コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 226

空飛ぶクルマ

2018年08月31日 07時00分

 人は未来の世の中を思い描き、希望を抱いたり不安にさいなまれたりする唯一の生き物である。だからだろう。小説をはじめ映画、テレビドラマなどで未来について多種多様な物語が語られてきた

 ▼1982年に公開されたリドリー・スコット監督の米映画『ブレードランナー』もその一つ。奴隷労働を強いられる植民惑星を抜け出し地球に潜り込んだ人造人間と、それを捕まえようとする捜査官が死闘を繰り広げる。『ブレードランナー』のことなら一日中でも話していられるファンも多いに違いない。SF映画に新境地を開いた作品である。ところでこの中で未来を象徴するものが大きく二つあった。レプリカントと呼ばれる高い知性を備えた人造人間と、縦横に空を飛ぶ自動車である。時代設定は2019年だった

 ▼さてその前年に当たることし、世界のどこを見回してもレプリカントが登場する気配は全くないが、空を飛ぶ自動車は実用化の域に達しつつあるようだ。各国が技術開発にしのぎを削っている。日本も負けてはいない。経済産業省と国土交通省は合同で29日、〝空飛ぶクルマ〟を実現するための「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げた。運行ルールや各社の開発状況が議題に上ったという

 ▼日本にも多くの開発者がいるが、中でもトヨタ自動車などが支援するグループ「カーティベーター」は23年の国内販売を予定。東京オリンピックでは空飛ぶクルマでの聖火台点火を構想しているそうだ。『ブレードランナー』で見た風景が見慣れた日常になる日も案外と近いのかもしれない。


風疹流行の兆し

2018年08月30日 07時00分

 風疹が流行の兆しを見せているそうだ。国立感染症研究所への2018年風疹患者累積報告数が今月22日現在で184人に上っているのである。同時期としてはここ4年で最も多く、既に去年、おととしの年間累計数を超えているという

 ▼千葉県62件、東京都47件と今のところまだ首都圏が中心だが、本道も油断はできない。報告数が7件あり47都道府県中第6位。かなり上に位置する。大いに警戒する必要があろう。風疹自体は別名「三日ばしか」と呼ばれるくらいでさほど恐れる病気でもない。全身に発疹が出て高熱とリンパ節の腫れに苦しめられるもののおおむね数日で軽快する。幼い子どもの場合は特に、かかっても平気でいることが多い

 ▼心配なのは妊婦が感染することである。難聴や心疾患を伴う先天性風疹症候群を抱えた赤ちゃんが生まれてくる可能性が高まるのだ。女性はその怖さをよく理解しているため、感染を減らすには妊娠出産期の女性や妊婦の周りにいる主に成人男性の自覚が必要になる。筆者も20年ほど前に感染した。幼児だった息子が拾ってきたのをもらったのである。「昔かかったはず」と母に聞きすっかり安心していた。知らないうちにウイルスを媒介していたかもしれないと思うと冷や汗ものである

 ▼今後はさらに感染が拡大する懸念もあるという。人口密度が高く人の出入りも激しい首都圏で増えていることや、夏休みで人が全国的に移動したことがその理由だ。予防接種で簡単に防げる病気である。自分だけの問題ではない。周りの人を守るため気掛かりならまず病院へ。


さくらももこさん

2018年08月29日 07時00分

 不況にあえぐ出版界の中で数少ない売れ筋として気を吐く分野にコミックエッセーがある。体験談を漫画仕立てにしたものと言えばお分かりだろう

 ▼最近は芸人矢部太郎さんの『大家さんと僕』が「手塚治虫文化賞」を受賞して話題になった。近年注目を集めた作品も小栗左多里さんの『ダーリンは外国人』、井上純一さんの『中国嫁日記』、蛇蔵&海野凪子さんの『日本人の知らない日本語』と枚挙にいとまがない。今や一大勢力を誇るこのコミックエッセーのはしりとされているのが漫画家さくらももこさんの『ちびまる子ちゃん』である。1986年に少女漫画雑誌『りぼん』で連載が始まった。すぐに読者から絶大な支持を得たという

