コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 208

ATSUMA LOVERS

2019年01月21日 07時00分

 最近乗ったJRの電車内に見たことのない広告が掲示されていた。何だろうと思い近くに寄ってよく見ると、のどかな田園風景を切り取った写真の横に「ATSUMA LOVERS(アツマラバーズ)」の文字が並んでいる

 ▼昨年9月6日、地震に襲われ未曽有の被害を受けた厚真町が、町に関わる全ての人をそう呼び「たがいに寄り添いながら明日の厚真町をつくっていきたい」とメッセージを伝えるものだった。厚真町を愛する人々に、写真を添えて「フェイスブック」などSNSに投稿してもらう取り組みは以前から行われていた。そこにあの胆振東部地震である。土砂崩れで36人もの方が犠牲になり、被害家屋は1000棟以上に及んだ

 ▼町民が現実を受け入れられず失意に沈んだのも当然だろう。しかし震災後、世界中からたくさんの励ましが寄せられ、人と人とのつながりの大切さを痛感。そこで町は「ATSUMA LOVERS」のシンボルマークを作り、あらためて発信することにしたそうだ。阪神淡路、東日本、熊本―。震災を経験した人は必ずこう訴える。「記憶を風化させてはいけない」。忘れ去られる悲しみもあろう。ただ、一番伝えたいのは「天災は忘れたころにやってくる」現実だろう。地震は今後も間違いなく起こる

 ▼「ATSUMA LOVERS」には現地に行った人ばかりでなく、気に掛けただけの人でも投稿できる。胆振東部に限らず、過去の震災の風化に歯止めをかける良い機会になるのでないか。このお互いを思う「LOVERS」の動きが全国に広がるといい。


稀勢の里引退

2019年01月18日 07時00分

 平安期の歌人在原業平に一首がある。「つひにゆく道とはかねて聞きしかど きのうけふとは思はざりしを」。いつか必ず自分にも訪れる運命だとは分かっていたが、まさかそれがこんなに早かったとは、というのである。病に倒れ体が弱ったときに詠んだ歌だという

 ▼大相撲の第72代横綱稀勢の里も、それと同じ心境だったのでないか。初場所4日目の16日、迷いを断ち切るように自ら現役の土俵人生に幕を引いた。けがが治らず8場所連続休場し、再起をかけて上がったこの初場所である。ところが初日から3連敗。今場所絶好調の御嶽海に出ばなをくじかれたのも痛かった。以前なら容易に割ることがなかった土俵際でねばれない。ふがいなさを一番感じていたのは本人だったろう

 ▼横綱としての実力は申し分のないものだった。相手力士に真っ向からぶつかっていき得意の左おっつけで圧倒する。派手さはないが見ている者をうならせるいぶし銀の強さがあった。ただ、けがには勝てなかったというわけだ。両国国技館で開かれた記者会見で稀勢の里は、「私の土俵人生において一片の悔いもございません」と胸を張った。その場面を見てすがすがしさに包まれると同時に、引退を決意するまでいかに悩み抜いたかが察せられて少々目頭が熱くなった。悔いを感じない人があえてその言葉を口にするはずはない

 ▼一人しかいない日本人横綱として一身に責任を背負い、皆の期待に応えようと全力を尽くした人だろう。「つひにゆく道」にはまだ続きがある。年寄「荒磯」として次代の横綱を育ててほしい。


インフルエンザ

2019年01月17日 07時00分

 言い間違いは誰にでもあるが、本人は正しく言っているつもりなだけに妙に滑稽なものである。ビートたけしさんがよく演歌歌手村田英雄をネタにしていた。村田さんが大きな音に驚きこう言ったという。「おい気を付けろ。俺の神経はバリケードなんだ」

 ▼この時期にいつも思い出すのは『言いまつがい』(新潮文庫)で読んだ、子どものこの一言である。「『おかあさん、〇〇君、エンゼルフーズなんだって』」。さて何と言い間違ったのか。「インフルエンザ」である。天使の食べ物と悪魔のようなウイルスでは似ても似つかないが、子どもは聞き覚えのある言葉をつなぎ合わせてみたのだろう。もう少ししたら親子でそんな不思議な会話をする機会が多くなるかもしれない

