コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 135

人口減少続く

2020年08月07日 09時00分

 俳人金子兜太に一句がある。「おびただしい蝗の羽だ寿(ことほぐ)よ」。ものすごい数のイナゴが一斉に飛んで行ったのだろう。壮観だったのでないか。実際に見た経験はなくとも、「おびただしい」の言葉で光景がありありと目に浮かぶ

 ▼これに限らず日本語には数量の多いことを表す言葉がたくさんある。大勢、いっぱい、あまた、どっさり、しこたま―。全て挙げるとそれだけで当欄が埋まってしまうほどだ。豊穣を願う稲穂の国だからか、日本人は太古の昔から「多い」ことに特別な価値を見いだしていた。言葉の種類の豊富さはその現れ。お酒がなみなみとつがれるのを喜び、ご飯はたらふく食べられるのを良しとするのである。そんな日本で続くこの事態だ。国民の不安は増すばかりに違いない

 ▼総務省が5日、ことし1月1日現在の住民基本台帳に基づく人口動態調査結果を発表した。日本人住民の人口は昨年より50万5046人減り、1億2427万人になったそうだ。11年連続の減少だという。たわわに実っていた果実が徐々にしぼんでいくようで寂しい。本道は一層その傾向が強く、昨年比4万2286人減の522万6066人。22年連続の減少である。減少数も2位の兵庫(2万6937人減)を大きく引き離しての1位だ

 ▼少子高齢化が原因と分かっていても、政府の少子化対策はなかなか現実に追い付かない。この上は移民に頼るしかないとの意見もあるが、用心しないと疲弊する欧州の二の舞だ。やはり大勢の子どもが野や街にあふれる光景を寿ぐことのできる未来が一番いい。


75年目の8月

2020年08月06日 09時00分

 8月はテレビや新聞で台風災害と太平洋戦争の話題が増える時期である。ことしは新型コロナウイルスが再流行の兆しを見せているため、どちらも例年に比べ扱いは小さいようだ。ただ、だからといって関心をなくしていいわけもない

 ▼広島に原爆が落とされてからきょうで75年である。ずいぶん前の歴史のようだが、つい先日も放射性物質混じりの「黒い雨」を浴びた人の援護区域を拡大する司法判断が出たばかり。いまだに最新の問題ということである。とはいえ戦争体験者は減る一方だ。多くの日本人にとって戦争や原爆が単なる知識になっているのもまた事実だろう。防衛力を全否定したり、逆に戦争を美化したりと、昨今よく見られる極端な主張がそれを物語っている

 ▼石垣りんさんの詩「挨拶―原爆の写真によせて」を思い出す。こう締めくくられていた。「一九四五年八月六日の朝 一瞬にして死んだ二五万人の人すべて いま在る あなたの如く 私の如く やすらかに 美しく 油断していた」。戦後75年たち、油断が再び顔をのぞかせているのでないか。当時とは別種の油断である。この時期、マスコミの主導で世間は戦争の悲惨さに注目するが、戦争を避けるための抑止力にはほとんど目を向けない

 ▼世界から独裁も覇権主義もなくなってはいないのだが。台風災害への備えに避難と治水整備があるように、戦争を防ぐにも経済交流を含む外交と他国の攻撃を許さない確かな防衛力が必要だ。わが国を取り巻く国際情勢は時々刻々変わっている。戦争も常に最新の問題として捉え直したい。


ケーキを切る

2020年08月05日 09時00分

 去年出版されて大いに話題となった新書に『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治、新潮新書)がある。立命館大産業社会学部教授で医療少年院勤務の経験も持つ著者が今まで見過ごされてきた非行少年の背景に迫った力作だ

 ▼それを象徴的に示す事実が本のタイトルである。宮口氏はA4の用紙に丸を描き、「これをケーキだとして3等分に切り分けて」と問題を出す。簡単なことだがこれができないらしい。最初に真ん中から切って2等分にしてみたり、端から大きさバラバラで少しずつ切ってみたり。なぜこうなるかというと計画を立てる力がないためだそう。その例と比べるのは失礼かもしれないが、こちらの方たちもケーキを切るのがあまり上手でないようだ

