コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 16

文化庁の京都移転

2023年03月28日 09時00分

 京都人、わけても生粋の人は七を「しち」ではなく「ひち」と発音するそうだ。ところが日本の国語教育では七を「ひち」と言うのを認めていない。京都出身の井上章一国際日本文化研究センター所長が著書『京都ぎらい』(朝日新書)でそのことに憤っていた

 ▼例えば地名の七本松、上七軒は本来、それぞれ「ひちほんまつ」「かみひちけん」だが、公的な場では「ひち」が「しち」に変わっているというのである。バスの案内で「しちじょう」と聞いたおばあさんが、勘違いして降りた話も紹介していた。「ここ四条とちゃうやないの。まだ七条(ひっちょう)やんか」というわけである。井上さんは疑問を持つ。地域ならではの言葉を国が統制し、全国一律にするのはいかがなものか

 ▼文化の豊かさは多様性があってこそ。今回の動きが、そんな地域色を生かす方向に広がるといいのだが。きのう、文化庁が京都へ全面的に移行した。中央省庁の東京一極集中を見直す目的で準備が進められていたものである。他省庁と密接に連携している部署などを除き、全体の7割程度、約390人が京都で業務に当たることになるという。明治政府が首都を東京に定めて以来、中央省庁が首都外に全面移転するのは初めて

 ▼京都に移った職員はこれから、七を「ひち」と聞く機会も増えよう。頑迷固ろうで例外を認めない霞が関の官僚社会から飛び出した文化庁には、多様性を実地で学ぶいい機会になるのでないか。くれぐれも東京風を吹かせる言動は慎みたい。「おおきに」とにこやかに拒絶されるのがオチである。


統一地方選

2023年03月27日 09時00分

 電気料金や灯油・ガス代の請求書が届くたび、深いため息をついていた冬がやっと終わった。かかったお金を合計すると、めまいがするほどである。冬の本道では燃料費をそう削るわけにもいかない。風邪でも引いて寝込んでは元も子もないではないか

 ▼春になっても安心はできない。食料品をはじめ、生活必需品の値上げラッシュが続く。100円だったちくわが200円近くで売られていたのにはさすがに驚いた。「はたらけどはたらけど猶わが生活楽にならざり」。石川啄木はそこで「ぢっと手を」見たが、われわれには今、他に見るべきものがある。次に道政を担う知事に誰がふさわしいか、しっかりと見極める必要があるのだ。統一地方選が始まった

 ▼物価対策自体は知事の直接の仕事ではない。ただ、人や産業を育て、逆境をものともしない足腰の強い北海道をつくるのは重要な役目。不景気になると全国に先駆けて足元がおぼつかなくなり、景気が上向いても回復が最後になる地域では話にならない。本道人口は昨年まで10年連続して全国最多の減少数を記録。JRの路線廃止もそれと同根だろう。都道府県の魅力度では常に上位を占めているものの、道民の生活は決して楽ではない

 ▼知事選では現職に新人3人が挑む。投票日は4月9日。ここで共に同じ夢を描ける人を見つけたい。
 23日付のWBCを取り上げた本欄に誤りがありました。後段に「イタリア戦」とあるのは皆さんお気づきの通り、もちろん「メキシコ戦」です。侍の優勝に舞い上がり、コントロールが乱れました。訂正します。


WBC 侍ジャパン優勝

2023年03月23日 09時00分

 きのうは平日の水曜日ということもあり、午前中は仕事が手に付かなかった人も多いに違いない。ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の決勝、日本対米国戦が朝からテレビ中継されていた

 ▼両者一歩も引かない熱戦を繰り広げていたため、仕事をしていても攻防が気になって気になって仕方がない。歓声が聞こえるたび、席を立ってテレビの前に駆け付けてしまう。そんな光景があちこちで見られたろう。多少の仕事の遅れは大目に見てもらわねばなるまい。試合後は勢いがついて倍の働きができたはず。なにせ日本代表「侍ジャパン」の優勝がかかっていた。結果は、2009年以来3大会14年ぶりの世界一。力の入らないわけがない

