コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 198

もうすぐ小学生

2019年04月03日 09時00分

 就学前の子どもがお母さんやお姉ちゃん、お兄ちゃんに連れられ、小学校に通う練習をしている。ことしも道を歩いていてそんな風景をよく見掛ける時期になった。本道の多くの小学校で、もうすぐ入学式が行われる

 ▼「入学のカバン飾りて子の寝言」角下美智子。子どもは早く学校へ行きたくてたまらない。親の心配などどこ吹く風。ランドセルに勉強道具を詰めたり出したりしながら、その日を楽しみにしている。勉強についていけるか、友達はできるか、いじめられないか―。親は気掛かりがいろいろあろう。ただ入学してしばらくの間は交通事故が一番でないか。無事家に帰ってくるまで毎日気が気でないに違いない。実際のところ、それは取り越し苦労でもないのである

 ▼警察庁が先週、「歩行中児童の交通事故の特徴」を公表した。それによると2018年の小1の歩行中死者・重傷者数(全国)は129人で、小6の約3・6倍に上ったという。月別には14―18年合計で5月と10月が飛び抜けて多い。登下校に慣れてきたころと、日暮れが早く車から発見しづらくなる秋が特に危ないようだ。飛び出し、禁止場所での横断、信号無視といった法令違反が上の学年と比べ目立つのも小1の特徴である

 ▼「ゆらゆらと吾子歩きをり新入生」下田昭。そんな姿を見ていると、親として不安が募るのも無理からぬところ。当面は5月に向け、学校の行き帰りにも危険があふれていることをわが子に教えたい。加えて大切なのは地域。大げさでなくていい。目の前の子どもたちだけでもしっかりと見守りたい。


新元号は「令和」

2019年04月02日 09時00分

 日本は「言霊(ことだま)の国」であるとよくいわれる。言霊とは言葉それ自体に魂がこもり力を持つことをいう。超自然の部分は別にしても、日本人が古くから言葉を大切にしてきた証しだろう

 ▼詩人の大岡信さんが随想「言葉の力」で、言葉の本質に触れていた。大岡さんはこう記す。「ある人があるとき発した言葉がどんなに美しかったとしても、別の人がそれを用いたときに同じように美しいとは限らない」。それはなぜか。「言葉というものの本質が、口先だけのもの、語彙だけのものではなくて、それを発している人間全体の世界をいやおうなしに背負ってしまうところにある」からだそう。背負うものによって同じ言葉が美しくもなれば醜くもなる。さて、この言葉はこれからどんな日本を背負うのだろう

 ▼きのう、新元号が「令和」に決まった。日本最古の和歌集『万葉集』の「梅の花の歌」の序文「初春の令月にして、気淑く風和ぎ、梅は鏡前の粉を披き、蘭は珮後の香を薫す」が出典だという。「明日への希望」とともに伝統や文化、自然を次代に引き継ぎたいとの願いが込められているそうだ。驚いたのは「大化」以来247元号一貫して引用は漢籍からだったのが、初めて日本の古典になったこと。時代の転換点と見た人も少なくなかったのでないか

 ▼古来、日本は元号の言葉の力を利用し社会に形を与えようとしてきた。ただ「令和」に託された願いがどんなに立派であっても今は単なる言葉。何を背負わせるかはわれわれ次第である。できれば幸福をどっさり背負わせたいものだが。


働き方改革

2019年04月01日 09時00分

 今でこそ「金八先生」としてご意見番も務める武田鉄矢さんだが、フォークトリオ「海援隊」で出始めたころは様子が違った

 ▼出世曲『母に捧げるバラード』に登場する息子そのまま、情けない男の雰囲気を漂わせていたのである。歌で「やさしいおふくろ」が言う。「働いて、働いて、働きぬいて、遊びたいとか、休みたいとか、そんなことおまえ、いっぺんでも思うてみろ。そん時ゃ、そん時ゃ、テツヤ、死ね」。なかなか激烈で、「やさしいおふくろ」でなければできない励ましでないか。これと同じ言動をもし会社や役所で上司らがとってしまった日には、パワハラで訴えられること必定である。何せ現在は国を挙げて「休んで、休んで、とにかく休んで」と勧める時代なのだ

 ▼きょう1日、働き方改革関連法が施行された。長時間労働の是正に向けた取り組みが制度的にも待ったなしとなる。真っ先に課題となるのは年次有給休暇の取得義務化だ。企業は年5日以上、働く者に有休を取らせねばならない。人手不足の深刻な日本ではこれが結構難しい。大企業はまだいいが中小零細は頭を抱えていよう。たった5日、されど5日である。用事がなければ休まない国民性や、日給月給制が収入減に直結する問題も無視できない

