コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 145

希望と勇気

2020年05月26日 09時00分

 本を読んでいて自分の気持ちにぴったりくる一文に出会ったときはうれしいものである。詩集『あなたにあいたくて生まれてきた詩』(宗左近選、新潮文庫)を眺めていて、ちょうどそんな作品を見つけた

 ▼小説家玉代勢章氏の「希望・勇気」である。とても短いので全文を紹介したい。「きみは/きみ自身のために/希望である/勇気である/だから/ぼくも/希望であることができる/勇気であることができる」。自身のための希望と勇気をよそで探す必要はない。皆自分で携えているということだろう。「きみ」と「ぼく」に限らず、それを互いに認め合っている関係は強い。日本が強制的な都市封鎖をせず、これほど早く成果を上げられたのもその強さがあったからでないか

 ▼47都道府県のうち最後まで残されていた首都圏の1都3県と北海道の緊急事態宣言がきのう解除され、新型コロナウイルス収束に向けた戦いは大きな転換点を迎えた。満足な武器もないまま、見えぬ敵を相手によく頑張ったものだ。欧米からは人口の多い日本で、死亡者を820人程度に押さえ込めているのは奇跡との声も聞かれる。自画自賛は控えるが、日本人一人一人が希望を失うことなく不便に耐え、勇気を出してウイルスに立ち向かった結果に違いない

 ▼もちろん道半ばではある。まだ気は抜けない。特に本道は病院や高齢者施設での集団感染が止まらず、厳しい状況が続く。とはいえ局面は暮らしや経済を犠牲にしてウイルスをねじ伏せるところから、経済を回し日常を取り戻す段階に入った。もうひと頑張りである。


コロナ後のインバウンド

2020年05月25日 09時00分

 ある物で痛い目に遭うと、次からはそれを見るだけで怖くなる。一種のトラウマだろう。落語「芝浜」はそんな人間心理の機微を描いて面白い▼人はいいが酒を飲んでは仕事をさぼる魚屋の金さんがある日、道で50両を拾った。気が大きくなり大酒を飲むが、朝起きて妻に50両のことを尋ねるとそれは夢だという。ばかな夢を見たと反省した金さんは酒を一切やめ真面目に働くようになり、3年たつと一財産もできた。妻が告白する。50両は夢でない。あなたに一生懸命働いてほしくてうそをついたと。久々に酒を用意した妻に金さんが言う。「やめとこう。また夢になるといけない」。この新型コロナウイルスが下火になると、似たようなことを言う人が出てくるかもしれない。「外国人観光客を受け入れるのはやめとこう」

 ▼少し前まで、日本は空前のインバウンド景気に酔いしれていた。ところがこうして外国人観光客需要が一気に失われてみると、それに頼り切っていた実態が浮かび上がってきたのである。政府観光局は先週、4月の訪日外国人旅行者数が前年同月比99.9%減の2900人にとどまったと発表した。コロナが収束しても客足はすぐには戻るまい。観光を基幹産業とする本道にとってはかなりの打撃である。観光産業の裾野は広いのだ

 ▼割り切れぬ思いもあろうが、トラウマを乗り越えて外国人観光客誘致の旗は掲げ続けるべきだろう。需要の急激な変化に対応できる態勢を整えつつ、安全な日本に健康な人々を呼び込む方策を考えた方がいい。夢ならもっといい夢をみたいではないか。


なれ合いの構図

2020年05月22日 09時00分

 元厚生労働事務次官の村木厚子さんについて以前、当欄で触れた。11年前、大阪地検特捜部に冤罪(えんざい)で逮捕、起訴され、拘置所に半年近く拘留されたものの、後の裁判で自身の身の潔白を証明した人である

 ▼当時、「検察関係者」が非公式に漏らす捜査情報や証拠を、マスコミが盛んに報道していたのを覚えている人も多かろう。検察とマスコミが一体となって村木さん有罪の世論をつくっていたのである。今国会での成立が見送られた検察庁法改正を含む国家公務員法の改正問題で、マスコミが検察の独立性にばかり焦点を当て、暴走にはさほど懸念を示さないのを不思議に思っていたが、こんな事情もあったのか

