コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 229

校庭から出た鉄砲類

2018年08月08日 07時00分

 昭和を代表する俳優石原裕次郎のヒット曲の一つに、同名映画の主題歌として使われた『錆びたナイフ』(萩原四朗作詞、上原賢六作曲)がある。今もカラオケで必ずこの曲を歌う「裕ちゃん」ファンも少なくないのでないか

 ▼こんな歌い出しだった。「砂山の砂を 指で掘ってたら まっかに錆びた ジャックナイフが出て来たよ どこのどいつが埋めたか 胸にじんとくる 小島の秋だ」。少々物騒な話ではある。ところがこちらから出てきたものを聞けば、ジャックナイフ一本くらいかわいいものだ。東京都西東京市の市立田無小校庭で、旧日本軍のものとみられる銃砲や刀剣など合わせて約2900点が掘り出されたのである。市が6日、発表した

 ▼管理棟移設工事のため先月27日に校庭の掘削を始めたところ、業者が地下1―2mの辺りで発見したという。やはりさびてはいたものの、小銃や機関銃といった銃砲類が約1400点、刀剣類が約1200点、銃砲弾が約300個、手投げ弾が8個もあった。田無小は1925(大正14)年に現在地で開校して以来動いていないため、学校敷地内と知った上で埋められたのは確かである。ただ、今のところ誰が、いつ、なぜそうしたのかは不明のまま

 ▼先の歌では「薄情な女を 思い切ろうと ここまで来たか 男泣きした マドロスが 恋のなきがら 埋めたか」と裕次郎が想像を口にするが、田無小の場合はそんな感傷的な理由ではあるまい。国内有数の軍需工場のあった地域である。戦争の記憶だけはさびさせないよう、真相も掘り起こしてほしい。


北海道命名150年式典

2018年08月07日 07時00分

 名前はある「もの」を他と区別するための記号にすぎないのだが、名を付けた瞬間にその「もの」と結びついて特別な意味をもたらすから奇妙である

 ▼詩人大岡信もその奇妙な作用に気付いていたのだろう。作品の一つに「地名論」と題する詩がある。中にこんな一節があった。「燃えあがるカーテンの上で/煙が風に/形をあたえるように/名前は土地に/波動をあたえる/土地の名前はたぶん/光でできている」。なるほど地名もそうか。確かに名もなき見知らぬ土地はえたいが知れず印象も不気味になりがち。ところが名を付けた途端に何か理解できた気になるものである。当時多くの人にとってこの北の大地を「北海道」と名付けることにも、そんな効用があったに違いない

 ▼おととい、札幌市内でその命名150年を記念する式典が開かれた。テーマは「先人に学び、未来へつなぐ」。会場ではアイヌ民族と道内各地の伝統芸能が交互に披露され、お迎えした天皇皇后両陛下も盛んに拍手を送られていた。これを機にあらためて命名の経緯に触れた人も多いのでないか。ご存じの通り「北海道」は松浦武四郎が明治政府に提案した「北加伊道」からきている。「北」と「道」は和語だが「加伊」はアイヌ語で「この地で生まれたもの」の意

 ▼つまり「北海道」の名前はその始まりから二つの要素を組み合わせ調和させる理想を内在していたのである。150年前に針路を示す羅針盤を渡されていたというわけだ。どうやら詩人の言うことに間違いはなかった。「土地の名前はたぶん/光でできている」。


夏休みの思い出

2018年08月06日 07時00分

 子どものころに学校で習っただけなのに、不思議と大人になった今でも覚えている歌がある。この季節になるとわれ知らず口ずさむ「夏の思い出」(江間章子作詞、中田喜直作曲)もその一つ

 ▼「夏が来れば思い出す はるかな尾瀬 遠い空 きりの中に 浮かびくる やさしい影 野の小路」。ついこの続きを歌ってしまった人も多いのではないか。江間さんにとっては尾瀬の旅が忘れられない経験だったのだろう。海水浴、キャンプ、花火大会、家族旅行―。夏の思い出といっても人によっていろいろだが、筆者にとって「夏が来れば思い出す」ことといえば、釧路川のカヌーツーリングである。友人たちとその家族と一緒に楽しんだ屈斜路湖から岩保木水門までの川旅だ