 ▼子ども時代の思い出を小学3年生の「まる子」を通して描いた作品で、70年代の昭和を舞台に自由だが少し自虐気味なまる子と個性豊かな友人たちがドタバタ劇を繰り広げる。フジテレビ系で放送中のアニメを家族そろって楽しんでいるという人も少なくないのでないか。おととい、そのさくらさんが15日に亡くなったと事務所が公表した。53歳だったという。早過ぎる。訃報に接し絶句したのは筆者だけでなかったろう

 ▼さくらさんには優れた文字エッセーも多いが、その一つ『あのころ』にこんな一節があった。「私はいつもたいがい元気ですが、そりゃ時にはガックリすることだってあります」。そんなときにはとことん考え見つけた方向に突っ走ることで元気を取り戻してきたのだそう。われわれは作品に触れることでいつも元気をもらっていた。ありがとう。


小樽市長選

2018年08月28日 07時00分

 古い体質を引きずった政治や組織を語るとき批判的に使われる「しがらみ」は、もともと悪い意味の言葉ではなかった。川の水流を調節するための木柵のことである。実際、明治時代までは状況の悪化を押しとどめる表現として使われることもあったようだ

 ▼マイナスイメージが強まったのは平成に入ってから。当時の目に余る自民党の密室・癒着政治を表す言葉として野党やマスコミが盛んに使い出したものらしい。最近で思い出すのは東京大改革を宣言し都知事に就任した小池百合子氏が去年立ち上げた「希望の党」である。「しがらみのない政治」を第一に掲げていた。その後はあの体たらく。小池氏も馬脚を現しつつあるが旧体制に反旗を翻すだけで政治はできないということだろう

 ▼26日、小樽市の出直し市長選が終わった。こちらもどうやら、3年前に「しがらみのない市政」を引っさげて就任して以来、目立った成果も上げられぬまま混迷を重ねた森井秀明前市長の市政継続は望まれなかったようだ。当選したのは無所属新人で自民党小樽支部などの推薦を受けた元市総務部長の迫俊哉氏。新人ながら地元小樽出身で豊富な行政経験のあることが票につながったと聞く。とすると市政への信頼を取り戻すことが第一の仕事となろう

 ▼柿本人麻呂に一首がある。「明日香川にしがらみ渡し塞かませば流るる水ものどかにあらまし」。しがらみを上手に使えば荒れた川も静かに流れるようになるものをと歌っている。市長の仕事も同じだろう。市民の声を公平に聴き良い流れをつくることが肝要である。


空自初の女性戦闘機操縦士

2018年08月27日 07時00分

 つらい挫折を必死の思いで乗り越えて新たな境地に立つ。そういった経験をしてきた人は少なくないのでないか。一度はどん底まで落ち込んだ人物が壁を破り立ち直っていく物語も昔から人気がある。主人公に自分を重ねることで勇気をもらえるからだろう

 ▼トム・クルーズ主演の『トップガン』もそんな映画だった。訓練中、故障による墜落で僚友を失った米海軍F14パイロットのトムが再起する過程を描いている。子どものころにこの『トップガン』を見て以来、ずっと憧れていたのだという。航空自衛隊で初めて戦闘機の操縦士になった松島美紗2等空尉(26)のことである。空自の中でも格段に厳しいとされる戦闘機教育課程を全うし、先週、新田原基地で修了証書を受けたそうだ

 ▼ニュースを見ると小柄で柔和な表情をしたごく普通の女性である。大したものではないか。女性用の訓練体系があったわけでもあるまい。男性と肩を並べての訓練には人一倍どころか二倍三倍の努力が必要だったはずである。松島さんは2014年に防衛大を卒業して入隊。当初は輸送機などの教育課程で学んでいたが、15年に戦闘機への女性配置制限が撤廃されたことから志願して同課程に編入したのだとか。今後さらに数カ月の訓練を経てF15の操縦士として領空侵犯の警戒任務に当たる

 ▼これまで女性には無理とかたくなに信じられてきた仕事の壁に風穴を開けた意義は大きい。ある分野の先頭に立つ人を「トップガン」という。まさに彼女がそうである。この真実の物語にどれだけ多くの人が勇気をもらうことか。


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