コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 249

書き換え森友文書

2018年03月14日 10時55分

 落語に「うそつき村」があるのをご存じだろうか。神田の千三つと呼ばれるうそ自慢の男が、その村のうそ名人をやっつけてやろうと出掛けていく噺である

 ▼上には上がいるのだからうそもほどほどにせよとの思いでうそつき村の存在を教えた旦那は、勢い込んで飛び出そうとする千三つをこう諭す。「なにしろその村にいるものは、ひとりのこらずうそをつくんで、だれも、ほかの村のものはつきあわないそうだ」。「ひとりのこらず」はもちろん言い過ぎだが、「その村」を「財務省」に〝書き換え〟てしまいたいと思っている国民は今、少なくないのではないか。学校法人森友学園への国有地売却に関する決裁文書を、財務省がこっそり書き換えていたことが明るみに出た

 ▼佐川宣寿前国税庁長官の国会答弁と食い違いが出ないようにするため、国会に提出する文書に手を加えたという。これでは夏休みを何もせずにだらだらと過ごした子どもが、教師に叱られないよう日記を作り話で埋めたのと変わらない。そもそも誰が主導し、なぜこんな不正に手を染めたのか。麻生副総理兼財務相は会見で理財局の指示があったと説明したものの、詳細についてはまだ分からないとした。とはいえ財務省が国会に書き換え文書を出したのは事実。民主主義の根幹に関わる由々しき問題である

 ▼ただ、書き換え文書の前後全文に目を通してみたのだが、国会議員らの関与も近畿財務局の意図的な怠慢も読み取れない。森友側のごり押しが気になるだけである。財務省がうそをついてまで隠したかったものとはいったい。


南海トラフ地震

2018年03月13日 07時00分

 シェイクスピアの戯曲「ヴェニスの商人」の舞台となったイタリアのベネチアは「水の都」として知られている。運河が街を縦横に走り、水と生活が密接に結び付いているからである

 ▼それだけに日本では考えられない水との独特な付き合い方もあるようだ。例えば「アクアアルタ」。異常潮位で年に数十回、街が膝の高さまで浸水する自然現象なのだが、市民は長靴を履く程度で普段と変わりなく過ごすのだという。めったに起きない出来事であれば慌て驚きもしよう。ただそれが日常となると街も設備も人の意識も根本から変わらざるを得ない。ベネチアの例は異常を日常の中に組み込みながら賢く暮らすすべを教える

 ▼性質や深刻度は違うとはいえ、ここには津波への対処という点で日本人も学ぶべきところがあるのではないか。そう考えさせられたのは、南海トラフ地震の復興費用が東日本大震災の32兆円を大きく上回る160兆円余りに上るとのニュースを聞いたからである。NHKが11日、伝えていた。永松伸吾関西大教授と宮崎毅九州大准教授が東日本大震災と同じ手法で復興を進めた場合の費用を試算したものという。これだけ膨大では財政が持たない。永松教授らはハード面を中心とする復興の限界を指摘していた

 ▼発想の転換が求められているわけだが、さてどうするか。少なくともベネチア市民のような災害と同居する心構えや備え、減災のための事前のインフラ整備、この二つは必要だろう。南海トラフ地震は30年以内に発生する確率が高い。事後の復興のためには今が肝心なのである。


東日本大震災から7年

2018年03月12日 07時00分

 驚きのあまりしばらく声も出なかった。仙台市宮城野区に立つ中野五丁目津波避難タワーを見上げたときのことである。頂部にある波の表示板まで津波は上がったという。その高さ7m以上

 ▼あの日、ここは深い水の中だったのだ。海の底に取り残された自分の姿がふと頭に浮かび、恐怖感に襲われた。水面は身の丈のはるかに上である。タワーの周囲に広がるのは閑静な住宅街。ほとんどの家屋が津波の下に沈んだ。昨年10月、東日本大震災後初めて宮城を訪れた。地震を経験した仙台の友人に被災地の案内を頼むと、「まず見てもらいたいものがある」と連れて行かれたのがこのタワーだったのである。少しでも震災を分かったつもりでいたのは大きな勘違い。目を覚まされた

