コラム「透視図」 - 北海道建設新聞社 - e-kensin - Page 273

北朝鮮への追加制裁

2017年09月14日 09時15分

 SF作家星新一のショートショートに「世界の終幕」がある。世界中のたくさんの家庭に、ある日小さな包みが配達されるところから話は始まる

 ▼入っていたのはダイヤルと押しボタンが付いた小型の機械。同封の説明書を読むと、全世界の核兵器を一挙に爆発させる装置だという。テレビをつけると、開発した科学者がこう語っていた。「ひとにぎりの人たちが握っていたその権限を、大衆の手に開放したのです」。大衆とはいかないものの、「俺にだけは押しボタンをよこせ」と要求しているのが、北朝鮮の金正恩朝鮮労働党委員長だろう。一握りの国だけが権限を持っているのはおかしいとの主張である

 ▼正論のようにも聞こえるが、実際は核の均衡を根底から覆す危険な考えというほかない。現行の核不拡散体制は理想の形ではないにせよ、長期的には核兵器廃絶を目指し、適正に維持管理できる5カ国にのみ保有を限って不慮の事態を避けようとするものである。独裁者のわがままが入り込む余地はない。国連安保理が11日、北朝鮮への追加制裁決議を採択した。石油輸出に上限を設けたほか、各種手立てで輸出収入の9割削減を見込むそうだ。6回目の核実験から時をおかず、中国とロシアを含む国際社会が足並みをそろえた意義は大きい

 ▼さて冒頭の装置の正体は、世界を終わらせようとボタンを押す危険人物を爆発させる仕掛けだった。金正恩氏が今しているのも似たようなこと。核実験のボタンを押すごとに、国も人民も著しく痛手を負っていく。行き着く先に平和な未来があるはずもない。


国立アイヌ民族博物館

2017年09月13日 09時09分

 アイヌ民族として初めて、1994年から98年にかけて国会議員を務めた萱野茂さんは、一人の老人が語ったこんな言葉を忘れることができなかったという

 ▼「土を掘れば、石器も土器も出てくるが、言葉、おれたちの祖先の言葉は出て来ないもんなー。言葉は土に埋まっていない」。80年に出した著書『アイヌの碑』に記していた。守る努力をしなければ遠からず文化は消えてしまうと危機感を抱いていたのである。国連総会で「先住民族の権利に関する国連宣言」が採択されてから、きょうでちょうど10年になる。これに後押しされる形で衆参両院は「アイヌ民族を先住民族とすることを求める国会決議」をまとめ、政府もやっとアイヌを正式に先住民族として認めたのだった

 ▼宣言は、国が先住民族としてのアイヌの権利を守る制度的枠組みをつくり始めるきっかけになったといっていい。ただしそれは惜しくも宣言採択の1年前に亡くなった萱野さんの地道なアイヌ復権の取り組みがあったからこそである。これもその延長線上にあるというべきだろう。開発局営繕部が、国立アイヌ民族博物館の主体を早ければ来週早々にも公告するそうだ。きのうの本紙1面に出ていた。歴史や文化への理解を深め、広く情報発信をする施設である

 ▼アイヌ語が日常的に学ばれ、当たり前に聞かれる空間になれば、「言葉は土に埋まっていない」と嘆いたあの老人の魂も救われよう。過去を陳列棚に飾るだけの博物館にとどまるのでなく、民族の多様性を認め次代のために寛容な社会をつくる最前線にできるといい。


桐生選手9秒台達成

2017年09月12日 09時10分

 誰でも一度や二度は人生に行き詰まりを感じたことがあるのではないか。10年ほど前、そんな人を支え励ます歌がはやった。シンガーソングライター馬場俊英さんの「スタートライン~新しい風」である

 ▼歌詞の中に胸を打つこんな印象深い一節があった。「だけど そうだよ どんな時も 信じることをやめないで きっと チャンスは何度でも 君のそばに」。歌に勇気や希望をもらった人も多かったに違いない。9日の陸上日本学生対校選手権男子100m決勝で東洋大の桐生祥秀が日本人初の9秒98を記録し、「世界のスタートラインにやっと立てた」と語っているのを聞きその歌を思い出した

