コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 152

志村けんさん死去

2020年03月31日 09時00分

 きのう、いつも通り机に向かってこの原稿を書いていると、午前10時頃に悲報が飛び込んできた。コメディアンの志村けんさんが亡くなったという。耳を疑った。新型コロナウイルスによる肺炎で治療中とは聞いていたが、まさかこんな結果になろうとは

 ▼ザ・ドリフターズの『8時だョ!全員集合』に見習いで出演していたころから大いに笑わせてもらっていた者としては、親しい知り合いを突如失った気分である。この2月に70歳を迎えたばかりだった。あまりに早い。今も芸能界の一線で活躍しているのはご存じの通りである。コント番組『バカ殿様』はいまだ人気で、動物とのふれあいを伝える『天才!志村どうぶつ園』では温かい人柄が茶の間を笑顔にさせていた。映画の主演も決まっていたと聞く

 ▼やはりこのウイルスは不気味だ。異常な速さで悪化し重態になる症例が数々報告されている。志村さんも17日に倦怠(けんたい)感を訴え、20日に重度の肺炎と診断され入院。治療実らず29日に死亡した。感染経路は不明らしい。ただ芸能人だけに付き合いはいろいろあったろう。仲間と酒を酌み交わすのが好きな人でもあったようだ。ヘビースモーカーで最近までたばこを日に40本吸っていたのも有名な話

 ▼安倍首相は28日の会見で、「密閉、密集、密接」の三つの密を避けるようあらためて要請していた。世界保健機関はたばこと過度の飲酒の弊害にも目を向けるよう注意を促している。月並みな言い方になるが、ここはあえて言わせてもらうことにしよう。志村さんの死を無駄にしてはいけない。


春は名のみの

2020年03月30日 09時00分

 春が近付くとふと口ずさみたくなる歌がある。「春は名のみの 風の寒さや」と始まる『早春賦』(吉丸一昌作詞、中田章作曲)である。子どものころに覚えた歌は不思議と忘れない

 ▼最終番の歌詞はこんなだった。「春と聞かねば 知らでありしを 聞けばせかるる 胸の思いを いかにせよとの この頃か いかにせよとの この頃か」。聞かなければ分からなかったものを、春と知ると心がせくというのである。本道はことし、この歌とだいぶ趣が違った。誰に聞くまでもなく3月初めから春が来ていたのだ。路地にはまだ少し残っているが街にはもうほとんど雪がない。いつもの年なら早い雪解けを喜んでいただろうに、新型コロナウイルスのせいでうれしさ半分といったところ

 ▼そんな人の世の事情とはやはり関係なく、桜前線も暖気に押されるように勢いよく北上を続けている。日本気象協会の開花予想(26日)によると、函館の開花は平年より8日早い4月22日、札幌は10日も早い4月23日だという。5月に入ってからは旭川が1日、稚内が7日、釧路が11日といずれも平年より1週間ほど早い。時節柄、桜の名所に大勢で繰り出し飲めや歌えの大騒ぎとはいくまい。濃密接触を避けるため職場の歓迎会さえ満足に開けぬ窮屈な昨今である

 ▼「たれこめて春のゆくへもしらぬまにまちし桜もうつろひにけり」藤原因香。引きこもっているうちに春は去り桜も散りつつあるというのだろう。平安時代の歌だが、ことしはそんな人も増えそうではないか。「春は名のみの―」。名ばかりの春なら寂しい。


感染が重大局面に

2020年03月27日 09時00分

 子どもの将来なりたい職業ランキングで必ず上位に入るパイロットは華やかな半面、想像以上に難しく責任の重い仕事らしい。旅客機パイロット早川秀昭さんの話をNHK『プロフェッショナル仕事の流儀 運命を変えた33の言葉』(2013年)で読んだ

 ▼めまぐるしく変わる気象状況や機体のコンディション、空港や他機の動きを休むことなく把握し、常に正しい判断を下しながら操縦せねばならないのだという。新型コロナウイルスとの戦いで最前線に立つ政府や感染症対策専門家会議、医療関係者にも今はパイロット並みの重圧がのしかかっているに違いない。感染を巡る状況が上空の気流のように日々ころころと変化し続けているためである

