コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 194

交通事故から子どもを守る

2019年05月10日 09時00分

 つらい交通事故の報が相次ぐ。死亡事故が急増したわけでもなかろうが、とりわけ胸の痛むケースが最近多いということだろう。「子の髪の風に流るる五月来ぬ」大野林火。外で元気に遊ぶ子どもが犠牲になる事故はその典型である

 ▼おととい、滋賀県大津市で散歩中の保育園児らが車同士の衝突事故に巻き込まれ、園児2人が死亡した。さらに1人は重体。園児と引率の保育士合わせて10人が重軽傷を負ったという。事故は県道のT字型交差点で起こった。急に右折してきた車に直進車がぶつかり、弾みで左に飛ばされた直進車が信号待ちの園児らに突っ込んだのである。右折した52歳の女は前をよく確認していなかったと供述しているらしい

 ▼筆者も交差点を直進中、右折車に当てられた経験があるが双方共にけがはなかった。いわゆる右直事故は珍しくない。ところが悪い巡り合わせがいちどきに幾つも重なるとこんな悲惨な結果を招くのだ。何ともやりきれない。事情を知り涙した人も少なくなかったろう。当日は事故に加え、もう一騒動あった。保育園が開いた会見で大手メディアの一部記者が園の過失を糾弾するかのような質問をし、世間の批判を浴びたのである。二次被害を生むセンセーショナリズムは厳につつしむべきだろう。報道の存在意義が問われる。肝心なのは二度と事故を起こさないための手だてだ

 ▼あすから春の全国交通安全運動が始まる。くしくも今回の啓発ポスターは児童が手を上げて横断歩道を渡る絵だ。子どもたちを守りたい。ドライバーの自覚一つでそれはできるのである。


飲酒運転死亡事故

2019年05月09日 09時00分

 札幌出身のシンガーソングライター半崎美子さんの歌は、平穏な日常がどれだけ貴重かを思い出させてくれて聞くたび胸に迫る

 ▼『サクラ~卒業できなかった君へ~』もそんな曲の一つだ。親しい友人が突然亡くなり、共に卒業式を迎えられなくなってしまった悲しみを歌っている。歌詞にこんな一節があった。「最後に見たあなたは いつも通りの笑顔だった 行く宛てのない気持ちだけ 進んだ時間を巻き戻す」。この友人がなぜ亡くなったのかは分からないが、事情はどうあれ当たり前にあった笑顔が唐突にこの世から失われる。喪失感は深かろう。その原因がもし飲酒運転事故の巻き添えだったら、怒りや悲しみの気持ちをどこに持っていけばいいか。理不尽に奪われた命である
 
 ▼6日、栃木県宇都宮市で飲酒運転をしていた22歳の男がパトカーの追跡を振り切って逃走した揚げ句、対向車線に飛び出し軽乗用車と正面衝突。軽を運転していた46歳の男性を死亡させた。男性は仕事に行く途中だったという。前日5日に兵庫県神戸市で、やはり飲酒して車を暴走させた男が6人に重軽傷を負わせた事故があったばかり。自分だけは大丈夫と高をくくっていたのだろう。ただ、順法精神がまひするくらいだから酒に負けているのである
 
▼宇都宮で死亡した男性の妻がインタビューに答えているのをニュースで見た。仕事熱心で子ども思いの優しいお父さんだったそうだ。これから家族一緒にできることもたくさんあったろうに。飲酒運転の男は一瞬で家族の夢や希望を、そして平穏な日常も奪ってしまった。


五月病

2019年05月08日 09時00分

 学校のグラウンドによく置いてあった鉄製の整地ローラーを覚えている人は多いだろう。野球根性アニメ『巨人の星』(原作・梶原一騎)の主題歌に「思いこんだら」とあることから、重い「コンダラ」という名称の器具だと信じていた人もいたようだ

 ▼実際、かなり重量がある。少し押したくらいではピクリとも動かない。慣性の法則と摩擦の働きである。静止している物体を動かすには強いエネルギーがいるのだ。仕事にも慣性の法則があるのかもしれない。きのうは職場に向かう体を動かすため、相当なエネルギーを必要とした人もいたのでないか。暦通り10連休を手にした人ばかりではなかったろうが、例年の黄金週間以上に長く休めた人が少なくなかったはず。その間、仕事モードの頭と体は静止していた