 ▼桐生選手も高3で10秒01の自己ベストを出して以来、それを更新できず「くすぶっていた」ことに苦しんできた。今大会も左太ももに違和感を持ちながらの出場だったという。ただそれがかえってスタートの思い切りにつながったらしい。自分を信じ、何度でもチャンスに挑んだ末につかみ取った9秒台である。日本初ではないにせよ、自分初のスタートラインといえば就職もその一つだろう。来年春採用の就職戦線も既に佳境を過ぎ、内定を決めた学生らが随分といるようだ。桐生選手の快挙に自らを重ね、気合を入れ直した人もいたのではないか

 ▼まだ内定が決まっていない人も腐ることはない。「くすぶっていた」期間が長くても、自分を信じ挑戦し続ければいつか栄光は訪れる。案外、悩み試行錯誤している時間こそが成長の糧になるのかもしれぬ。桐生選手の9秒98はそんなことも教えてくれた。


プーチン氏の思惑

2017年09月09日 09時09分

 ロシアには「錐(きり)は袋に隠せない」ということわざがあるそうだ。錐がすぐ袋を突き破って出てしまうことから、うまく取り繕ったつもりでも隠し事は容易に露見することを例えたものという

 ▼おとといの日ロ首脳会談でのプーチン大統領の発言も、そんなことわざを地でいくものだったのでないか。安倍首相が北朝鮮に一層の圧力が必要と主張したのに対し、大統領は対話以外に道はないと強調したのである。これだけ聞くと北朝鮮の政情にも配慮した穏健路線のようだがそうではあるまい。徹底した制裁強化で国際世論を引っ張ろうとする米国への意趣返し。袋の中に隠そうとしている錐の先は、太平洋を挟んで東に位置する因縁のライバル国に向いているわけである

 ▼北朝鮮をだしに、自国の立場を少しでも有利にしようとの政治的駆け引きだろう。ロシアにはこんなことわざもあった。「熊が踊ってジプシーが金を取る」。北朝鮮を踊らせておくことで、存在感を発揮し発言力を高められるのである。いわゆる「一強」に陰りが見えてきたせいでもあるまいが、今回の会談ではさしもの安倍首相もプーチン大統領の策略にまんまとはまってしまったようだ

 ▼北方領土と北朝鮮、二つを人質にとられて確かに分は悪かった。とはいえ北方領土問題では共同経済活動5項目に合意したものの難航必至、北朝鮮に関してはほぼゼロ回答と何とも寂しい限り。プーチン大統領は今、してやったりの心境かもしれないが、独善に陥っていると、袋に隠した錐の先端が次は自分に向けて突き出るかもしれぬ。


痩せ過ぎはダメよ

2017年09月08日 09時08分

世界中に似たような話が幾つもあるらしい。「胃袋への反乱」(『魔法の糸』実務教育出版)という昔話のことである

 ▼手と足と口と脳はそろっていつもこんな強い不満を抱いていた。自分たちは一日中あくせく働いているのに、胃袋ときたら一つ所にじっとして食べ物をむさぼっているだけじゃないか。ある日、不公平さに我慢ならなくなった彼らは怠け者の胃袋を困らせてやろう、と一斉に働くのをやめてしまう。結果はご想像の通り。人間は元気を失い、ついに動けなくなってしまうのである。これは昔話だが、現代ならきっと全く逆の形の話も生まれるだろう。こんな風に

 ▼手と足と口と脳が文句を言う。胃袋ときたら毎日よく働き過ぎて、われわれはぶくぶく肥え太るばかりだ。このままでは大変なことになるから、病的に働く胃袋に食べ物を送るのはやめてしまおう。まあ、結末は同じ。極端に走ればやはり人間は健康を害してしまう。行き過ぎたダイエットから拒食症に陥ってしまう例もあるようだ。フランスの高級ブランド、ルイ・ヴィトンを抱える「LVMH」とグッチを擁する「ケリング」の両グループが、痩せ過ぎのモデルはファッションショーに起用しないことを決めたとの報に触れ、胃袋の話を思い出した

 ▼彼の地ではモデルに憧れた若い女性の拒食症が社会問題になっているという。人ごとではない。日本でも患者は増えているそうだ。先の昔話はそれぞれが大切な役割を果たしてこそ全体が成り立つと教えている。これを機に胃袋を困らせる悪しき習慣もなくなればいいのだが。


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