人は未来の世の中を思い描き、希望を抱いたり不安にさいなまれたりする唯一の生き物である。だからだろう。小説をはじめ映画、テレビドラマなどで未来について多種多様な物語が語られてきた
▼1982年に公開されたリドリー・スコット監督の米映画『ブレードランナー』もその一つ。奴隷労働を強いられる植民惑星を抜け出し地球に潜り込んだ人造人間と、それを捕まえようとする捜査官が死闘を繰り広げる。『ブレードランナー』のことなら一日中でも話していられるファンも多いに違いない。SF映画に新境地を開いた作品である。ところでこの中で未来を象徴するものが大きく二つあった。レプリカントと呼ばれる高い知性を備えた人造人間と、縦横に空を飛ぶ自動車である。時代設定は2019年だった
▼さてその前年に当たることし、世界のどこを見回してもレプリカントが登場する気配は全くないが、空を飛ぶ自動車は実用化の域に達しつつあるようだ。各国が技術開発にしのぎを削っている。日本も負けてはいない。経済産業省と国土交通省は合同で29日、〝空飛ぶクルマ〟を実現するための「空の移動革命に向けた官民協議会」を立ち上げた。運行ルールや各社の開発状況が議題に上ったという
▼日本にも多くの開発者がいるが、中でもトヨタ自動車などが支援するグループ「カーティベーター」は23年の国内販売を予定。東京オリンピックでは空飛ぶクルマでの聖火台点火を構想しているそうだ。『ブレードランナー』で見た風景が見慣れた日常になる日も案外と近いのかもしれない。