コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 22

謎の気球の正体

2023年02月07日 09時00分

 学校教育でよく使われる音楽カリキュラムに合唱がある。全員が呼吸を合わせ、それぞれの声の個性を生かしながら一つのハーモニーを作り上げるところが教育となじみやすいのだろう

 ▼50年ほど前、筆者が小学生のころは『気球にのってどこまでも』(東龍男作詞、平吉毅州作曲)を練習した。「ときにはなぜか 大空に 旅してみたく なるものさ 気球にのって どこまでいこう 風にのって 野原をこえて」。大空を自由気ままに旅することへの憧れと未来への希望を、高らかに歌い上げる曲だった。今でも歌えるくらいだから、よほど気に入っていたのである。ところがこんなニュースを聞くと、そんなのんきなことも言っていられない

 ▼米国領空を先頃横断していた正体不明の気球は、中国が偵察目的で飛ばしていたものだったというのである。飛行ルートにはICBMを運用するモンタナ州の米軍基地もあったという。米軍は日本時間5日午前、サウスカロライナ州沖合の領海上空で気球を撃墜した。2020年に宮城県などで目撃された白い気球も同じ形状。当時は警戒感も持たず面白がっていたが、やはり中国の偵察気球だった可能性が高い。大空を気ままに旅していると思いきや、実は地上をのぞき見していたわけだ

 ▼報道によると気球はコストが安い上に、偏西風に乗せると米国まで容易に到達させられるのだとか。しかもああ見えて、衛星より高精度の情報も得られるというからあなどれない。これからは先の曲を思い出すたび、習近平中国国家主席のにやり顔を想像してしまいそうだ。


特殊詐欺激増

2023年02月06日 09時00分

 ノーベル賞を受賞した実績のある米国の経済学者、ポール・クルーグマン氏が今回のパンデミックによる景気後退を「人工的な昏睡状態」と表現していた。生活に最低限必要な事柄を除き、経済活動を大幅にシャットダウンさせた結果である。『コロナ後の世界』(文春新書)に記していた

 ▼事故などで脳に重い損傷を負った患者の脳機能を一時的に停止させ、回復を待つ治療法に似ているというのがその理由という。なるほどうまい例えである。実際ほとんどの人にとって、外出や人との接触を半ば強制的に制限されるのは初めての経験だった。いつ覚めるとも知れない悪夢の中に閉じ込められていたようなものだ

 ▼それだけに去年からの行動制限全面解除は、うれしいのひと言。これでやっと仕事も遊びも元通りにできる。多くの人が胸をなで下ろした。経済活動が回復軌道に乗るのは歓迎すべきことである。ところが「人工的な昏睡状態」にあったのは普通の人々だけではなかった。詐欺師もだったのである。警察庁が2日発表した特殊詐欺の認知・検挙状況によると、2022年の認知件数(全国)は前年比20.8%増の1万7520件と大幅に増加した。コロナが始まった20年から件数は減っていたのに、一気に反転したのだ

 ▼被害総額も28.2%増の361億円と背筋が寒くなる金額。一方で検挙件数が0.4%増の6629件とほぼ横ばいにとどまっているのをみると、ずる賢さは増しているに違いない。動けない間にも策は練っていたのだろう。詐欺師連中だけはずっと昏睡させておきたかった。


盗まれた仏像

2023年02月03日 09時00分

 物は本来あるべき場所に戻さなければならない。それを少し文学的に表現した言葉に「カエサルの物はカエサルに」がある。新約聖書に記されたこんな一幕がもとになっているそうだ

 ▼ローマ帝国と距離を置いていたイエスをわなに掛けようと男が聞く。「帝国に税金を納めるべきでしょうか」。イエスは貨幣に皇帝の肖像があることを確認した上で答えた。「カエサルの物はカエサルに、神の物は神に返しなさい」。今では宗教色抜きでことわざのように使われている。それだけ世の中には、本来あるべき場所に戻っていない物が多いということか。2012年に韓国の窃盗団によって長崎県対馬市の観音寺から盗まれ、韓国に持ち込まれた県指定有形文化財「観世音菩薩坐像」もその一つ

