全国の書店員が一番売りたい本を選ぶ「本屋大賞」の2019年受賞作品が決まった。大賞に輝いたのは瀬尾まいこさんの『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)。幼いころに実の両親と別れ、血のつながらない親の間を転々とし4回も苗字が変わった女性の物語である
▼それだけ聞くと不幸な展開を想像するかもしれない。実際は違う。主人公はどの家庭でも愛され、健やかに成長していく。心温まる話である。この小説もそうだが、「バトンを渡す」のひと言から浮かぶイメージは力強く前向きだ。もともと陸上競技のリレー走に端を発する言葉で、ある時点の貴重な成果(バトン)を次の走者に信頼して手渡す動作だからだろう
▼本道でも最近バトンの受け渡しがあった。北海道知事を4期16年務めた高橋はるみ氏が22日に任期を終え退任し、翌23日に前夕張市長の鈴木直道氏が新知事に就任したのである。本道初の女性知事から全国最年少の若手知事へ。渡されたバトンはきっとずっしり重かったろう。高橋道政の持ち味は堅実さとしなやかさ。冒険こそしないものの、女性ならではの親しみやすさでメディアやCMにも度々登場し、本道の食や観光を積極的にPRしてきた。優位性を持つ分野の潜在力を顕在化させてきた功績は大きい
▼さて、鈴木氏の手腕はいかに。就任記者会見ではまず「攻めの道政、行動する道政」を掲げたそうだ。しばらく続いた堅実路線を、大胆に切り替える決意の表れでないか。道政は終わりのないレース。いろいろな走り方があっていい。バトンは渡されたのである。