コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 23

ツイッターデモの真実

2023年01月31日 09時00分

 世間から貧乏長屋と笑われることに腹を立てた大家が、評判を覆してやろうと花見を開く。落語の「長屋の花見」である。酒やさかなをたっぷり用意し、怪しむ住人を引き連れ上野に繰り出す

 ▼ところが灘の生一本と銘打たれた樽の中身は番茶を水でかさ増ししたもの。卵焼きはたくわん、かまぼこも大根の漬物といった具合。大家が言うのである。「こんなものでも賑やかにやってりゃ、はたからは豪勢に見える」。姑息(こそく)な手だが、うっかりすると周りも信じてしまうに違いない。現代も似たような例があるようだ。政治や社会の問題について一斉に投稿するいわゆる「ツイッターデモ」である。全投稿の半数が1割のアカウントによって水増しされたものだったという

 ▼読売新聞が昨年目立った10件のデモを分析し、先週発表した。どうやら何回も繰り返し投稿するアカウントがあるらしい。一人で複数のアカウントを開設し、それぞれから発信を重ねるケースもあるのだとか。ご苦労なことである。例えば一番注目された安倍晋三元首相の国葬反対デモでは、101回以上投稿したアカウントが28%もあった。意外にも最少が1回で7%。最多が11―100回で44%だった。中には4200回以上投稿したアカウントもあったそうだ。数を増やせば世論が盛り上がって見えるというわけ。暇なのか熱心なのか

 ▼国葬反対の投稿は64万件に上ったものの、実際は番茶の水割りくらい中身が薄かった。デモの大家が誰かは知らないが、長屋の花見と同じで世間はごまかせない。お後がよろしいようで。


サラっと一句!わたしの川柳 優秀100句決まる

2023年01月30日 09時00分

 昭和のテレビ歌番組には司会者の名調子というものがあった。曲を紹介するとき、歌手や歌詞に寄り添った言葉を付け、すんなりと曲につなげるのである。名司会者玉置宏さんのこの枕ことばを思い出す人も多いのでないか。「歌は世につれ世は歌につれ」

 ▼確かに歌とはそういうものだった。こちらも同じだろう。第一生命の「サラっと一句!わたしの川柳」(サラリーマン川柳から改名)優秀100句が決まった。名調子とはいかないものの、8万5437句から選ばれた作品を幾つか紹介したい。「また値上げ節約生活もう音上げ」健康奉仕。食品と燃料だけでも苦しいのにとうとう電気まで。「Z世代対応悩むゆとり世代」アラサー軍曹。それを新人類が遠くからなすすべなく眺めている

 ▼「祖母踊るきつねダンスが太極拳」カクト。エスコンフィールドでぜひ披露してほしい。「ふるさとは返礼品で変わる俺」こゆきのじいじ。ふるさとは遠きにありて思うものから、身近で味わうものに変わったらしい。今回も新型コロナを題材にした句は多かった。「オレオレとマスク外して顔認証」生存認証機。知り合いか赤の他人か、すれ違うときが悩ましい。わざとよそを見たりして。「歓迎会開かれぬままもう異動」3年と3日。中にはリモート続きでほぼ出社しないまま異動になる人も

 ▼社会の正常化で念願がかなった人もいるようだ。「動画から抜け出た孫をやっと抱く」中年やまめ。優秀100句全作品を見たい方は同社HPでどうぞ。3月19日まで、ベスト10を決める投票も受け付けているそうだ。


暫定2車線の道東道

2023年01月27日 09時00分

 備えあれば憂いなしというが、想定を大きく超える出来事が起きるとせっかくの備えも追い付かないことがある。10年に一度といわれる今回の大寒波でも全国各地で車が立ち往生した。渋滞で丸1日近く車内で過ごした人もいたようだ

 ▼命に関わる危険があるとの気象情報を聞かされ、多くの人がある程度用心をしていたはず。ただ、短時間にこれだけ大量の雪が降ったのでは、多少の備えがあってもお手上げである。雪に慣れた本道なら同じ条件でもここまでの事態にはなるまい。インフラや除雪体制、人の意識が克雪に最適化されているからである。とはいえ一部のインフラに関しては心配もないではない。暫定2車線の高速道路の話である