 ▼東京高検の黒川弘務検事長とマスコミ各社の記者らが、新型コロナウイルス感染拡大防止のための緊急事態宣言が出されているさなか、賭けマージャンに興じていたそうだ。「週刊文春WEB」がおととい報じた。法務省の聞き取り調査に対し、黒川検事長も事実だと認めているという。文春によると当日、卓を囲んだのは産経新聞記者と朝日新聞元検察担当記者だったそう。黒川氏と特定の社に限った話ではあるまい。情報がほしいマスコミと利用したい検察のなれ合いの構図だろう

 ▼検察が社会正義の実現に本気で取り組んでいることに疑問を挟む気はない。ただ正義はときに暴走する。村木さんの事件では証拠偽造や脅迫的取り調べまであった。国家権力を行使する組織である。独立性も大事だが、同時に監視や抑制を受ける仕組みも必要だ。マスコミにはできない仕事である。


池江璃花子選手

2020年05月20日 09時00分

 世間体や外聞を気にして、本当の自分を見せないように生きていくのは少々しんどい。ただ、現実にはそんな人も少なくないはず。ディズニー映画『アナと雪の女王』の主題歌「Let It Go」がヒットしたのもそんな心情を表現した歌だったからでないか

 ▼こんな歌詞があった。「ありのままの 姿見せるのよ ありのままの 自分になるの 何も怖くない 風よ吹け 少しも寒くないわ」(高橋知伽江訳)。この人もよほど覚悟があったに違いない。競泳の池江璃花子選手のことである。おととい、退院後初めてウィッグ(かつら)を外し、その姿をSNSに投稿した。19才の女性である。白血病治療のせいとはいえ、公開には抵抗があったろう

 ▼今回あえてそれをしたのは「今のありのままの自分を見てもらいたい」からだった。見た目だけの話ではあるまい。ちょうどそんな心境のときに、スキンケアブランド「SK―Ⅱ」から彼女の言葉を発信するコラボレーション企画の申し出を受けたのだとか。「私にとっては、生きていることが奇跡」。池江さんはそう記した上で続ける。「現在、世界中が不安で辛い日々を送っています。このメッセージが、アスリートの仲間にとっても、また同じように苦難と戦っている誰かにとっても、小さな希望になればうれしいです」

▼病気と戦う患者や医療関係者、自粛で収入を失った人々、学びの場を奪われた子どもや学生たち。決して希望を見失うことなくみんなで乗り越えよう―。池江さんはありのままの姿でそれを伝えようとしたのだ。伝わっている。


本当の理由は

2020年05月19日 09時00分

 昔のブラウン管テレビは買って何年かたつと画面がチラついたりゆがんだり、映りの悪くなることがよくあった。すぐ修理に出す人はまずいない。どうしたか。「バン!」。そう、たたいて直したのである

 ▼こんなことにもうまい下手があって、子どもがたたいても直らないのにお母さんが試すと一発で元通りなんてことも。コツを聞くと、「横板の真ん中から少し上のあたりを斜め45度の角度で勢いよく叩くのよ」。実際それでしばらくの間は調子がいいから不思議である。なぜ直るかは分からないものの、結果良ければ全て良しとされていたわけだ。それと一緒にしては失礼だが、日本の新型コロナウイルス対策も何が最も功を奏したものか、欧米に比べ死亡者数が著しく少ない

 ▼政府の感染症対策専門家会議で副座長を務める尾身茂氏が14日の首相会見に同席し、これは日本の医療制度や初期のクラスター対策、国民の健康意識の高さの結果だろうと説明していた。それだけでこれほどの差がつくものなのか。事実、同じ先進国なのに17日現在で米国は死亡者数が8万8000人以上、英国やイタリアは3万人を超える。そんな欧米からは「日本は運が良かっただけ」との声も出ているらしい。訳が分からないからだ

 ▼最近は予防接種のBCGやアジア人系特有の抗体を理由に挙げる研究者もいるが、真偽のほどは不明である。テレビをたたいて直すのもしょせんは一時しのぎ。原因を見つけて正しく対処せねばいつか大きなしっぺ返しを食う。コロナも死亡者が少なく済んでいるうちに全容を解明したい。


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