コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 154

IoTに潜む危険

2020年03月14日 09時00分

 エレベーターに乗っていて、最上階まで上った辺りで「もし今ワイヤーが切れたら…」と心配になったことはないだろうか。実際は多重安全装置があるため下まで落ちることはない。仕組みが見えないゆえの不安だろう

 ▼米ミステリー作家ジェフリー・ディーヴァーの『スティール・キス』(文藝春秋)では、冒頭で通行人がエスカレーターに巻き込まれて死亡する。こちらも普段何気なく使っている機械だけに怖い。勝手に動くはずのない上部の点検口が突然開き、落ちて歯車に押しつぶされたのだった。サンダルが挟まったり、不規則な速度変化で乗客がなぎ倒されたりといったケースは現実でもたまに聞く。ただ、死亡事故はまれである

 ▼それが横浜市の商業施設で発生したという。12日、エスカレーターの点検作業をしていた男性が足から腹部までを巻き込まれて死亡したそうだ。この作業員は機械を停止させ、一人で作業していたことが分かっている。まだ不明だが何らかの原因で急に動き出したらしい。実は先の小説では、IoT(モノのインターネット)技術を悪用した犯人が制御装置を遠隔操作して点検口を開けていた。同じ手口で家庭用ガスコンロを介しマンションも爆破している。横浜の事故がそうだとは思わないが、これからの世の中、サイバーセキュリティーが一層重要になるのは確かだろう

 ▼金融機関へのハッキングが後を絶たず、イランでは原子力発電所がサイバー攻撃を受ける時代だ。生活が一気に便利になると同時に、仕組みはどんどん見えなくなる。心配がないとは言えない。


マスク高額転売

2020年03月13日 09時00分

 作家浅田次郎さんの人情味あふれる小説にはファンが多い。『地下鉄(メトロ)に乗って』(講談社)もそんな作品の一つである。現代と戦争の時代を行き来しながら物語は進む。小説では闇市が背景として重要な位置を占めていた

 ▼こんな会話が交わされる。「だって愕くじゃありませんか、メリケン粉が一貫目で百三十五円。あたしの給料が六百五十円ですよ」「百三十五円!―なんだか毎日値が上がりますな」。当時、メリケン粉一貫目の公定価格は2円ほどだったというから、なんと67倍以上で取引されていたのである。戦後の極端な物資不足で食料全般が手に入りにくい上、欲しい人も多いため値段がつり上げられていたのだ

 ▼時代だろう、で片付けられないのは昨今の感染防止用マスクを巡る状況を見たからである。ネットのフリーマーケットサイトなどで法外な値段を付けて売られている例を数多く見た。通常なら1箱60枚入り700円ほどの使い捨てマスクが、5箱5万円で販売されていたりする。現代の闇市ここにあり、といった趣だ。新型コロナウイルスの感染拡大は続いているのに店頭ではマスクが手に入りにくい。守銭奴たちはそこに目を付けたわけである。人の弱みにつけ込むあこぎな商売だろう。ただ彼らの横行もここまで。政府は政令を改正し、15日から高値の転売に罰則を科す

 ▼戦後75年たってまだ闇市でもあるまい。客が闇商人に抱く思いは感謝と信頼でなく怒りとあざけりだ。マスク高額転売に手を染めるやからは幾ばくかの利益と引き換えに心も売り渡しているのである。


任期をリセット

2020年03月12日 09時00分

 戦前は寸鉄人を刺すジャーナリストとして健筆を振るい、戦後は国会議員に転身し首相まで務めた石橋湛山は、引き際の鮮やかな人だったという。強い信念があったらしい。こう書き残している

 ▼「急激にはあらず、しかも絶えざる、停滞せざる新陳代謝があって、初めて社会は健全なる発達をする。人は適当の時期に去り行くのも、また一つの意義ある社会奉仕でなければならぬ」(『石橋湛山評論集』岩波文庫)。だからというわけでもあるまいが湛山の首相在任期間はわずか65日。日本の憲政史上では東久邇宮稔彦王の54日、羽田孜の64日に次ぐ3番目の短さだった。そこへいくとこちらの人はそんな湛山の信条などきっとどこ吹く風だろう。ロシアのプーチン大統領である