 ▼3対2と日本の1点リードで迎えた9回表は、文字通りしびれるような緊迫の展開に思わず固唾(かたず)をのんだ。マウンドに立ったのは今大会最初からチームを引っ張ってきた大谷翔平。米国きっての強打者トラウトから空振り三振を奪い世界の頂点に立った。野球は筋書きのないドラマといわれる。1次ラウンドでは不調だった村上宗隆がイタリア戦で逆転サヨナラヒットを打ったり、源田壮亮が手の小指を骨折したまま神業のようなプレーを連発したり。誰がそんな心揺さぶられるシーンを想像できたろうか。全ての選手が輝いていた。栗山英樹監督がまとめ上げたチームの勝利だろう

 ▼初戦の中国戦で1番打者ヌートバーが初球ヒットを放ってから、ずっと楽しい夢の中にいた気がする。しばらくはニュースを眺めながら夢の余韻に浸ることにしよう。


藤井聡太竜王六冠達成

2023年03月22日 09時00分

 創造とは無から有を生じさせる奇跡のような出来事ではなく、二つ以上のものを統合して新たな価値をつくり出すこと―。地球物理学者の赤祖父俊一さんは、著書『知的創造の技術』(日本経済新聞出版社)でそう教えていた

 ▼創造力を引き出す方法はいろいろあるが、その基本となるのは「『とんでもない』ことを『とんでもある』ことに」する取り組みだという。常識や慣例、伝統をあえて逸脱してみるのである。赤祖父さんは時計を一つの例に挙げていた。職人が手作業で部品を丁寧に組み上げる伝統を、日本が電子部品を使うことで覆したというのである。その結果、より正確な製品が安く簡単に作られ、誰もが時計を持てるようになった。職人技と最新テクノロジーを統合したわけだ

 ▼将棋の藤井聡太竜王が19日、第48期棋王戦五番勝負(共同通信主催)を制して最年少で六冠を達成したと聞き、その話を思い出した。藤井竜王といえば、AI(人工知能)将棋で技を磨いてきた事実がよく知られている。六冠は1994年に24歳2カ月で到達した羽生善治九段に続き史上二人目。藤井竜王は20歳8カ月だから3歳半縮めたことになる。ただ注目すべきは年齢より年代だろう。藤井竜王は小さなころから高度なAIを相手にできた。対局ではAI研究からしか出てこない意外な指し手が随所に見られるらしい

 ▼将棋は実戦を多く重ねてこそとの常識を軽々と飛び越えてきたのだ。残る冠は名人と王座。全冠制覇は「とんでもない」偉業だが、それも「とんでもある」にしてしまいそうな今の勢いである。


酒に弱い人は注意

2023年03月20日 09時00分

 吉村昭といえば史実に基づいた臨場感あふれる小説に定評がある。一方で鋭い観察眼が光るエッセーにも味わいがあった。「酒は真剣に飲むべきもの」もその一つ。盛り場で見た青年3人について書いた一編である

 ▼足元のおぼつかない青年を他の2人が支えていた。吉村さんは記す。「かれは、すぐれたからだをもっているが酒には弱いのだろう。が、かれは友人たちと酒を飲むことをこばまず、たわいなく酔う」。酔った青年の顔に「人生の一大事である修行をしているような真剣さ」を感じ取り、3人の友情をほほ笑ましく思ったらしい。1971年のエッセーだが、今も変わらず見られる光景だろう。似たような経験をしている人も多いのでないか

 ▼ただ、これからはそんな行動も、温かい目では眺めていられなくなるかもしれない。酒に弱い体質の人が飲酒を続けると、悪性胃がんになる可能性が高まる。そんな事実を国立がん研究センターや東大のチームが突き止めたそうだ。米科学誌に先週発表した。報道によるとチームは治療が難しい「びまん型胃がん」患者約1500人のがん組織を大規模にゲノム(全遺伝子情報)解析。その結果、アルコールを体内で分解しにくい人に特有の遺伝子変異が、がんを誘発するリスクを有意に高めるとのデータを得たという。頻度や期間などの詳細は明らかでないものの、量の多さとは密接な関係があるのだとか

 ▼酒は無理してでも飲むという昭和の価値観が見直しを迫られるのは間違いない。もうすぐ4月。新人に人生修行を強いてはいけませんよ。先輩方。


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