コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 147

最強の本

2020年05月11日 09時00分

 誰にでも1冊や2冊、子どものころにお気に入りだった本があるのではないか。小説家の角田光代さんにとってそれはスウェーデンの児童文学作家リンドグレーンの『長くつ下のピッピ』だったそうだ

 ▼その本を読んだ幼かったころの記憶を、エッセー「真に出会うと」にこう記していた。「だれよりもこの子と仲良くなりたい、この子のようになりたいと、幼き日に私は願った」。一番憧れの友だちだったのだろう。子どもが成長していく過程で、本が現実の出来事以上に大きな力になることもある。こちらの本もそんな力に満ちているのは間違いない。「小学生がえらぶ!〝こどもの本〟総選挙」で「最強の本」が決まり、こどもの日に発表になった

 ▼1位に輝いたのは『おもしろい! 進化のふしぎ ざんねんないきもの事典』(高橋書店)。昨年の第1回に続き2連覇というからどれほど人気が高いか分かる。子どものために購入し、既に家にあるという人も多いのでないか。5―7位もその続編が占めた。総選挙は全国の小学生に「今まで読んだなかで1番すきな本」を投票してもらうもの。今回は約25万人が参加したという。「ざんねんないきもの」は「オオアタマガメは頭が大きすぎて、こうらに入らない」など生き物のこっけいな生態を絵入りで紹介する本である

 ▼子どもたちは大いに笑いながらも、不利や失敗をものともせず力一杯頑張る生き物の姿に深く共感するらしい。多くの小学校で休校が延長された。せっかくの機会である。本を介してこうした「真に出会う」経験を増やせるといい。


緊急事態を延長

2020年05月08日 09時00分

 登山では目安として傾斜が急ならば30分に1度、緩ければ1時間に1度のペースで休憩を入れる。ただし予定の行程に遅れが出ているときはこの限りでない

 ▼当方が山登りの初心者だったころの話である。へとへとになって歩いているとリーダーが「あと10分登ったら一休みだ」と宣言した。地獄に仏とはこのこと。それからは休憩だけを心の支えに歩を進めたが、10分たってもリーダーは全く止まる気配を見せない。10分を目標としていただけに、そこから先の1分1分の長いこと。とはいえ下っ端が異を唱えるわけにもいかない。ひたすら我慢して歩くしかなかったのである。やっと休憩に入った時には宣言から小1時間が過ぎていた

 ▼新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐ緊急事態期限がしばらく延長されると聞き、その苦しかった経験がふと頭をよぎった次第。6日まで頑張れば一息つけると自粛に努めてきたわれわれである。まだ登り続けねばならぬと言われると、正直なところいささか気持ちがしぼむ。特に営業停止を余儀なくされ、収入の道を完全に断たれた方々の窮状は深刻だろう。飲食関係を中心に観光や製造、イベントなど影響は広範囲に及ぶ。学生や派遣、パートも例外ではない

 ▼安倍首相は延長を31日までとし、事態に改善が見られたときは早めの解除もあり得ると表明している。14日をめどに再評価するそうだ。山登りのリーダーは途中何も言わなかったが、要所で正確な状況や予測を丁寧に説明してくれていればこちらの焦燥感も少しは和らいだはず。さて日本のリーダーはどうか。


花粉症

2020年05月02日 09時00分

 本道はおとといから急に暖かくなった。その日の朝も出勤するため前の日と同じ厚手のコートを羽織って家を出たが、しばらく歩くと暑くて着ていられない。イソップ寓話(ぐうわ)「北風と太陽」に登場する男になった気分である。季節の変化はいつも突然だ

 ▼とはいえ一年を通してみれば、移り変わりは案外規則正しい。暖かさとともにもう一つ、この時期特有の現象が始まっているようである。ハックション!。「弁慶に泣き所あり花粉症」小島左京。そう、花粉の季節である。弁慶が花粉症だったとは思えないが、もしそうだったら自慢のなぎなたも手元が狂って仕方がなかったろう。くしゃみ、鼻水、涙目に加え頭も重いのでは何をするにも不自由だ。当方もお仲間だからよく分かる

