コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 251

国家主席の任期撤廃

2018年02月28日 07時00分

 旧ソ連でレーニンに次ぐ2代目の最高指導者となったヨシフ・スターリンは1924年から53年までその地位にあった。つまり73歳で死去するまでである

 ▼在任中に1000万人以上の「反体制分子」を殺害したとされるスターリンだが、34年に行われたインタビューでは恐怖政治についてこう話していた。「人民をおびえさせるだけで十四年間も政権を握ることが可能だと、あなたは考えるのですか。不可能です」。また「独裁者にはならないのか」との問いには、ソ連の指導機関には70人の委員がいると前置きし、「それぞれの人間が審議に参加するからこそ、われわれの決定は多少なりとも正しいものになるのです」と答えている。『インタヴューズ』(文藝春秋)に教えられた。うそをついたのか本気だったのか、いずれにせよ言行不一致も甚だしい

 ▼中国共産党が国家主席の任期を撤廃する憲法の改正を提案したとの報に触れ、内には全体主義、外には鉄のカーテンを敷いたスターリンを思い出した次第。改正が実現すると2期10年のタガが外れ、習近平主席に死ぬまで最高権力者でいる道が開かれる。共産党一党独裁の中国でもまさか今の時代にスターリニズムのようなことは、と思いたい

 ▼ただ政敵を排除し、後継者を育てず、言論弾圧を強める習氏の姿勢を見ると、杞憂(きゆう)とも言えない気がするのである。もし習氏にインタビューしたなら、やはり恐怖政治への不安など一蹴するに違いない。ところが毛沢東元首席の例を見ても分かる通り、歴史はそれと逆の答えを示しているのである。


平昌五輪閉会

2018年02月27日 07時00分

 同じアパートに住む大学生10人が箱根駅伝で走る夢を追う姿を描いた三浦しをんさんの青春小説に『風が強く吹いている』(新潮文庫)がある

 ▼時に激しく衝突しながらチームワークを培い、ついに本戦出場を果たす。レース最終盤、これを最後に引退するアンカーの先輩走者が心の中でこうつぶやく。「これからもきっと、きみたちはお互いの存在を糧に、高みを目指していくはずだ。だれも行けなかった場所へ」。平昌五輪で銅メダルに輝いたカーリング女子の日本代表「LS北見」を見ていてその言葉を思い出した。メンバーの5人がお互いを深く信じ合い、それを大きな力に変えているのを見たからである

 ▼全員が同郷とはいえ元はそれぞれ別のチームで活動し、栄光と挫折を味わってきた。本橋麻里選手の呼び掛けでLS北見に結集してからの道のりも、決して楽ではなかったと聞く。厳しい時期を乗り越えてのメダル。うれしさもひとしおだったろう。競技中のあの笑顔は日本中を明るくもしてくれた。お互いの信頼といえばスピードスケート女子団体追い抜きで金を獲得したチーム4人を忘れるわけにはいかない。息の合った「ワンライン」の滑り。新たな氷上の芸術を見る思いがした。高木菜那選手はそのままの勢いを駆って女子マススタートでも金。快挙を達成した

 ▼ただ同じ五輪選手でも、サポート環境に恵まれず練習もままならない人は今も少なくない。大きなチームである日本社会がもっと彼らの糧になり、一人でも多くの選手が「だれも行けなかった場所へ」到達できるといいのだが。


Hondajet

2018年02月24日 07時00分

 本田技研工業創業者の本田宗一郎氏は、自ら小型機の操縦かんを握るほどの飛行機好きだった。当時、飛行機をげた代わりに乗り回す企業経営者は本田氏くらいしかいなかったらしい

 ▼熱い思いは少年時代からだったようで、こんな逸話が残っている。米国から飛行家が来て、浜松で曲芸飛行をすると聞いた本田少年、いても立ってもいられず親に無断で学校を休み、自転車で20㌔離れた練兵場まで見に行ったそうだ。そんな本田氏のことである。今頃泉下でこの朗報には大喜びしているに違いない。ホンダの小型ビジネスジェット機「HondaJet」の2017年納入機数が、定員10人未満の小型ジェット機部門で初めて世界首位の座を占めたのだ