 ▼中でも道東道は心臓に悪い。23日には香港の観光客が穂別町長和のトンネルで対向車線の壁に激突。24日にも夕張市の橋でライトバンが対向車線に飛び出し、大型バスと正面衝突した。中央の分離はポールとワイヤのみ。何かあると簡単に対向車線へ飛び出してしまう。通常の4車線なら構造的に防げた事故が、暫定2車線では防げない。事実、国土交通省が高速道路6社の路線を調べたところ、2016年に事故などで通行止めになった時間は道東道占冠―トマム間が全国ワースト1だった

 ▼同年8月の台風に伴う豪雨で274号日勝峠が崩落し、1年余りの全面通行止めを強いられたとき、道東道が東西を結ぶ生命線となったのは記憶に新しい。物流に観光に生活にと、道東道の役目は今ますます重い。危険は十分に想定できているのだ。備えを急いだ方がいい。


強盗団の深い闇

2023年01月26日 09時00分

 大手ハンバーガーチェーンなどファストフード店の接客の仕方が不快だと、話題になることが以前はよくあった。客が慣れたのか店が改善したのか、昨今はあまり聞かれなくなったようだ

 ▼不快の原因は徹底したマニュアル化にあった。応対方法が細かく決められているため、動きも言葉も機械的になりがちで温かみがない。さらに流れを無視して「ポテトはいかがですか」「ドリンクはいかがですか」と勧めてくる。客の様子や反応にはお構いなし。言われたことをロボットのように実行するだけなのだから始末が悪い。とはいえマニュアルさえあれば、アルバイトのような未経験者でもすぐに店頭で仕事ができる。優れたシステムではあるのだろう

 ▼そんなマニュアル化が凶悪な犯罪にまで広がっている可能性が出てきた。最近、関東を中心に各地で相次ぐ強盗事件である。黒幕の指示役がSNSで「闇バイト」を募り、金品を強奪する手口を細かく教えた上で実行させる構図が浮かび上がってきているという。事件は1都7県で十数件発生。3人程度で人のいる住宅に押し入り、金品のある場所を聞き出して奪うのが決まったやり方だ。目的のためには暴力をいとわないところも共通している。狛江市の事件では住人の女性が殺害された

 ▼警視庁などは既に十数人の容疑者を逮捕。スマホの履歴から強盗団のつながりが分かったという。どうやら裏に素人でも実行できる強盗のマニュアルを用意し、操っている人物がいるらしい。マニュアルで罪悪感は薄まっても、犯した罪が軽くなるわけではないのだが。


車いすテニスのレジェンド国枝慎吾引退

2023年01月24日 09時00分

 ニュースで話題になった人の人生をたどる読売新聞の名物企画「あれから」をまとめた、『人生はそれでも続く』(新潮新書)に懐かしい名前を見つけた。1981年公開の映画『典子は、今』の主人公、典子さんである

 ▼薬害により両腕のない状態で生まれた一人の女性の日々を描いた実話映画だった。本人が主演を務めたのである。まだ障害に対する理解が低かった時代のこと。懸命に生きる姿は大反響を呼んだ。当時19歳。40年たった今抱くのはこんな感慨らしい。「『典子は、今』のような映画が今の時代、公開されたら観にいきますか? 今は話題にもならないと思いますよ」。それだけ世の中の障害者に対する認識は変わったというのである。垣根がだいぶん低くなった

 ▼この選手も先頭に立って、人々の意識を変えるのに貢献した一人に違いない。車いすテニスの第一人者、国枝慎吾選手(38)である。22日、現役引退を表明。自身のツイッターに、「最高の車いすテニス人生でした」と記していた。金メダルに輝いたおととしの東京パラリンピックは記憶に新しい。直後の全米オープンにも出場し優勝。その鉄人ぶりにも驚かされた。去年はウィンブルドン選手権を制し、「生涯ゴールデンスラム」も達成している

 ▼9歳のころに病気で車いすとなり、2年後にテニスを始めた。自らに「俺は最強だ!」と言い続け、強く鮮やかなプレーを見せることで障害と健常の垣根を壊してきた。簡単な道のりではない。障害者スポーツで障害が話題にならないことが、どれだけすごいことか。最強である。


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