 ▼2024年に任期切れで退任のはずだったがここにきて続投の目が出てきた。政権与党の議員が10日、憲法改正に合わせ大統領の通算任期をゼロにするよう提案したのだとか。任期をいったんリセットするとはなかなかの荒業である。コンピューターゲームじゃないんだからと言いたくなるが、プーチン氏本人もずいぶんと乗り気らしい。中国も18年に国家主席の任期制限を撤廃し、習近平氏の終身独裁を可能にしている。「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対に腐敗する」の言葉もある。権力者はトップの座を譲りたくなくなるもののようだ

 ▼日本も自民党が17年に総裁任期の延長を決めている。党の話とはいえ今後度が過ぎればやはり批判は免れまい。国のリーダーも適度に新陳代謝し、社会の健全な発達を促すのが望ましい。


9年目の3・11

2020年03月11日 09時00分

 人気ドラマ『北の国から』(フジテレビ)の主題歌を作ったさだまさしさんには心の琴線に触れる歌が多い。映画『ひめゆりの塔』(1995年)で使われた「しあわせについて」もその一つ。時々無性に聞きたくなる

 ▼歌い出しはこんなだった。「しあわせですか しあわせですかあなた今 何よりそれが何より一番気がかり みんなみんなしあわせになれたらいいのに 悲しみなんてすべてなくなればいいのに」。日本中の人々がそう願っているに違いない。きょうは9年目の3・11である。東日本大震災からもうそんなにたったのだ。この9年の間にも地震、台風、噴火とたくさんの災害があった。どこが被災地になってもおかしくない。少しでも被害を減らすためにわれわれにできることは何だろうか

 ▼東日本大震災で「釜石の奇跡」と呼ばれた事例がヒントとなろう。片田敏孝群馬大名誉教授が震災前から小中学校で続けていた出前授業によって、児童生徒にほとんど犠牲者を出さず済んだ出来事である。教授はまず子どもたちを市内に34基ある津波慰霊碑に連れて行ったそうだ。そこにはたいてい津波の恐ろしさを後世に伝えるメッセージが刻まれている。こう諭したという。「津波は君たちが生きているうちにも必ず来る。想定にとらわれず率先して避難しなさい」

 ▼さださんの歌はこう続く。「どうぞあやまちは 二度とくり返さずに」。教授の教えにも通じる心構えだろう。先の教訓を忘れてはいないか。油断で幸せを失ってしまわないよう、あの日胸に刻んだ碑文をあらためて読み直したい。


感染対策の余波

2020年03月10日 09時00分

 世界で最も大きな陸上動物といえばアフリカゾウである。本道の動物園にはいないため見たことのない人も多いだろう。体長は最大で7mを超え、体重も10㌧に達する。大型ダンプ並みだ。目の前に現れたら圧倒されるに違いない

 ▼この大きさからアフリカにはこんな面白いことわざがあるのだとか。「象を食べるなら一口ずつ」。不可能に思える事業でも、小さな努力を積み重ねることで実現できるとの意味という。もとよりゾウを食べる気にはならないが、必要に迫られたときのために覚えておくのも悪くない。実は政府が今、新型コロナウイルス対策として実施している方策もこれと似ている。感染者の急激な増大を食い止めながら、限られた重症の患者に医療資源を集中することで事態を乗り切る作戦だ

 ▼中国や韓国、イタリアの失敗を踏まえむやみなPCR検査は避け、国民に不要不急の外出や学校の休業、不特定多数が集まるイベントの自粛を要請。現在のところ増加は抑えられ一定の効果が出ている。同じ患者数でも一挙に現れた場合と徐々に増える場合では結果に格段の差が出る。一挙だと医療現場が崩壊し感染拡大が止まらなくなるが、ゆっくり増えて流行のピークを下げられるなら治療も余裕だ。新型コロナも一口ずつである

 ▼ただしこれ、感染対策には有効でも経済への影響は計り知れない。きのうの東京株式市場日経平均株価終値は先週末から1050円下落し、1年2か月ぶりに2万円を割り込んだ。コロナより前に暮らしが壊れてしまいそうだ。やはりゾウを食べるのは楽ではない。


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