コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 252

働き方改革

2018年02月21日 07時00分

 日本人ビジネスマンの特徴を滑稽に表現したジョークにこんな内容のものがある

 ▼ある人に、社員を猛烈に働かせることで知られる米国企業への出向辞令が下った。出勤すると新しい上司が言う。「あすから週6日、1日12時間ずつ働いてもらいたい」。それを聞いた日本人は驚いて答えた。「はるばる日本から来て、そんなパートタイムの仕事だなんて…」。『世界の日本人ジョーク集』(中公新書)から引いた話。職場に長時間いないと働いた気がしない、というのが高度成長期以来の日本のサラリーマン意識だった。まあ正味どれだけ仕事をしていたかは言わぬが花。ただそれも昔話で、今は労働人口が減って一人当たりの仕事量は多く、いくら働いても仕事に追い付かない人が増えている

 ▼それを改善しようと出てきたのが多様で健康に働ける環境を整える政府の働き方改革。ところがここにきて肝心要の裁量労働制の部分にデータ誤用のあることが分かり、法案の土台が揺らぐ事態に陥っているのである。厚生労働省が一般労働者、裁量労働者それぞれに対し違う形式で実施した調査を安易に組み合わせ、「裁量労働の方が働く時間が短くなることもある」と誤った結論を導いたのである。国会でこの通りに答弁した安倍首相は野党の追及を受け、撤回と謝罪に追い込まれた

 ▼そんなデータはどこにもなかったのだから当然である。厚労省はなぜこんなずさんな分析をしてしまったのか。忙し過ぎて仕事が回っていなかったのかもしれぬ。働き方改革を主導する厚労省がこれではジョークにもならない。


日本に金メダル

2018年02月20日 07時00分

 冬季五輪が開かれている韓国平昌の夜空に17日、金銀両メダルの獲得を知らせる2本の日の丸の旗が掲げられた

 ▼その光景をテレビで見ていて、1972年の札幌冬季五輪スキージャンプ70m級で笠谷幸生選手らが表彰台を独占し、3本の日の丸が上がった昔日を思い出した人も少なくなかったろう。筆者もそうで、少年時代ゆえ国旗に特別の思いがあったわけではないが、今回同様ずいぶん誇らしい気がしたものだ。同日行われたフィギュアスケート男子フリーで羽生結弦選手が金、宇野昌磨選手が銀を決めたのだった。同一種目での日本人選手の金、銀獲得はその札幌冬季五輪の「日の丸飛行隊」以来の快挙である。しかも羽生選手は五輪連覇。この種目では66年ぶりだという

 ▼とはいえそんな記録などどうでもいい。あえてそう言いたくなるほど羽生選手の演技には唯一無二の輝きがあった。心の中で燃え盛る火まで見えるような鬼気迫る動き。出場が絶望視された右足首靱帯損傷からの見事な復活劇である。翌18日、さらに一人、日本に金メダリストが生まれた。スピードスケート女子500mの小平奈緒選手である。最後までスピードが伸び続ける圧巻の滑り。その瞬間、日本中で歓喜の声が上がったろう

 ▼胸が熱くなることは競技後にもあった。銀で悲嘆にくれる韓国の李相花選手に小平選手が駆け寄り、健闘をたたえ、2人はそれぞれの国旗を掲げながらしばらく並走したのである。カメラが一部始終を映していた。国旗は主役にはなりえない。ただ、ときに言葉以上にドラマを物語ることがある。


第31回サラ川優秀100句

2018年02月17日 07時00分

 サラリーマンは気楽な稼業ときたもんだ―(『ドント節』)。植木等さんはかつてそう歌ったが、今のデフレと格差の時代にはなかなかそうもいかないようだ

 ▼おととい発表された第一生命保険「第31回サラリーマン川柳」優秀100句が、悲哀を笑いに変えながらその実情を教えてくれる。「業績はいいと聞くのに感じない」みや、「静かだね部長がいないとプレミアム」小さな幸せ。思わず深くうなずいてしまう。ことしは全国から4万7559句の作品が届いたそうだ。ベスト10を決める投票も始まっている。気になった作品を見ていこう。「言ったけどだれに言ったかわからない」よみ人知らず。指示したはずだが君にではなかったか…。「電子化について行けずに紙対応」トリッキー。会社も高齢化が進む

