コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 207

ことしのサラ川

2019年01月28日 07時00分

 ドラマや映画の銃撃戦でよくある場面だろう。頭上をひっきりなしに弾が飛び交う中、一人の男が生きた心地もないまま身を低くして我慢を続けている。その男と最近のサラリーマンがかぶって見えるのはたぶん気のせいでない

 ▼働き方改革を迫られ、年金はますます遠ざかり、税金は上がるが小遣いは減らされる。家に帰れば妻という厳しい上司が…。これだけ弾が飛び交えば、愚痴の一つや二つ言いたくもなろう。今回も秀逸な「ぼやき」がたくさん集まったようだ。先週、第一生命の「第32回サラリーマン川柳」優秀100句が発表された。作品を見てみよう。「再雇用昨日の部下に指示仰ぐ」白いカラス。定年延長で平社員に逆戻り。「給料もシニア割され半額に」再任用。仕事はあまり減ってないのだが

 ▼「生産性語る上司の非効率」悦。矛盾に耐えるのがサラリーマン。「休日に働き方の打ち合わせ」きの子。休日返上で働き方改革とは。「会議終え本音を言いに喫煙所」ほのぼの。ここからが本番だ。職場がダメでも家庭があるではないか。「よく切れるスマホの電池うちの妻」みらいむ。自分はさておき妻の充電は欠かすべからず。「母強しいいえ女性は皆強し」人生百彩。困ったときの妻頼み。「家にいて娘と会話ラインにて」ノア。そういえば最近顔を見ていないような

 ▼読んでいるうちにだんだんと寂しくなってきた。一つくらい喜びにあふれた句はないものか。「大安か上司出張妻不在」喜夢多来。このつかの間の解放感が何物にも代え難い。優秀100句全作品は同社のHPでどうぞ。


だまし映像

2019年01月25日 09時00分

 階段を三つほど上っていくとあら不思議、いつの間にか元いた一番下の場所に戻っている。現実の出来事ではない。「だまし絵」の話

 ▼オランダの版画家エッシャーが有名だが他にもいろいろある。一見すると若い女性の後ろ姿だが、よくよく眺めると老婆に。つぼが一つ置かれているが、視点を変えると実は二人の顔が向かい合っていた。見たことがある人も多いのでないか。意表を突く仕掛けが思いのほか楽しい。ところで近頃は「だまし絵」ならぬ「だまし映像」が横行している。つい最近も二つ話題になった。一つは米国で先住民の男性がトランプ支持者の青年たちに囲まれ、はやし立てられているとの内容だ。「インスタグラム」に投稿された映像を米大手メディアCNNが紹介した▼直後から青年たちには批判が殺到したらしい。しかし真相は男性の方から青年たちに近づいてゆき罵声を浴びせていた。つまり映像の特定の部分だけを切り取り、青年たちが危害を加えるかのように見せかけていたわけ。もう一つは日本である。東京都の町田総合高校で男性教師が男子生徒を殴っている映像だ。こちらもSNSで瞬く間に拡散。ニュースでも暴力教師の事件として大きく取り上げられた

 ▼ところが後に明らかになった映像全編には殴られた生徒が激しく教師を挑発する姿や、撮影した生徒の一言「炎上させてやろう」も記録されていた。教師を陥れようと殴った部分だけ抜き出していたのだ。真っ黒に見えていたのに実は白。今の時代、情報を受け取る側もだまされないよう眼力を鍛える必要がある。


安倍、プーチン会談

2019年01月24日 09時00分

 頭は一つ、目は二つ、手足は二本ずつと持っているものは同じ人間同士なのに話は全くかみ合わない。誰しもよく経験することでないか。新作落語「猫と金魚」はそのかみ合わなさを笑いに変える

 ▼主人が番頭に言う。「金魚がいない」。「食べてません」と番頭。「隣りの猫にとられたんだ」。「私と猫ができてるって言うんですか」。「金魚鉢を高い所に上げてほしいんだよ」。「それでは銭湯の煙突の上に…」。お互い大真面目なのだが、この噺の場合は番頭の理解力にいささか難がある。さて、それでは今回の「日本とロシア」はどちらに難があったのか。22日、モスクワのクレムリンで安倍首相とロシアのプーチン大統領が会談した。北方領土と平和条約について意見を交わしたものの、話はかみ合わなかったようだ