 ▼本来目指すは有休消化でなく生活の質向上のはずだが今回はまず形からか。「遊びたいとか、休みたいとか、いっぺんでも思ったら、テツヤ、有休だ」。情けないことではない。それが普通になるくらいに企業社会全体で、職場環境改善に努めることが期待されているのだろう。


政府予算成立

2019年03月29日 09時00分

 おかしな天気ですね―。本道では最近、そんな言葉が時候のあいさつ代わりになっているようだ。雪がなくなったと思ったら翌朝は再びの銀世界。春の陽気に浮かれていたら次の日は氷点下。寒暖を繰り返して春に近付いていくのは例年のことだがことしはその反復が妙に長く大きく感じる

 ▼2月にほとんど雪が消える異例の事態に、調子を狂わされたのかもしれない。このおかしな天気も地球温暖化の影響だろうか。札幌管区気象台が25日、北海道地方の「地球温暖化予測情報」を公表した。気候変動に関する政府間パネル(IPCC)報告の温室効果ガス排出シナリオに基づき、21世紀末(2076年以降)の気候を予測したものである

 ▼それを見るといずれも年間で平均気温がプラス5度、降水量がプラス120㍉、降雪量がマイナス38cmになるそうだ。随分と大きく変わるものである。日降水量100㍉以上の大雨も、現在の2年に1度からほぼ毎年発生へと悪化するらしい。日本全土、状況は同じだろう。総額101兆円。当初予算としては初めて大台に乗る19年度一般会計予算が27日成立した。注目すべき点は幾つかあるが、前年度比15.6%増の6兆9099億円と大幅に伸びた公共事業費もその一つ。「防災・減災、国土強靱(きょうじん)化のための3か年緊急対策」が厚く盛り込まれたのだ

 ▼温暖化の勢いは止まらない。対策は一層重要となってこよう。「あと1カ月でも早くこの堤防が完成していれば」。被災現場でよく出る話である。年度内に成立したのは良かった。救われる命がある。


消えた留学生

2019年03月28日 09時00分

 小学校に上がる前、初めて間近で手品を見たときのことを今でもよく覚えている。通っていた保育所に大道芸を見せる人が来たのだ。その芸人さんが披露してくれたのはこんな手品だった

 ▼まず新聞紙を広げて見せ、それを畳んで袋状にする。おもむろに大きなやかんを取り出した芸人さんはその新聞袋に水をたっぷりと注ぐ。子どもたちは大騒ぎである。次の瞬間、芸人さんが新聞紙を広げると、水はどこにもない。新聞紙は全くぬれておらず、水は煙のように消えてしまった。キツネにつままれたような気がしたものである。最近聞いたこの話もその点、不思議さにおいてはかつて見た手品に引けを取らない

 ▼東京や群馬に複数キャンパスを置く東京福祉大で、在籍していたベトナム人やネパール人などの外国人留学生約700人がいつの間にか消えていたというのである。しかもたった2年の間の出来事だそうだ。日本語能力が十分でない学生を、比較的安い入学金で研究生として大勢受け入れていたらしい。学費を払わないため除籍処分にしたものでむしろ被害者だと大学側は説明するが、さてどうだろう。柴山文科相は「在留期間延長のため研究生として受け入れるビジネスモデルが確立している可能性がある」と懸念を表明している

 ▼実態を確かめるため文科省と法務省はおととい、立ち入り調査を実施した。結果次第では私学助成金の不交付もあり得るという。留学生がどこへ消えてしまったかも気になるところ。何にせよこんな陳腐な舞台裏が透けて見える手品では、誰も幸せな気分になれない。


ヘッドライン

ヘッドライン一覧 全て読むRSS

e-kensinプラス入会のご案内
  • 日本仮設
  • 東宏
  • オノデラ

お知らせ

閲覧数ランキング(直近1ヶ月)

おとなの養生訓 第245回 「乳糖不耐症」 原因を...
2023年01月11日 (1,383)
函館―青森間、車で2時間半 津軽海峡トンネル構想
2021年01月13日 (1,255)
おとなの養生訓 第43回「食事と入浴」 「風呂」が...
2014年04月11日 (1,225)
アルファコート、北見駅前にホテル新築 「JRイン」...
2024年04月16日 (1,115)
藻岩高敷地に新設校 27年春開校へ
2022年02月21日 (833)

連載・特集

英語ページスタート

construct-hokkaido

連載 おとなの養生訓

おとなの養生訓
第258回「体温上昇と発熱」。病気による発熱と熱中症のうつ熱の見分けは困難。医師の判断を仰ぎましょう。

連載 本間純子
いつもの暮らし便

本間純子 いつもの暮らし便
第34回「1日2470個のご飯粒」。食品ロスについて考えてみましょう。

連載 行政書士
池田玲菜の見た世界

行政書士池田玲菜の見た世界
第32回「読解力と認知特性」。特性に合った方法で伝えれば、コミュニケーション環境が飛躍的に向上するかもしれません。