コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 196

ノートルダム大聖堂の火災

2019年04月18日 09時00分

 建築界のノーベル賞と称されるプリツカー賞が先頃発表になった。ことしは磯崎新氏が受賞。日本人としては8人目である。記念すべき1人目の受賞者は戦後日本を代表する建築家で磯崎氏の師匠に当たる丹下健三氏。1987年のことである

 ▼丹下氏の作品といえば来年の東京五輪を前に、最近は国立代々木競技場が注目される機会も多い。ただ後期代表作と聞いてまず思い浮かぶのは91年落成の東京都庁舎だろう。天に向かい二本の塔がそびえ立つ第一本庁舎の外観は見る者に強い印象を与える。丹下氏は公式に述べていないが、フランスゴシック建築の神髄「ノートルダム大聖堂」のファサード(正面意匠)がモチーフといわれている

 ▼これは一つの例。他にも小説に絵画に演劇に、大聖堂は人々のひらめきの源泉となってきた。どれだけ愛され、敬われる存在だったかわかる。それだけに火災の報は衝撃だった。フランス国民のみならず世界中が悲痛な面持ちで、炎上する大聖堂の映像を眺めたに違いない。石造の躯体は形をとどめたが、大聖堂の象徴である高さ96mの尖塔や屋根は木造のため焼け落ちた。ゴシック建築を特徴付ける天井のリブ・ヴォールトも絶望だろう。検察当局は今行われている改修工事が出火の原因と疑っているそうだ。幸い貴重な装飾品や美術品などは消防隊らが運び出し無事だったらしい
 
 ▼人類の遺産というべき建築物が火災に遭うことは少なくない。そのたび人々は強い意志で復旧させてきた。ノートルダムも一日も早く元の姿に戻り、明るい鐘の音を響かせられるといい。


WTOが韓国に軍配

2019年04月17日 09時00分

 世に必勝法は数々あれど、これなどは日本で最も古い部類に入るだろう。吉田兼好の『徒然草』第百十段である。兼好が「双六の上手といいし人」に、なぜそんなに強いのかと尋ねたときの話

 ▼双六の上手いわく「勝たんと打つべからず、負けじと打つべきなり」。勝ちにはやらず、負けぬ手を予測して一目一目慎重に打て、というのだ。これを聞いた兼好は、人が生きるのも国を保つ道も結局同じことだと得心する。日本はこの先人の知恵をすっかり忘れていたようだ。韓国が福島など8県産の水産物を輸入禁止にしている事案で、世界貿易機関(WTO)が先週、禁輸は不当とした一審を退け一転日本の負けとなる最終判断を下したのである。日本は勝って当然と大して準備もせず、余裕の態度でいたらしい

 ▼韓国は違っていた。韓国紙「中央日報」によると、WTO上級委員会が開かれるジュネーブのホテルに作戦室を設置。20人態勢で3週間、負けに陥らないシミュレーションを徹底的に繰り返したという。担当した韓国政府のチョン・ハヌル通商紛争対応課長は同僚に「今回の訴訟を覆して勝てば『ミラクル』」と言われていたそうだ。大金星だろう。この逆転負けを受け、河野外相も菅官房長官も「WTOは安全性を否定したわけではない」と弁明したものの、後の祭り

 ▼安全なのに負けたということは、風評が世界で大手を振って歩くということだ。日韓の間には、いわゆる徴用工や慰安婦の問題も横たわる。日本政府はわが方に理ありとのんびり構えている場合でない。負けじと打つべきである。


新人歓迎の場で

2019年04月16日 09時00分

 職場に新たな仲間を迎えて2週間余り。新人たちも見知らぬ環境にいくらかは慣れて、「お客さま」から「同僚」に変わりつつあるころでないか。歓迎会も盛んに行われる時期だろう

 ▼一つのテーブルを囲んで共に酒食を楽しみ、あれこれと語り合うのは親睦を深めるのにちょうどいい。「人を知るには酒が近道」とはよくいったものである。和やかな雰囲気にアルコールの酔いも手伝い、皆の気持ちがぐっと近づく。ただ、こんな上司がいると飲み会もぶち壊しだ。歓迎会ではないようだがJAあいちの副支店長が飲食店で部下に酒を勧めたものの断られ、腹立ちのあまり一升瓶で頭を殴ったというのである。昔からこの手の人はいた。「飲めったら飲め」と問答無用で酒を強要し、拒否すると「俺の酒が飲めないのか」と烈火のごとく怒り出す