 ▼飛散状況を毎日観測している道立衛生研究所によると、4月26日頃からシラカバ花粉の量が右肩上がりになっているそうだ。気温が高いと飛散量も増える。札幌で最高気温が20度に達した30日はかなり飛んだに違いない。「樺の花高きにありてみな眩し」深谷雄大。高い所から垂れ下がり風に揺れている白樺の花は普通の人には輝いて見えるのかもしれない。ところが花粉症に悩む者の目には、危険な化学物質が頭上から狙っているようにしか見えないのである

 ▼ことしの飛散量は平年に比べやや多い程度という。ただ、少なかった昨年と比べると約3倍になるそうだ。新型コロナウイルスも心配だが、重い症状を持つ人にとってはこちらの方がよっぽど現実的脅威だろう。花粉症との戦いもここ1カ月が勝負である。


9月入学

2020年05月01日 09時00分

 仲間と共に数々の危機を乗り越え成長する少年の姿を描いた『ハリーポッター』シリーズを映画や小説で子どもと一緒に楽しんだ人も多いに違いない。一話目の「賢者の石」にこんな場面があったのを覚えているだろうか

 ▼それは8月の最終日のこと。ハリーは次の日にキングスクロス駅へ行かねばならない。ただ、一人で行くには遠過ぎる。そこで居間に下り、バーノンおじさんに車で送ってほしいと頼むのである。なぜ駅に向かう必要があったかというと、ホグワーツ魔法学校行きの汽車に乗るため。ハリーは9月の新入学が決まっていたのである。日本人ならここは少し違和感のある部分かもしれない。日本は入学といえば4月だ。ところが欧米ではほとんどの国が9月なのである

 ▼日本もことしから9月に変えようとの声がにわかに高まってきた。新型コロナウイルスの感染拡大で休校措置が長引いていることを踏まえ、この際前半はあきらめて、いっそのこと世界標準に合わせてしまおうという話らしい。全国知事会が4月29日のテレビ会議で国に検討を促す提言をまとめ、安倍首相も同日の衆院予算委員で選択肢として視野に入れる意向を表明した。歯車が今秋の入学に向け一気に回り出した感がある

 ▼行政の長たちのあまりに短兵急な進め方に、学校現場は青ざめていよう。内心のつぶやきが聞こえるようだ。「そんなことができるわけない」。もし実行するにしても数年掛けて計画的に進めるべき問題だろう。それとも全国の知事さんたちは、全ての懸案を一挙に片付ける魔法でもお持ちなのか。


虫の居所

2020年04月30日 09時00分

 日本人は古来、虫の姿や鳴き声に風情を感じてきた。清少納言が『枕草子』に「虫は、すずむし。ひぐらし。てふ。松虫。きりぎりす。はたおり。われから。ひをむし。蛍」と一つ一つ名を挙げ、めでていたくらいである

 ▼一方で体の中には別種の虫が住んでいると考えていたようだ。「虫の居所が悪い」というあれである。虫が感情を刺激するため、虫が好かなかったり、腹の虫が治まらなかったりするわけである。この虫、活動を始めたことに本人も気付かないし、ましてや外からは全く見えないから始末が悪い。仏文学者の河盛好蔵も著書『人とつき合う法』(新潮社)で、人間同士のつき合いの中でも「〝虫のイドコロ〟というヤツがいちばん厄介で、あつかいにくい」と嘆いていた

 ▼今、日本中でそんな虫の居所の悪い人が増えているように見える。あながち気のせいでもあるまい。新型コロナウイルスのせいで外出や業務が制限されたり、必要なマスクや消毒液が手に入りにくくなっているからだろう。最近は「自粛警察」なる言葉もあるそうだ。〝人と人との接触8割減〟にこだわるあまり、守っていないとみると怒り出す人が少なくないのだとか。「この時期に店を開けているなんて」「子どもを公園で遊ばせるな」といった具合

 ▼一緒にいる時間が長いため夫婦や親子のけんか、家庭内暴力も目立つという。どうやら新型コロナには腹の虫に取り付いて人や社会を破壊する性質もあるらしい。体だけでなく虫の居所まで心配せねばならないとは憎いウイルスである。早く虫の息にしてやりたい。


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