もう20年近く前の話になるが、転勤で函館に赴いたとき驚かされたのはイカにまつわる風物の豊かさだった▼朝になると外から「いがー、いがー」とイカを売り歩くおばちゃんの声が聞こえてくる。スーパーに行けば札幌ではめったにお目にかかれない透明なイカが店頭に並び、どれだけ種類があるのか加工品も数えきれないほど。まだ子どもたちが小さかったため8月の港祭り前には「いか踊り」を一緒に練習した。知識は持っていたものの、実際に住んで初めて「イカの街・函館」の奥深さが理解できたのだった。その状況に今、赤信号がともっているという。スルメイカの記録的不漁で函館市の取扱量が激減しているというのだ。北海道新聞が伝えていた
▼それによると函館市水産物地方卸売市場の取扱量は生鮮物が前期比11%減の739㌧、冷凍物が92%減の515㌧にとどまっているとのこと。道理で近所のスーパーでもこのところ国内産のイカを使った商品が高いはずである。安いのは輸入物ばかりだ。海水温が影響しているらしいが、もう一つ気になるのは北朝鮮の動きである。近年、好漁場とされる本道西方沖の武蔵堆や能登半島沖の大和堆で、北朝鮮漁船が密漁を繰り返しているのだ。彼らには資源管理の考えがないため、人海戦術で根こそぎ奪い取っていく
▼イカは函館の産業や経済のみならず文化をも支える。ニシン漁の例を引くまでもなく、イカが消えるとそれらも丸ごと失われてしまう。函館のイカを歴史の1ページにはしてほしくない。守るためにできることはまだあるのでないか。