当時はこの駅前商店街にたくさんの人が訪れ、大いににぎわっていたのだろう。あの神社のお祭りの日は地域全体が熱気に包まれたに違いない―。そんな情景を思い浮かべながら、今はわずかな痕跡の他には何もない土地を歩かせてもらった
▼先の日曜日に開かれた、渇水期の夕張シューパロダム湖底を散策するイベントでのことである。なかなかできない経験だ。ここにはかつて人口2万人の街があったのだという。旧鹿島地区は三菱大夕張炭鉱のいわば城下町で、夕張川沿いに市街地が広がっていた。閉山とともに人口流出が始まり、シューパロダムの建設によって完全に水没。ただ、夏場の渇水期には地区の大部分が姿を現すのである
▼今回の催しを企画したのは夕張商工会議所(会頭・中島功治北宝建設社長)など地元経済界有志でつくる「沈んだ街あるき実行委員会」。毎年限られた時期だけ見ることのできる昔の街を地域活性化に役立てられないかと考え、関係機関と調整し初開催にこぎ着けたそうだ。栄町商店街、三吉神社、明石駅、夕張東高校、拓銀鹿島支所―。それらがあった場所55カ所には写真付きの看板が置かれ、往時の街を想像することができた。鉄橋や駅のホームなど形を残しているものもある。そこを歩いて見て回れるのだから面白くないわけがない
▼当日は大盛況で山奥に思いがけぬ大渋滞が発生。現地に着くまでだいぶ待たねばならなかった。1500人以上が押し掛けたらしい。眠っていた地域観光資源の掘り起こしに成功したということだろう。沈んでいた、というべきか。