 ▼勝手ながら会談後の共同記者発表から推測すると、二人はこんなやりとりをしたのでないか。首相が提案する。「領土交渉を前に進めたい」。大統領は「信頼関係は重要と考えている」。首相が言を重ねる。「戦後70年。そろそろ関係を正常化すべき」。大統領は言う。「貿易額、もっと増やせるのではないか」。想像はさておき発表を聞く限り両国の隔たりは実際まだ相当に大きい

 ▼ただ、今回の首脳交渉でプーチン氏から領土問題の存在を否定する言葉を出させなかったのはうまい仕切りだった。日ソ共同宣言に基づき平和条約締結を目指す合意をあらためて確認できたことも次につながる材料だろう。それにしてもかみ合わない。北方領土問題も煙突に上げられなければいいが。


数字アレルギー

2019年01月23日 09時00分

 数字が複雑に並んでいるのを見ると、頭の中が真っ白になり寒気もする。そんな数字アレルギーを抱えた人は世の中に多いようだ

 ▼筆者もその一人で、微分積分、関数、方程式などといった言葉を聞いただけで目まいに似た気分に襲われる。脳がそれらの情報受け入れを拒否しているのかもしれない。数学が得意な人に聞くと、正しい手順さえ踏めば答えが明快に一つ導き出せるから簡単だとのこと。やれやれである。統計も数学の中ではかなり難解な分野だが、厚生労働省のこのごまかしはやれやれとのんびり構えてもいられない。賃金や労働時間の実態をつかみ政策に反映する「毎月勤労統計調査」が10年以上、ずさんなまま行われていたのである

 ▼国内の従業員500人以上の事業所は全て調査する決まりだったのだが、東京だけは3分の1でお茶を濁していた。賃金水準の高い東京のデータが少ないためこの統計を基に算定される失業給付も低めとなり、合計560億円もの過小給付が発生していたという。追加給付が必要なため、政府はこんな時期に新年度予算案を修正する異例の事態に陥った。厚労省はどうしてしまったのか。「消えた年金」の傷も消えぬ間にまたこの大失態。少し前にも働き方改革の国会審議で不自然な調査資料が指弾されたばかりである

 ▼もしかすると厚労省には数字アレルギーの人ばかり集まっているのかも。数字と事件とで頭の中は今、真っ白に違いない。ただそのままでは困る。隠蔽(いんぺい)体質を改め、正しい手順を踏んで信頼回復の答えを導き出してもらわねば。


三浦さんとアコン・カグア

2019年01月22日 07時00分

 古いものと新しいもの。一見相反するものの不思議な関係に気付いた詩人のまど・みちおさんは、それを発見したときの驚きを一編の作品にまとめた。題名は「どうして いつも」。使われるのは簡素な言葉ばかりだが、まどさんの思いが真っすぐに伝わってくる

 ▼「太陽/月/星 そして/雨/風/虹/やまびこ ああ/一ばん/ふるいものばかりが/どうして/いつも/こんなに/一ばん/あたらしいのだろう」。ずっと昔からあるのに、今も変わらず新しい顔を見せてくれているというのである。プロスキーヤー三浦雄一郎氏が南米最高峰アコンカグア登頂に挑んでいたニュースを追いながら、その詩を思い出していた

 ▼世界有数の長寿国日本の男性平均寿命は81歳(2017年)だから、現在86歳の三浦さんは高齢者の中でもより「古い」年齢層に属する。ところがやっていることは、いっぱしの冒険家でも尻込みするような過酷な挑戦ばかり。われわれの目を覚まさせるような新しい姿を見せ続けている。世界最高齢の80歳でエベレスト登頂に成功した三浦さんが今回選んだのがアコンカグア。頂上からスキーで滑降する計画まであったという。標高6000m付近で天候回復を待っていたが、きのうドクターストップで登頂を断念

 ▼とはいえ本人は至って元気というからやはりただ者でない。今遠征のフェイスブックに三浦さんは記していた。「出来ない理由より出来る理由を考えた方が人は元気に輝く」。自ら太陽や星のごとく輝きながら、誰もがそうなれるのだと身をもって教えている人だろう。


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