 ▼立憲民主党と国民民主党がそれぞれ解党した上で合流し、新党を立ち上げようとしているのはご存じの通り。ところが一向に話はまとまらない。立憲の枝野幸男代表がこの新党の名称を、「立憲民主党」にすると言って譲らないのである。現党名をケーキだとした場合、枝野代表が上下二つに切り分けて上のデコレーション部分を自分に、下のスポンジ部分を国民民主党にあげるようなものでないか。話がまとまらないのは当たり前である。子どもなら取っ組み合いのけんかになってもおかしくない

 ▼もともと安全保障や消費税減税、憲法改正といった基本政策にも違いがある。それに加えてケーキのおいしい部分だけもらいたい人がいるのでは合流協議の進展は難しかろう。さて「ケーキの切れない政治家たち」はどうするつもりか。


リーマンショック以上

2020年08月04日 09時00分

 リーマンショックが発生した2008年9月当時、日本への影響は他国に比べ小さいとの見方が支配的だった。日本ではサブプライムローンを組み込んだ金融商品がほぼ扱われていなかったからである。ただ、現実はそう甘くなかった

 ▼GDPは08年度に年度平均でマイナス3.4%、09年度にマイナス2.2%と2年連続のマイナス成長。08年9月に0・83倍あった有効求人倍率も1年後には0・42倍に落ち込んだ。なぜそうなったのか。大正大学地域創生学部教授でエコノミストの小峰隆夫氏は著書『平成の経済』(日本経済新聞出版社)で、3点を指摘していた。「輸出の落ち込み」と「設備投資のストック調整」、「在庫調整」である

 ▼今の日本も新型コロナウイルスによって同じ苦境に立たされているようだ。政府は7月30日の経済財政諮問会議で、20年度のGDP見通しをマイナス4.5%程度と予測。厚生労働省が31日発表した6月の有効求人倍率も前年同月比0.5ポイント減の1・11倍と低迷している。GDPのマイナスがリーマンショック以上なのは、先の3点に加え内需の縮小もあるためだ。経済再生が遅れると有効求人倍率の低下にも拍車がかかるに違いない

 ▼昔の悪夢が頭をよぎる。リーマンショック後、世界各国が大胆な経済政策を打ち出す中、日本だけは影響が小さいからと対策を小出しにし、デフレを深刻化させたのだった。近頃の政府のコロナ対応も中途半端で軸足が定まらない。リーダーシップはどこへ行ったのか。もっと腹をくくって医療と経済の両立に取り組んでもらいたい。


GPSを巡る判決

2020年08月03日 09時00分

 話題になっていた事件の裁判結果を聞いて、市民感覚とはどこかずれている判決だなと思うことがたまにある。大阪府警が裁判所の令状を取らず、窃盗事件の捜査対象車両にGPS端末を取り付けた2013年の事案もそうだった

 ▼証拠固めをするためには必要で、全く問題ない手法だと思った人が当時多かったのでないか。ところが最高裁は17年3月、これを違法と判断したのだ。理由はプライバシーの侵害である。なるほど分からない話ではない。ただ、こんなところでプライバシーかと感じたのも事実。それを思い出したのは最近、やはりGPSに絡む最高裁判決があったからである。ストーカーが相手の車にGPSを取り付け、所在地を把握する行為は違法に当たらないとの判断を先週示したのだ

 ▼警察が令状を取らずに窃盗事件の捜査対象車両にGPSを付けるのは違法で、ストーカーが無断で相手の車にGPSを取り付けるのは違法でないらしい。はて、ストーカー被害者のプライバシーは一体どこへ。根拠は「見張り」を禁じたストーカー規制法にあるという。見張りとは被害者の近くでするものだから、GPSで位置情報を得るのは見張りにならないと判断したそうだ。率直に言わせてもらえば、さっぱりわけが分からない

 ▼相手の居場所を常に把握する行為を見張りでなくて何と言おう。ストーカーの執念深さを甘く見てはいけない。時代に合わない法律なら改正が必要でないか。「新しき酒は新しき革袋に盛れ」だ。法が現状に後れを取り、笑うのはいつも悪いやつばかりというのでは困る。


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