 ▼全米航空機製造者協会が21日にまとめた集計で明らかになった。それによると納入機数は前年比20機増の43機。主力市場となる米国での販売が好調なことに加え、フランスのエアタクシーサービス提供会社から16機の大量受注に成功したのが躍進の原因という。ホンダ製品は戦後、自転車にエンジンを載せたいわゆる「バタバタ」から始まった。それが70年後、小型飛行機で世界トップを走っているのだから大したものである。庶民には縁遠い乗り物だが、車やバイクでホンダに親しんできた人にとっては成長した子を見るようなうれしさもあるのでないか

 ▼HondaJetはエンジンを翼の上に配置し、機内空間の自由度を高めたのが特徴。ホンダらしい斬新なアイデアを詰め込んだわけだ。本田氏が存命ならきっとこう言ったろう。「俺が操縦する」。


米国の銃規制進まず

2018年02月23日 07時00分

 日頃強く疑問に感じていることがある。説明を聞いても全く理解できない。それは米国の銃規制が遅々として進まない事実である

 ▼先週もフロリダ州のマージョリー・ストーンマン・ダグラス高校で元生徒による銃乱射事件が起き、17人が犠牲になった。実にむごい。にもかかわらず銃規制を訴えたのは事件があった州の生徒たちを中心とする一部の人々だけで、全米を巻き込む大きなうねりにはならなかったようだ。「自分の身は自分で守るという米国の開拓者精神を示すもの」「危険な現代社会で自分と家族の身の安全を確保するための正当な権利」。銃の所持についてはそんな説明をよく聞く。ただ現に銃なしで安全な社会を築いている日本人からすると、その言葉はどこか空々しい

 ▼トランプ大統領は今回の事件を受け、犠牲者を悼むとともに教職員を銃で武装させる案の検討を約束したという。規制は端から眼中にないらしい。もっとも銃規制自体、歴代大統領誰一人として実現できなかった難題である。かなり鈍いようにも思える米国民の反応が気になり、試みに一つの計算をしてみた。報道によると米国の銃による死者数は1年間で1万1000人(2016年)。人口で割るとおよそ10万人に3・4人となる。これは日本の交通事故死者数3694人(17年)の2・9人とさほど変わらない

 ▼つまり個人の日常経験としては、どちらもめったにない出来事なのである。身近でない話に真剣になれないのはいずこも同じ。最大の敵は銃規制反対派でもトランプ氏でもなく、無関心なのかもしれない。


JR北海道への不満

2018年02月22日 07時00分

 世界中の子どもたちに愛されている藤子・F・不二雄さんの漫画『ドラえもん』に欠かせない登場人物といえば「のび太君」である。ご存じの通りこの少年、いつもめっぽう頼りない

 ▼知力体力が少々心もとないところに気弱な性格も災いし、よく問題に巻き込まれる。そこでドラえもんの秘密道具に頼るわけだ。「何とかして」と泣くのび太君にドラえもんは決まってこう言う。「しょうがないなあ、のび太君は」。のび太君へのような優しい口調でなく、諦めとイライラが混じった調子なのだが最近この「しょうがないなあ」を耳にする機会が増えた。後にこう続くのである。「JR北海道だから」。駅で、職場で、家庭で、と状況は違えど中身は皆同じ。JR北への不満である

 ▼このところ雪の降り方が激しく低温も続くため頻繁にダイヤが乱れる。通勤通学時なら文句の一つも言いたくなろう。ただ雪による遅延などは昔からあった。それでもかつては、こんなあざけりに近い言葉は少なかったのでないか。相次ぐ不祥事と道内半分の路線を維持困難とした発表が印象を悪くしているのだろう。苦しい経営はJR北だけの責任でないが、頼りにしているだけに失望も大きい

 ▼それでも事態は進み始めている。自治体協議がきしりながらも発車。きのう開会した定例道議会では路線問題が中心議題の一つになる。国交省は20日、JR北の線路を別の企業に開放し、観光列車などを走らせる施策を打ち出した。JR北にのび太君になってもらっては困るが周りに手を差し伸べるドラえもんがいることは心強い。


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