本を読んでいて自分の気持ちにぴったりくる一文に出会ったときはうれしいものである。詩集『あなたにあいたくて生まれてきた詩』(宗左近選、新潮文庫)を眺めていて、ちょうどそんな作品を見つけた
▼小説家玉代勢章氏の「希望・勇気」である。とても短いので全文を紹介したい。「きみは/きみ自身のために/希望である/勇気である/だから/ぼくも/希望であることができる/勇気であることができる」。自身のための希望と勇気をよそで探す必要はない。皆自分で携えているということだろう。「きみ」と「ぼく」に限らず、それを互いに認め合っている関係は強い。日本が強制的な都市封鎖をせず、これほど早く成果を上げられたのもその強さがあったからでないか
▼47都道府県のうち最後まで残されていた首都圏の1都3県と北海道の緊急事態宣言がきのう解除され、新型コロナウイルス収束に向けた戦いは大きな転換点を迎えた。満足な武器もないまま、見えぬ敵を相手によく頑張ったものだ。欧米からは人口の多い日本で、死亡者を820人程度に押さえ込めているのは奇跡との声も聞かれる。自画自賛は控えるが、日本人一人一人が希望を失うことなく不便に耐え、勇気を出してウイルスに立ち向かった結果に違いない
▼もちろん道半ばではある。まだ気は抜けない。特に本道は病院や高齢者施設での集団感染が止まらず、厳しい状況が続く。とはいえ局面は暮らしや経済を犠牲にしてウイルスをねじ伏せるところから、経済を回し日常を取り戻す段階に入った。もうひと頑張りである。