 ▼一方でいつも出掛けている旦那や子どもが家にいて、食事の心配を三度三度しなければならない主婦にとってはようやく迎えた解放日。旦那が重い腰を上げるのに喜んでエネルギーを提供したろう。それはそうと、この連休明けに心配なのは五月病である。特に新人や異動者が陥りやすい。4月からひと月過ごしたところでの10連休。うまく気分一新できていればいいが、休日とのあまりの落差に仕事モードへと戻せない人も出てこよう。近頃は五月病になる前に退職を選ぶ人も多いと聞く

 ▼そこで再び慣性の法則である。物体はいったん動き始めるとあとは楽に動く。職場で重い「コンダラ」を動かせず悩んでいる人がいたら、最初だけ一緒に押してあげてほしい。叱責は摩擦を強めるだけだ。


10連休のGW

2019年04月27日 09時00分

 ことしはたくさんできたからいっぱい持って帰って―。家庭菜園で野菜作りを楽しんでいる知り合いを訪ねると、そんな言葉とともに山盛りの野菜を渡されることがある。本道もそうだが、地方ではよくあることだろう

 ▼これからの季節であればナス、トマト、キュウリといったところか。どう見ても一家族には多過ぎる量なのだが、丸々と育った野菜の魅力にあらがえるはずもない。好意に甘え、感謝して受け取る。かくして豊かな気分で帰路につくわけだが、家に着いてあらためて大量の野菜を眺め、しばし考え込んでしまう。「さてこの野菜、どう使い切ろう」。きょうから10連休という人もこれと似た気持ちでないか。うれしいけれど多過ぎて使い方が分からない

 ▼盆と正月が一度に来たようなものだ。しかも墓参りや年越しなどお決まりの行事もない。第一生命のサラリーマン川柳にこんな句があった。「国のため昔働け今休め」。譲位・改元の特殊事情とはいえ、ここに史上最長の10連休が現れるとは。ただ、無為に過ごすのはもったいない。「前うしろなき満開の桜かな」はやし碧。本道はちょうどこの休みに合わせたように桜の見頃を迎えている。近場へ、名所へと花見に繰り出すのもいい。満開の花を眺めながら時代の移り変わりに思いを巡らすのも一興だろう

 ▼そうなると気掛かりなのは天気。札幌管区気象台によると、連休中はすっきり晴れる日こそ少ないものの大きな崩れはないそうだ。せっかく手に入った連休である。持て余して腐らすことなく上手に使い切って心身の滋養としたい。

 


旧優生保護法救済法

2019年04月26日 09時00分

  江戸末期に桃山人が刊行した妖怪本『絵本百物語』に「恙虫(つつがむし)」の話がある。実際にいるダニのような害虫ツツガムシの名の由来は、この伝説から来ているとの説もあるそうだ

 ▼こんな妖怪だったらしい。「山奥につつがといへるむし有て、夜は人家に入て人のねむりをうかがひ、生血をすひて殺さるるもの多し」(『日本妖怪大事典』水木しげる)。斉明天皇の御時というから7世紀中頃の怪事である。恐れた住民は陰陽師に退治を依頼したという。たぶんその地域で原因不明の病死が相次いだのだろう。今ならウイルスや細菌の感染を疑うところだが、当時の人は妖怪の仕業と信じた

 ▼ただ進んだ医療技術を持つ現代人も彼らのことを笑えない。「不良な子孫の出生を防止する」との名目で障害者らに不妊手術を強制した旧優生保護法を、1996年まで施行していたのである。障害が子に遺伝する科学的根拠はないにもかかわらず、こんな最近まで差別や偏見という妖怪を退治できずにいたのだ。それからまた23年たち、やっとおととい、旧優生保護法に基づき不妊手術を受けさせられた被害者を救済する法律が成立。即日施行された。旧法が47年に日本社会党代議士の議員立法で制定され国の施策となったことから、前文に「反省とおわび」の文言を明記したそう

 ▼それにしてもずいぶんと長くかかったものだ。一度社会に根付いた差別や偏見をなくすことがどれだけ難しいか、あらためて考えさせられる。恐怖や歪んだ使命感は人から理性を奪う。妖怪は決して過去の幻ではないのである。


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