 ▼捜査当局が窃盗団を摘発し、仏像は韓国政府管理となったが、韓国内の浮石寺が「倭寇」で奪われた物だと所有権を主張。政府に引き渡しを求める裁判を起こし、17年の一審では浮石寺の所有権を認定する判決が出ている。これには日本も開いた口がふさがらなかった。盗品と知って返さないなど国際法上ありえない話だ。日本政府は強く返還を要求。さすがにまずいと思ったのか、韓国政府も控訴していた

 ▼高裁には良識があったらしい。1日、一審判決を取り消し、観音寺の所有権を認めた。観音寺には李氏朝鮮の仏教弾圧で壊される仏像を日本に移したとの伝承があるという。遠い昔、彼の地にあったのは事実。ただ、長く守ってきたのは観音寺だ。観音寺の仏像は観音寺に、歴史のことは歴史に返した方がいい。


バックカントリー

2023年02月02日 09時00分

 大正から昭和初期にかけて活躍した孤高の登山家加藤文太郎が、自身の山行を記録した著書『単独行』に「冬山の第一の危険は雪崩である」と書いていた

 ▼登山の基本とされるパーティー行動を好まず、たった一人で山に挑み、数々の偉業を成し遂げた文太郎である。何よりも遭難を警戒していたのだろう。リスクの極めて高い雪崩に、人一倍神経をとがらせていたことが分かる。観察と研究もかなりしていたようだ。雪崩については一項を設け、発生に至る動態を詳しく説明している。強調していたのは、「登降を試みるなら、雪の降り始めに行うべきで、決して降雪の止む頃に敢行してはならない」。降雪後の青空の下で新雪と戯れるのは爽快だが、積もった雪が一気に滑り落ちるのもまさにそんなときなのである

 ▼スキー場のゲレンデ外で滑走を楽しむバックカントリー中に、雪崩に巻き込まれる事故が全国で相次ぐ。先月29日に長野県小谷村で起きた事故では、米国とオーストリアの男性2人が亡くなった。やはり大寒波に伴う降雪が終わった頃合いだったようだ。31日には鳥取県の大山でも2人がけが。本道でもことし早々、羊蹄山で外国人の女性1人が死亡している

 ▼バックカントリーは世界中で愛されているスポーツ。軽々に批判すべきではない。ただ参加者たちは文太郎くらいしっかりと雪崩の研究をしていたのかどうか。その山特有の雪崩のくせや雪の降り方、風の流れを把握していないと、自ら危険に飛び込んでいくことになる。欧米に比べ低いからといって日本の山を甘く見てはいけない。


回転ずし店の迷惑客

2023年02月01日 09時00分

 作家の橘玲さんが人の本性について考察した『バカと無知 人間、この不都合な生きもの』(新潮新書)で興味深い事例を紹介していた。米国で男が白昼堂々、顔も隠さず銀行に押し入った話である

 ▼犯人はすぐに捕まったのだが、その時にこんなつぶやきを漏らしたそうだ。「だって俺はジュースをつけていたのに」。一体どこで何を間違えたのか、顔にレモン汁を塗ると透明人間になれると信じ込んでいたらしい。ある社会心理学者がなぜそんな勘違いをするのか疑問に思い、実験で確かめたという。分かったのは、「能力の低い者は、そもそも自分の能力が低いことを正しく認知できていない」こと。橘さんはそれをこう言い換えている。「バカの問題は、自分がバカであることに気づいていないことだ」

 ▼いささか直接的すぎる表現とはいえ、最近世間をあきれさせている出来事を見ると、さもありなんの感も否めない。回転ずしでレーン上のすしやしょうゆ差しにつばを付け、元に戻す高校生の話である。「スシロー」でそんな不潔な行為に及び、喜んでいる動画がSNSに拡散している。気持ちが悪くて店に行けなくなる人も出てこよう。信頼で成り立つ社会を破壊する悪質な行為である

 ▼このところ「はま寿司」や「くら寿司」でも他の客のすしを食べたり、大量のわさびをのせたりといたずらが相次ぐ。軽いお遊びのつもりだろう。ただ現実には多大な損失を伴う営業妨害である。たぶん本人は自分の問題にもことの重大さにも気づいていない。店は法的措置を講じて責任を自覚させた方がいい。


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