 ▼本道のインフルエンザ感染報告数が警報レベルで推移する中、今週後半から順次各地の幼稚園や小学校が3学期を迎える。学校が始まると感染者が増えるのは、子を持つ親なら経験的によくご存じだろう。子がかかれば親にもうつる。北海道感染症情報センターの定点観測グラフでも、例年1月半ばあたりに報告数がうなぎ上りとなり年間のピークに達する。つまり今が感染を広げるか抑え込めるかの瀬戸際というわけだ

 ▼対策もいろいろ言われてはいるものの、一番簡単で効果があるのは小まめな手洗いである。ウイルスはせっけんに弱いため、帰宅時や食事前には忘れず丁寧に洗うことを習慣付けたい。体調を整え、常に免疫力を高めておくことも大切である。暴飲暴食や睡眠不足はもってのほか。体は「デリケート」である。


最も賢い国

2019年01月16日 07時00分

 米国の経済誌『フォーブス』が先週末、Web版で興味深い調査結果を配信した。「世界で最も賢い国」25カ国をランキング形式で紹介するものである。気になるのはやはり日本だが、なんと1位を獲得。2位以下はスイス、中国、米国、オランダと続く

 ▼ノーベル賞の受賞数、IQ(知能指数)のスコア、学校のテスト成績をそれぞれ過去、現在、未来の指標とし、それらを総合することで順位を決めているという。この手の調査は指標によって差が出るため参考程度にしておくのが賢明だろう。ただ自国の最上位は素直に喜びたい。日本はノーベル賞とIQが6位、学校が5位。飛び抜けて優れた分野はないものの、総合力の高さで1位となった。いかにも日本らしい形でないか

 ▼分野別の1位はノーベル賞が米国、IQと学校は共にシンガポール。米国は社会に大きな知的格差があることを示すIQの28位が伸び悩みの原因だ。シンガポールはノーベル賞の73位が足を引っ張った。とはいえ未来は有望である。今週末は大学入試センター試験。いよいよ本格的な受験シーズンに突入である。「最も賢い国」を背負って立つ若者たちは最後の追い込みに入っていよう。健闘を祈りたい

 ▼ところでこの国の懸念はその若者たちにでなく政府にある。新年度予算案も大学の重点は資源の集中と経費削減で、基礎研究や教育基盤の充実は二の次。ノーベル医学生理学賞の本庶佑氏は以前、「このままではノーベル賞を出せない国になる」と警鐘を鳴らしていた。政府が指標の一つなら日本は多分1位でなかったろう。


僧衣で運転

2019年01月15日 07時00分

 昭和40―50年代、子どものころのことだが家族でよくテレビ時代劇を楽しんでいた。『大岡越前』『木枯し紋次郎』『必殺仕掛人』『子連れ狼』―。挙げていくとそれだけで紙面が尽きてしまう

 ▼人情、礼節、勧善懲悪。見どころは数々あれど、ドラマの一番の華はやはり殺陣の場面だろう。着物を粋に着こなした侍たちが長い日本刀を自在に操り、画面狭しと縦横無尽に立ち回る。毎回、胸のすく思いがしたものだ。体の自由が利かなそうな着物でよくあれだけ戦えるものだと見るたび感心していたが、洋装よりも調整の幅が広い分むしろ楽に動けるのかもしれない。動作の工夫や独特の体さばきも当然身に付いていよう。何せ普段着である

 ▼福井県の僧侶が昨年9月、僧衣を着て車を運転し、運転に支障をきたす服装だとして警察に違反切符を切られたそうだ。僧衣といえば着物のようなもの。最近その話題を知りかつての時代劇を思い出した次第。いつもの仕事着をとがめられた男性の驚きは想像に難くない。少し前からネット上で僧侶がとんぼ返りや宙返りなど軽業師のような技を披露する動画が増えていた。何だろうと気になっていたのだが、実は全国の僧侶が「僧衣でもこれだけ自由に動ける」と抗議の意味を込めて投稿していたそうだ

 ▼筆者も知り合いに僧侶がいるため車に乗せてもらう機会がある。僧衣が運転の支障になっていると感じたことは一度もない。外回り用の僧衣は案外機能的である。警察も目くじらを立てる必要はないのでないか。運転だけで大立ち回りを演じているわけでもない。


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