 ▼こうした場でもう一つ閉口するのは、上の者の自慢話や独り善がりの演説を延々と聞かされることだろう。話している方は真剣だから、むげにするわけにもいかない。女性学者上野千鶴子氏が東大入学式で述べた祝辞に対する評価が、賛否大いに割れているそうだ。女性差別に踏み込んだ発言に価値ありとする人がいる一方、晴れの日にふさわしいか疑問とする人もいる。こちらも場が場だけに新入生も父母も黙って聴くしかない。自信と経験に基づいた言説はときに高飛車に響く

 ▼経営者、上司、先輩。これから新人歓迎の席で話をする人も多いはず。よもや一升瓶で殴る人はいないと思うが自慢話や独り善がりの演説になっていないか、よくよく気を付けたい。


桜田義孝前五輪相

2019年04月12日 09時00分

 津軽地方には「こどばなさけ」という方言があるそうだ。掛けられると気持ちが楽になる言葉をそう呼ぶらしい。弘前学院大の今村かほる文学部教授がエッセイの中で紹介していた

 ▼例えば痛い注射をする際、A病院では看護師が「注射はみんな痛んだはんで(痛いのだから)、我慢しへ(しなさい)」と冷たく言い、B病院では「注射すよ(するよ)、チグっとすよ。いでな(痛いよね)、がんばって」と力づける。B病院の患者は「何も痛くねがったじゃ(痛くなかったよ)」と喜んでいたそう。また東日本大震災後の仙台では被災者にこんな話を聞いたという。「がんばろうって言われてもがんばれない。だけど、がんばっぺしって言われれば、んだなって思える」(『ベスト・エッセイ』光村図書)。真心が大事である

 ▼残念ながらこの人には「こどばなさけ」がなかった。桜田義孝前五輪相のことである。高橋比奈子自民党衆院議員のパーティーで、「復興以上に大切なのは高橋さん」と言い放ったのだ。無神経さに驚く。東京五輪で震災復興の機運を盛り上げると前置きした上で、その復興より一議員が大切と言ったというのだから大臣の資質が疑われても仕方ない。誰が聞いても不快な発言だが、特に被災した方々は胸をえぐられるような痛みを覚えたのでないか

 ▼失言があったのは10日。桜田氏は同日中に自ら非を認め謝罪、安倍首相に辞表を提出し即日受理された。事実上の更迭である。口が滑ったのかもしれないが「復興以上に―」はない。「みんなでがんばっぺし」。それで良かったのだ。


ゴーン氏の動画

2019年04月11日 09時00分

 プロレスの華といえば場外戦もその一つだろう。例えば相手レスラーをリングの外に落としておいて、コーナーポストの最上部から飛び降りざま体当たりする「プランチャ」攻撃

 ▼昭和のプロレスファンなら初代と二代目、二人のタイガーマスクを思い出すのでないか。ただこの大技、きれいに決まれば相手に相当なダメージを与えられるが、かわされることも多い。そうなると形勢逆転。一気に窮地に追い込まれる。近頃は裁判の前哨戦でも場外戦が活発なようだ。特別背任などの罪に問われている日産自動車前会長カルロス・ゴーン被告の弁護団が9日、ゴーン氏自身が出演し無実を主張する動画を公開したのである。自分を日産の経営から外すための陰謀、裁判の公正性には疑いがある、とも語っていた

 ▼被告がこういった形で直接世間に訴えるのは極めて異例。リングの外で検察が情報リークを繰り返し、日産現経営陣もゴーン氏有罪の心証を広めていることから、ゴーン氏側も空中戦に打って出た格好だ。この動画、冒頭に「皆さんの質問にお答えしたい」との発言があるものの、最後まで中身のある話はなかった。ゴーン氏が考えを述べるばかりで証拠は一切示されない。はて何を狙ったものだったのか

▼見当違いの体当たりで検察と日産はかわすまでもない。形勢逆転どころか世間的評価を下げた感さえある。それはともかくこの事件では、関係者の場外戦が多過ぎるようだ。それぞれ有利に立とうと画策する姿が見苦しい。裁判の華はやはり証拠を検証し事実に迫る法廷リング内の闘争に尽きる。


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