孫子の兵法の一つに「借刀殺人」があるそうだ。物騒な言葉だが、本質は他者の力を借りて自分の目的を果たすところにある。「戦わずして勝つ」を基本に据える孫子らしい計略といえるのでないか
▼教えはこうだ。「敵国を倒そうとするときには有利な条件を提示するなどして第三国を取り込みその国に敵国を攻撃させよ」。自国は労せず利だけ取る。第三国が喜んで戦力を差し出すよう仕向けるのがコツだという。どんな戦いでもこれは同じ。よく見ると一般社会でもこの計略が使われているのが分かる。最近、東京で二度にわたり実施されたクルド人差別に抗議するデモもそうだ。クルド人の男性が警官に暴力を振るわれたとして、支援者と共に渋谷警察署前で声を上げたのだった
▼ところがこの男性、不穏な運転を理由に警官が車を停止させ職務質問をしたところ、逃げようとしたため取り押さえられたのだとか。これでは日本人でも全く同じ扱いを受けたに違いない。警察としては規定通りの手順だろう。折しも米国で警官の暴力により黒人男性が死亡し、騒ぎになったばかりだった。クルド人男性も差別に絡めれば支援者が恨みを晴らしてくれると考えたのかもしれない。今回は警察たたきに便乗したいマスコミや一部政治家も支援に回った。互いを利用したのだ
▼その渦中の13日、「日本クルド文化協会」は「デモは支持しない。男性の行為に擁護の余地はなく、警察の要請に適切に対応すべきだった」との声明を発表した。事実確認をした上での結論だという。小手先の計略は結局、身を滅ぼす。