日本の昔話の一つに「てんぐの隠れみの」がある。滑稽で笑える内容だから今でも覚えている人は少なくないだろう
▼姿を消せるてんぐの隠れみのを手に入れたい彦一は単なる竹筒を遠眼鏡だとてんぐに信じ込ませ、まんまとみのとの交換に成功する。それからはやりたい放題。ところが何も知らない妻にみのを焼かれてしまい、困った彦一はその灰を身に付けて姿を消すが折から降ってきた雨で次第に…といった話。そんなてんぐの隠れみので姿を見えなくされていたのではと、ありえないことまでつい考えてしまう出来事だった。山口県周防大島町で行方不明になっていた2歳の藤本理稀(よしき)ちゃんが3日ぶりに発見された件である
▼祖父らと海水浴に出掛ける途中でぐずって、曽祖父宅に一人戻ったまま姿を消してしまったのが12日のこと。消防や警察が連日150人態勢で周辺一帯を探したものの見つからず。母親さえ生存を絶望視しかけていた15日の早朝、一人の男性によって保護されたのである。無事の報に快哉を叫んだ人も多いのでないか。見つけたのは大分県から駆け付けた78歳のボランティア尾畠春夫さん。「子どもは上に上がるのが好き」の経験則を頼りに真っ直ぐ山を登り、30分ほどで沢の石に座っている理稀ちゃんを発見した
▼この尾畠さん、東日本大震災や熊本地震でも被災者に寄り添いながら腰を据えて復興に取り組んだボランティアの達人という。行方不明者の捜索に参加したこともあったそうだ。すごい人がいたものである。てんぐも一目置いて隠れみのを外したのかも。