 ▼「相談は上司先輩よりネット」プロキシマV。今どきは人間関係より電子関係重視。「辞めますもSNSで済ます部下」旧新人類。「LINE」経由で辞表が送られてくるのも珍しくはないらしい。今回も家庭ネタは豊富である。「俺ん家も長期政権嫁一強」やす。夫としては妻への「忖度」も欠かせないところ。「禁煙しそれでも家で煙たがれ」片根武。安らげる場は帰り道にある一杯飲み屋だけだということか。「ままごともパパが買い物行かされる」光源氏。妻にも娘にも便利屋代わりに使われる

 ▼いやいや、それでも頑張りを分かってくれる理解者は必ずいるはず。「父さんの苦労知ってる靴の底」可可子。苦労を分かち合えるのが靴だけとは。優秀100句全作品は同社HPでどうぞ。


五輪での差

2018年02月16日 07時00分

 詩人天野忠に「きりん」の詩がある。前半を引いてみよう。「あんたが 見つめているものは あんまり高いので わたしは 見つめることができない。あんたが 思いつめていることを 思いあてることは とてもできない」

 ▼連日、平昌冬季五輪で熱い戦いを繰り広げるアスリートたちを見ていて、この詩と同じ気持ちにさせられている。もっともこの場合、彼らは同じキリンでも「麒麟」の方なのかもしれない。選手それぞれの見つめているものが高いのだから、頂点を懸けた戦いが伯仲するのも当たり前。日本人メダリストと金メダリストとの点数やタイムの差を見て、それを実感する毎日である

 ▼各選手の差は銅の男子モーグル原大智4・44点、銀のスピードスケート女子1500m高木美帆0秒2、銅のジャンプ女子高梨沙羅20・8点、銀のスノーボード男子平野歩夢2・5点、銀のノルディックノーマルヒル渡部暁斗4秒8、スピードスケート女子1000m銀の小平奈緒0秒26、同銅の高木0秒42。何と僅差であることか。屋外なら風の一吹きや雪面の乱れ、屋内ならわずかなリンク面の荒れや一瞬の気の迷いで命運が分かれてしまう。結果を嘆いても仕方ないが、日本選手が金メダルでも決しておかしくはなかったのだ

 ▼「きりん」の詩は「けれど」と続く。「あんたの姿は あんまり自然なので よく判る。涙が出るほど わかる」。われわれに選手と同じものは見えない。ただ五輪にかける彼らの真剣な思いは分かるつもりでいる。きょうも涙が出るのを止められない観戦者は多いだろう。


木造超高層建築

2018年02月15日 07時00分

 法隆寺の宮大工棟梁西岡常一さんの卓越した技能と知識には寺社仏閣の専門家もこうべを垂れるしかなかったという。誰よりも木のことを知っていたからである

 ▼『木のいのち木のこころ』(新潮文庫)でこう語っていた。「木は大自然が生み育てた命ですがな。木は物やありません。生きものです。人間もまた生きものですな。―この物いわぬ木とよう話し合って、命ある建物に変えてやるのが大工の仕事ですわ」。住友林業(東京)が先週発表した木造超高層建築開発構想「W350計画」を聞き、西岡棟梁のその話を思い出した。規模は70階、延べ45万5000m²、高さ350m。技術の粋を集めた木造建築という意味では、現代の法隆寺と言ってもおかしくない。木との話し合いも相当込み入ったものになろう

 ▼木造建築物を増やしてそれらをつなげ、「街を森にかえる」のが構想の全体像。超高層は「縦型の森」として象徴的存在になる。創業350周年を迎える2041年の実現を目指すとのこと。本当に木造でできるのかと疑問もわくが、木材の柱と梁に鉄骨ブレースを加えた木造比率9割のハイブリッド構造を使うらしい。地上から高層階まで外部は緑であふれ、内部は純木造。設計は日建設計の協力を得ているそうだ。山を循環させることで林業と環境を再生し、CO²の固定化にも貢献する

 ▼西岡棟梁はこうも言っていた。「木の命と人間の命の合作が本当の建築でっせ」。形は変わっても木の命を大切にする文化が受け継がれ、さらに進歩していくならこんなに素晴らしいことはない。


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