 ▼友人は店舗で顧客対応の仕事をしているが、震災後、お得意様何人もと連絡が取れなくなってしまったそうだ。心配になり探しに行ってみると風景は変わり果てていて…。被災地では誰もがそんな経験を胸にしまい込んでいるという。犠牲者数が最も多かった石巻にも足を伸ばし、日和山に上ってみた。当時、不安そうに津波を眺める人々の映像がよく出ていた所である。同じ海側を見下ろしたが目に入るものは多くない。広大な更地の上に復興公営住宅、工場、寺がぽつり

 ▼聞けばここにもにぎやかな街があったのだとか。車を走らせながら、友人がため息まじりにこう言った。「墓地がいっぱいなんだってさ」。横をみるとそこの墓地は新しい墓石で埋め尽くされていた。3・11から7年が過ぎた。まだ7年しかたっていない。


福島のデマを検証

2018年03月09日 07時00分

 英国には「紙は赤面しない」ということわざがあるそうだ。面と向かって言えば恥ずかしくて顔が赤くなりそうなうそや独り善がりな主張でも、文字にすれば臆面もなく流せるとの意味である。誇大広告などはその典型だろう

 ▼ネット社会といわれる今なら、「SNSは赤面しない」の方がぴったりくるかもしれない。何が事実で何が作り話なのか、どれが正しくどれが間違っているのか、見極めが難しい現状である。中でも迷惑なのがデマの類い。東日本大震災から7年もたつのに、いまだに放射能関連で根も葉もない風聞を流布し続けるやからがいるのである。ツイッターやフェイスブックに慣れ親しんでいる人は目にしたことがあるのでないか

 ▼こんな例があった。匿名の人物が、知床でオオカミウオを釣った男性のブログの画像を盗用し、福島第1原発事故の放射能で魚が醜く巨大化したとの記事を作って投稿したのである。記事は信じた人により拡散され、ついに海外のメディアまで取り上げるに至った。オオカミウオを知っていればだまされないが、そんな人は多くない。デマをばらまく者はこうした隙や不安に付け込む。福島で奇形や小児甲状腺がんが多発しているとのデマも同じこと。どちらも科学的に否定されているものの、まだ世の中には浸透していない

 ▼とはいえわれわれが真偽を見抜くのには限界がある。そのときはジャーナリストや学識者が昨年末開いた事実を公平に検証するWebサイト「Fact Check福島」などを活用したい。うっかりとデマに乗って赤面しないように。


安っぽいドラマ

2018年03月08日 07時00分

 日常ありがちな出来事だからだろう。テレビドラマや小説でこんな場面が時折出てくる。聞けば誰もが一つや二つ思い出す話があるのではないか

 ▼金遣いが荒く乱暴者のため近所で嫌われ者の息子がいる。普段は家に寄り付きもしないのに、ある日ふらりと帰ってきた。態度が妙にしおらしい。愛想もいいし口から出る言葉も穏やか。両親があっけにとられていると息子が言う。「今すぐ金が必要だ。貸してほしい」。困ったときだけ改心したかのような演技をしているわけ。「今度こそ本気かもしれない。貸してあげよう」と言う母親に、父親が「だまされるな。いつものうそっ八だ」と返して夫婦げんかが始まるのもお決まりの展開である

 ▼そんな安っぽいドラマを、緊張高まる現実の国際舞台で見せられることになろうとは思わなかった。平壌で6日開かれた韓国と北朝鮮との会談の件である。そこでの金正恩朝鮮労働党委員長のにこやかな顔といったら。ドラ息子以上の豹変(ひょうへん)ぶりではないか。席上、北朝鮮は自ら朝鮮半島非核化の意志を明らかにしたという。追加の核実験や弾道ミサイルの発射は控え、米国と対話する用意があることも表明したそうだ

 ▼耳に心地良い内容ばかりで韓国は大喜び、中国とロシアも歓迎している。一方で日本と米国は懐疑的といったところ。これまで何度も茶番が繰り返され、毎度腹立たしい思いをさせられてきたのだから当然である。新たな劇が始まったからには当面様子見するほかない。ただ今回も三文芝居の気配が濃厚だ。主役もすぐに馬脚を現そう。


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