 ▼透き通った川の上を滑るように進むカヌー。瀬と呼ばれる激流では転覆して全員川に投げ出されるも、笑いながら助け合い態勢を立て直した。夜はテントを張って酒を酌み交わし大いに語り合った。実に愉快な3日間の旅だったのである。もう30年近く前の話で、共に旅した子どもたちは皆立派に成長し、自分らも少なからず年を取ったが思い出はいまだに色あせることがない。大切な心の財産である

 ▼ドイツの作曲家メンデルスゾーンはこう言ったという。「旅を思い出すことは、人生を2度楽しむこと」。まさにその通り。日本全国、学校は今夏休みである。仕事の都合もあろうが、家族まとまって動ける数少ない機会。子や孫のために、そして自分自身のために、それぞれの「はるかな尾瀬」を見つけに出掛けてはいかがだろう。


厚生労働省分割

2018年08月03日 07時00分

 ギリシャ神話に登場するテュフォンとエキドナの娘「キマイラ」はライオンの頭、ヤギの胴体、大蛇の尾を持って生まれた怪獣である。執念深くどう猛で疲れ知らず。しかも口から猛烈な火を吐く。国中を暴れ回り、人々に大層恐れられていたそうだ

 ▼このキマイラ、もともと古代ヒッタイト王国では聖獣と敬われていたらしい。ライオンが春、ヤギが夏、大蛇が冬を表し、合体することで調和を象徴していたという。人の心が変わったのかそれとも社会か、はたまたその両方かは分からないが、時代が移れば善だったものが災いに転じることもある。さてこちらのキマイラも、どうやら当初想定された通りの聖獣のままではいられなかったようだ

 ▼厚生労働省のことである。自民党が今月にも分割の検討を求める提言を安倍首相に渡すそうだ。日本経済新聞が2日、伝えていた。縦割り行政の弊害除去と事務効率化を目指し2001年に合体した厚生省と労働省は、以後度々怪獣のごとき姿を国民にさらしている。少子高齢化の急進といった背景はあるものの、自らの巨体を持て余し社会を混乱させてきたのも事実。消えた年金記録は言うに及ばず、少子高齢化や介護・福祉、働き方改革などいずれの懸案も対策はスピード感に欠ける

 ▼心配なのは怪獣化したキマイラが厚労省だけでないことだ。文部省と科学技術庁が合体した文部科学省も、組織的天下り、贈収賄、横領と、昨今不祥事が続く。この2省に限らず01年の再編で調和の聖獣になれなかった省庁は、ここらでいったん退治されるのもやむを得まい。


日銀金融政策修正

2018年08月02日 07時00分

 その人の胸中には今、こんな悲哀が漂っているのではないか。「緩和せど 緩和せど猶わが物価高くならざり ぢつと手元資料見る」。誰かお分かりだろう。黒田東彦日本銀行総裁である

 ▼石川啄木の「はたらけど はたらけど猶わが生活楽にならざり ぢつと手を見る」を勝手にもじらせてもらった。100年も前の歌だが、本家の方は昨今の庶民の心境になぜかぴったりくる。物価と生活実感は連動しないようだ。日銀はおととい開いた金融政策決定会合で、これまで厳に守ってきた長期金利の誘導目標「0%程度」を若干緩め、ある程度の上下も容認する方針を決めたという。具体的には現在「0.1%―マイナス0.1%」の変動幅を、「0.2%―マイナス0.2%」まで広げる

 ▼大規模金融緩和策の旗を降ろすわけでなく、その一層の長期化に備えて不具合を修正するのが狙いなのだとか。その背景にはゼロ金利の影響で国債の動きが低調になり、取引の不成立も頻繁に起こっている事情があるらしい。長期金利の代表指標である10年物国債の市場が縮小すると、金利は日銀の支配下を離れ暴走する危険をはらむ。これは同時に「アベノミクス」の一角「異次元緩和」の金融政策が信任を失うことに等しい。黒田総裁は記者会見で2%の物価目標達成は想定より遅れるものの、上昇傾向は維持できると自信を見せた

 ▼啄木の歌をもう一首。「いのちなき砂のかなしさよ さらさらと 握れば指のあひだより落つ」。砂を金融政策に読み替えると、黒田総裁の内心の吐露のように聞こえるが気のせいか。


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