり、例えば相性の良い形の石を見極め、一つの石を六つの石で巻くように積んでいくらしい。形の合わない石を無理に組み合わせると、とりあえず石垣の形はできたとしても長持ちはしないそうだ。風雨や地震にさらされ簡単に崩壊してしまうという。人を集めて作る組織も同じでないか。立憲民主党と国民民主党の合流劇を見ていて考えさせられたことである

 ▼玉木雄一郎国民民主党代表自身が合流に参加しないのは既に知られているが、ここにきてUAゼンセンや自動車総連、電機連合など「6産別」と呼ばれる民間企業系の産業別労働組合も、合流新党に支援しない方針を打ち出した。産別出身の議員約10人も当然、玉木氏の側に残ることになる。政治信条も目指す社会像も違う、相性に難のある議員と組織を、力ずくで大きなかたまりにしようとしたのだからこうなるのも当たり前。石を積むそばから崩れていく

 ▼新党への全面協力を約束していた連合傘下の産別だけに、神津里季生連合会長の顔も丸つぶれだ。神津会長は1日の記者会見で玉木氏と離反者を激しく非難したが手遅れの感が強い。新党は10日に代表と党名を決める選挙を開くそうだ。さて石垣の出来栄えはいかに。


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