 ▼本道での感染多発がやや下火になったかと思えば次は阪神地区に。そして現在は東京へと中心を移している。対策も手洗いとマスクの励行から外出やイベントの自粛、学校の休業、果てはロックアウト(都市閉鎖)まで。しかも道を誤れば感染は一気に爆発する。瀬戸際に立つ東京では小池百合子都知事が都民らに今週末は不要不急の外出を控えるよう求めた。政府はきのう、先に成立した特別措置法に基づく「政府対策本部」を設置。安倍首相が「緊急事態宣言」を出せるようにした

 ▼大きな嵐が刻一刻と迫っているようだ。さて、ある程度ウイルスを押さえ込んできた旅客機日本はこの嵐を避けられるのか。パイロットだけに責任を押し付けるわけにはいくまい。乗組員たる国民もここで気を抜くことなく、プロフェッショナルの操縦に協力していきたい。


トヨタとNTTが提携

2020年03月26日 09時00分

 英文学者の外山滋比古さんが著書『知的創造のヒント』(ちくま学芸文庫)で、補色の面白さに触れていた。違う色の絵の具を、混ぜるのでなく隣り合わせに並べると、眺めて見たときにそれぞれの色が持っていないような輝きが出るというのである

 ▼例えば「緑色と紫色をパレットの上で混合すれば、にぶい灰色になるが、点描によって並置すると輝いた真珠色に見える」そうだ。組み合わせの妙というものだろう。こちらも今まで見たことのない輝きを放つことになるのだろうか。全く違う色を持つトヨタ自動車とNTTが24日、資本・業務提携を結ぶと発表した。互いに2000億円を出資し、高速大容量通信を基盤に自動運転やエネルギー最適化を実現する最先端の「スマートシティー」構想を進めるという

 ▼トヨタは既に静岡県裾野市で、ICT端末となる「コネクティッドカー」を核にした未来都市建設計画を打ち出している。ここにNTTの情報技術を実装し、街づくりのノウハウを蓄積するらしい。全ての人と車と家をインターネットでつなげて調整するため交通事故や渋滞は起こらず、二酸化炭素の排出もない。国際標準のシステム構築に向け、世界が今最もしのぎを削っている分野の一つである

 ▼日本のトップ企業2社が組むことで、この分野でも一歩先を行く巨大IT4社「GAFA」に対抗できる形が整う。ただ、最先端の街には新しいインフラがいる。さらに多くの企業の参画が必要となろう。違う色を持った企業が一つのキャンバスに並ぶ点描画がどんな絵になるか、楽しみである。


株を守る

2020年03月25日 09時00分

 めったに起こらない幸運に頼って暮らすことほどばかばかしいことはない。それを教える中国の故事「株を守る」を知らない人はいないだろう。こんな話である

 ▼宋国に田を耕して生計を立てている男がいた。ある日、畑の中の切り株にウサギがぶつかり、首の骨を折って死んだ。これはうまい具合だとその日から男は働くのをやめ、楽してウサギが手に入るのを願いながら日々株を眺めて過ごすようになるのである。現実にそんな人がいるわけない、と思いがちだが案外そうでもないらしい。一部野党が国会でまた森友学園問題を持ち出しているのである。3年余り安倍首相を追及し続け、首相関与の事実は出てこなかったものの一定のイメージダウンには成功したため、あのウサギよもう一度といったところだろう

 ▼土地取引に絡む文書の改ざんに携わった近畿財務局職員の手記が公表されたのを受け、政府に再調査を要求したのだ。手記には秘密の暴露のような目新しい事実がなかったにもかかわらずである。首相主催の「桜を見る会」で政権が小揺るぎもしなかったのも腹に据えかねていたに違いない。ただ、野党はウサギがつまずくのを座して待つだけの敵失頼みから、そろそろ脱却した方がいい

 ▼今は新型コロナウイルスによる景気悪化や生活困窮、弱者へのしわ寄せなど政治が取り組まねばならない仕事が山ほどある。逆に考えれば政府をただしつつ、野党の見識を国民に知らしめる絶好の機会でないか。この期に及んで選ぶ国会戦術が「株を守る」では、宋国の男同様、世間から笑われるだけだ。


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